4・【望み通り、お前をブっ飛ばしてやるッ!】
隠された闘争本能は目覚め、
その紅き眼を光らせ、獲物を狩る。
喰われるモノと喰うモノ。
血と血と血の混ざり合い。
闘争の快楽に身を委ね、溺れるモノは負け、
闘争の快楽に身を委ね、その本能を、
内なる衝動を己が意思で司れ。
其の本能をコントロール出来ぬ弱者は決して、
護る事も、傷付ける事も叶わぬ。
結局、本能は本能であり、一種の生命であり
他者の介入出来るモノではなく。
司れるか、 司れぬのか、
それが肝心な事である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
彼は、その紅い眼をぎらつかせて、強盗共を見据えていた。
まるで、新しい獲物を見つけた肉食獣の様に…。
不本意ながら、強盗共と闘う事になった彼。
が、周囲から見れば不本意だとは思えない程、彼の眼は輝いている。
彼自身、としては不本意なのだろうが、もしかすると。
剣士である、本能が反応しているのだろう。闘いの訪れに。
「てんめぇ… 何で余裕かましてられンだ!?」
再び強盗の怒声が響く。
余裕と酔いを見せている彼に向かって。
彼は、その常人ならば震え上がる怒声を浴びせられても、
変わらず余裕を見せる。
…寧ろ、笑ってすらいる。
「何で余裕かましてられかって…?
別に意味はねェーよ。 ただ、お前が面白ェって思ってるだけだっつーの」
「なッ」
「だってよ?お前ら、強盗だろ? 強盗だから面白ェんだよ、馬鹿らしくて」
「なァ…にィ…?! 馬鹿らしいだと…、 てめぇ、そろそろ馬鹿にするのも…
いい加減にした方がいいぞ…、 俺様怒っちまうからよ…!?」
周りからはどう見ても挑発だった。
彼の余裕と、態度と、言葉と。
どこから、どう見ても親玉をからかってる様にしか見えない。
この先の展開を察した者は目を伏せ、
逆に好奇心のある者は、この二人のやりとりに眼を見張る。
そして、紅ノ剣士が、トドメの一言を言い放つ。
「もー怒ってるだろお前…。」
空気を読まず、親玉の発言に突っ込みを入れた。
当然の如く、それは親玉の怒りに拍車をかける。
暴れ狂う馬の如く、噴火する火ノ山の如く、親玉の怒りは沸点を迎える。
酒場の近くで昼寝をする猫、ドアの付近で蹲る犬は 逃げ出した。
「… …もう、許さん。
おいお前ぇらァ!! この青二才をブッ殺しちまえェェェェ!!!!」
親玉が命令の声を上げる。
耳を塞ぎたくなる様な、ドスの利いた大声を反響させ。
その号令と共に、彼のを取り囲んでいた部下らが、一斉に動く。
ある者は奇声を上げ、ある者は無表情で、また、ある者は笑い狂いながら。
凶器を振り翳し、彼に襲い来る。
「殺せ殺せ殺せェ!殺してしまえェ!」
「死んで後悔するんだなァー!」
「貴様の様な不純物は浄化してやるぜエェ!」
「俺の相棒のエサになっちまいなァ!」
強盗達の言葉が交じり合う。
誰が、何を言っているかは聞こえない。
この場の客らは耳を塞ぐ。
…紅ノ剣士は、それを聞こうとはしていない。
彼の姿は、無音の中に立つ石柱の様で。
強盗らの中心にいる彼は、ただただ、自らに襲い来る者らを、
その紅い眼で見据えている。
高揚とした色を見せて。
同時に軽蔑の眼差しをも伺える。
者らは、叫ぶ、喚く、乱舞する。
凶器を手にした強盗らが、彼を今まさに、殺傷しようと―――
瞬間、
紅色に染まった白銀の閃きが解き放たれる…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何かが積み重なって、倒れ臥せる音。
その静寂は、閃きが呼んだ光景なのか。
者らが倒れる光景は、最早美しかった。
十数人の強盗の部下らが、鈍く音を立てて崩れる様は。
閃きが、者らを刈り取った。
「…、心配はいらねェぜ。
全員峰打ちにしてやったからよ。俺は無駄な犠牲を出したくねェからな」
「けど、意外にもアッサリ倒れちまったなァ…。
多勢に無勢なんだし、もちっと頑張ってくれるかとも思ったんだが…、
すまねェ、期待した俺が悪ィな」
閃きを放った紅ノ剣士はそう言った。
彼は殺さなかった。
襲い来る者らは全て、『峰打ち』で刈った。
打たれた者らは、大抵が気を失っていた。
中には、意識の残った者ら、朦朧とする者らはいたが…
とても闘える様な状態ではない。
先程の一撃で、体力と同時に、精神までをも打たれたが故に。
紅ノ剣士の一撃は、想像以上のモノだった。
瞬間何が起きたかを解する事が出来なかった、手を上げたままの客らは
先程までベロンベロンに酔っ払っていた剣士の成した事に驚愕の色を見せる。
この男なら強盗を撃退出来てしまうのではないのか!?
この場に居る者は、そう想い、願った。
一方の、強盗の親玉は…
己の眼前で、圧倒的一撃を見せ付けられ、表には出さぬものの、恐怖していた。
自分を馬鹿にした酔っ払い男が、これ程の人物だったとは。
恐怖を彼に悟られない様に、強い表情を作る。
全身の毛穴から、汗という冷や汗が噴出す。
「喧嘩を売る相手を間違えちまったな…、俺に喧嘩を売ったのが運の尽きだってんだ」
紅ノ剣士が若干呆れ気味に口を開く。
全くその通りであった。
ただの強盗らが、『紅ノ剣士』に喧嘩を売ったのが間違いだった。
…最も、自分達にも気付かず泥酔していた男を格上をは思えないのもあるのだが…。
彼の眼は親玉を捉える。
何処までも、紅いその瞳で親玉を射抜く。
とても、ついさっきまで酔って泥酔していたとは思えない。
彼は余裕の表情を湛え、親玉を観る。
親玉は恐怖の感情を湛え、彼を観る。
闘うまでもない、
心理戦による圧倒。
紅ノ剣士、という存在が親玉の心を食い潰す。
何故、ここまで恐怖するかは分からない。
ただ親玉にとって、彼が恐怖の対象となった、それだけの事。
「さァ、強盗の野郎… どうすンだ?
降参でもするってか? 今なら何もしないでやるぜ。
仮にも此処は酒場だし、面倒くせェ事起こすの嫌だからなァ!」
彼は笑みを浮かべて言う。
…親玉は、恐怖に苛まれる。
威勢の良い怒号は何処へ消えたか。
だが、親玉は彼を睨む。
あの様な青二才なぞに負けてたまるか… と。
「青二才めが!!
調子に乗るなァ…!!
さっきのは俺様の足元にも及ばんゴミ部下だった。
が、俺様はそうはいかん!!
テメェに地獄への片道切符をくれてやるぜェェ!!!」
酒場内に怒号が響く、今までよりも、更に大きな。
紅ノ剣士は、一瞬驚いて眼を見開いたが、
次の瞬間には浅い溜息と共に眼を閉じた。
「…あっ、そう。
分かったぜ…、望み通り、お前をブっ飛ばしてやるッ!」
紅い瞳がぎらつき、
彼は紅く白銀に煌く刀を持ち直す…。
【焔月】
強盗達は紅ノ剣士のかませになりましたな、案の定。
峰打ちだけで全員やられたな…。
こういうバトル(?)描写は苦手ですのぅ。昇進するしかない。
で、次回はガクブル親玉と彼の闘い。
…残念ながら結果は見え透いたモノですがね(笑)