1・【世の中、面倒くせェ事ばっかじゃねェか】
『世の中、面倒くせェ事ばっかじゃねェか…』
誰も居ない、荒野の何処かで、誰かが静かに、だが確かに、そう呟く。
その眼には、呆れの感情が宿っていた。
重く静かに、荒野を歩く『誰か』は、赤い。
いや、彼が赤いのではない、 彼に付いた『血』が赤いのだ。
『彼』はついさっき、人を殺した。
『彼』はついさっき、人を斬った。
『彼』は剣士だった。
その証拠に、真新しい血の付着した、銀に光る刀を手に握っていた。
刀を、鞘に納めようともせず…
ブツブツと何か呟き思案しながら、その刀を手に握ったまま、荒野を彷徨っていた。
乾いた風が吹き抜ける。
「俺は、闘うのは嫌いじゃねェ。
だが、無闇やたら、ヒトを斬るってのは良い気分がしねェな。
今のこのご時勢、ヒトを斬らなきゃ生きていけねェってのも、面倒な話だぜ。
誰だよ、こんな面倒っくせェ世の中にしやがった野郎は…」
『彼』は、小さいながら、ハッキリと呟く。呆れた声で。
…闇ですら、その光を消す事の出来ない、そう思わせる程の、紅い瞳。
その闇よりも、黒い、漆黒の、少し飛跳ねた髪。
其れとは真逆に、髪に巻かれた白いハチマキ。
そして何処か遠い、遠い東方の国の戦士を想起させる、服。
恐らくは『キモノ』というモノだろうか。
パッと見では、少し背が高いが、筋骨隆々でもないその『彼』は、
「そういう場所」では、割と名の知れている凄腕の剣士。
…最も、見た目で判断する分には、そうも見えないのだが…。
其れは兎も角として、荒野を彷徨う『彼』の事を知るモノは、『彼』の事をこう呼ぶ。
≪紅ノ剣士≫と。
「面倒くせェ、面倒くせェ…
って、呟いてもしゃーねェ、俺一人が愚痴っても、変わるモンでもねェ。
まァ、こうやって吐き出すぐれェなら、きっと誰も咎めやしないだろうけどな。
この面倒なご時勢を、自由に生き抜きゃそれで十分だよなァ、多分。
…さて、と。 もうじき次の街に着きやがるな。
ブラブラっと、適当に、回るとするか…。」
彼は一人小さな笑みを浮かべて言う。
その笑みには、この『面倒くせェ世の中』に対する、
期待と、軽蔑と、絶望と、希望が入り混じっている様に見えた。
…紅ノ剣士、彼の自由奔放な物語が、始まる。
【焔月】
これは作者である焔月が、小学生の頃妄想した物語。
あの頃は、形にできなかったけど、今なら、と思って。
約、恐らく七年の空白だろうか・・・。
紅ノ剣士、ヤツは俺の心に住み着く男。
今でもヤツは、俺の心に語りかけてきます。
なんとかかんとか、俺の拙いグダグダ文ではありますが、これから・・・
この紅ノ剣士につきあってやってくだせェ。