3・【こんぐれェの事で闘えねェ様で剣士が務まるかよってんだッ】
「この店の金を全部寄越しなァ!!!!」
野太い声が酒場内に木霊する。
その場に居た客は、誰もかれも、静まり返って喋らないし、動かない。
息すらしてはいないのかもしれない。
その様な錯覚を起こさせる程、『来客』は唐突だったのだ。
「この酒場に居るヤツは全員手を挙げろ!上げねぇヤツは地獄逝きだ!!」
再び怒声が響き亘る。
酒場の客は、堪らず皆、手を挙げた。
…仕方の無い事、誰だって、命は惜しいモノだから。
その怒声を響かせた、見た目の威圧だけでヒトを殺せそうな大男は、一人ではなかった。
その怒声の後に続いて、十数人のガラの悪い小柄な男等が、ドアを蹴破り酒場へと雪崩れ込む。
皆その手に、銃や、ナイフ、殺傷を目的にしたであろう得物を携えて。
恐らくは、この大男の手下だろう。
恐らくこの者らは、強盗団だろう。
誰もがそう思った。
これからどうなる?
何をされる?
金だけが目的?
命も取られる?
その場の人間は、凍て付く。
……ただ、『一人』だけを除いて。
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「うぃー… 周りが騒がしィなァ… っク」
紅ノ剣士だった。
彼は先ほどから、明らかに泥酔状態に陥っており、
それ故だろうか、この強盗共には気付いておらず、
寧ろ、目もくれず酒を飲んでいる。
…あの豪傑なマスターですら手を挙げているというのに。
ただ一人、酔い潰れて、自らの存在を無いかの如くにする紅ノ剣士を、
乱入して来た強盗共、親玉が見逃してくれる筈も無かった。
親玉は、酔い潰れている彼に詰め寄る。
その顔からは怒りが読み取れる。
「おいテメェ、其処で酔い潰れている野郎!!」
「・・・・・・?」
「テメェの事だこンの青二才がァ!!耳付いてねぇってのかァ!? んん!?」
「・・・・、俺…?」
親玉が彼に罵声を浴びせる。
だが、紅ノ剣士は微動だにもしない、酔い潰れているせいか。
酔いで反応の鈍い彼に、ますます親玉の怒りが増して行く。
しかし彼は、顔色一つ変えようとはしない、酔い潰れているせいか。
「…お前ぇ、俺になんか用でもあんのかぁ・・・?
俺ぁ面倒くせェ事は基本嫌いだから、用があんなら手っ取り早くしてくれよォ… うぃ…」
「~~~ッッ!? こいつ… コイツ…ッ!! 俺様を馬鹿にしてるなぁ…ッ!?」
「馬鹿にしてなんかいねェっつーの…、だーからぁ、用があんなら早くしてくれっての…」
「~~~~~!!! コイツよっぽど痛い目見たいんだな!! おいっ、テメェ等!!」
彼の変わらない態度、自分が馬鹿にされてるという感覚に耐え切れず、
親玉がとうとう怒りを爆発させた。
部下を呼び寄せ、従え、彼を取り囲まんと、命令を下した。
目的など、見え透いたモノ。
殺してしまえ!!
その目的以外に、あろうものか…。
手下共は彼を取り囲み、彼の目の前には、怒りに燃えた親玉が。
酔い潰れた彼を、殺気の感情を湛えて囲む。
手を挙げた人間、群集共は息を呑む。
これから殺人ショーの開幕なのかと。
強盗へ歯向かった者への見せしめが始まるのかと。
…周りから見る分には、彼の前に立っているマスターが聊か気の毒である。
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「青二才!! これからテメェをブっ殺してやる! …金を奪うのはその後で良い!」
「…、俺を…殺す?」
「そうだ!今からテメェは俺様達に嬲られ殺される!なんだ、怖気付いたのか? ザマァないぜ!」
「・・・。 …ちっ、そうかよ。」
紅ノ剣士、彼は『殺す』という言葉に、反応を見せた。
酔い潰れていて、殆ど語らず動かずだったのに。
命のやり取り。
忘れてはいけない、彼は名の通り、『剣士』である事を。
だから、彼にとってその単語は、その『剣士』の本能を呼び起こさせる。
そう、例え酔い潰れていても。
「…そういう事なら、仕方ねェなぁ…。
よっこらせっと…、相手してやるよ。」
深く、長い溜息を付きながら彼は席を立った。
まるで、強盗など眼中に無いかの如く、余裕を湛えて。
しかし、その表情からは、まだ酔いが見れる。
…先ほどまで酔い潰れていたのだから、仕方無いのだが。
当然強盗もその様子を感じている。
「ハッ! そんなベロンベロンの状態で、闘えるってのか!?」
「…俺がベロンベロン…?」
「…へん。」
「こんぐれェの事で闘えねェ様で剣士が務まるかよってんだッ!!」
紅ノ剣士が、一喝する。
その声は、強盗のモノと打って変わって、
凍て付いた時間を溶かす、紅い焔。
漆黒の闇を打ち払う焔。
先程まで泥酔していたとは思えぬ程の気迫。
その気迫に、一瞬強盗達に怯みを見せた。
客達は、あの酔っ払いが剣士だったのか、と言う驚きを見せる。
…彼の紅い眼が、闘争の意思を宿して光る。
紅ノ剣士の闘争本能が始動した――……。
【焔月】
やっと紅ノ剣士さんが本気になってくれました。
でもやっぱりベロンベロンです。
強盗団の親分は、血圧がきっとヤバいです。展開速いです;;
・・・けど、ヤツはとまりませんぜ。
俺はまだまだ書くのです、ヤツの軌跡を。