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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
後日談
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第五話   リア・ノインの知らせ(下)

お待たせして申し訳ありませんでした。

 ロキにアーリ使用を黙認した当時のリア・ノインの決断は、あながち間違いだと言い切れない。


 風の民の族長は、気ままに行動出来ないというハーピィにとって厳しい制約の代わりに、民族中から持ちこまれる情報を収集している。

 故に、広大なその情報網により当時の世界の状況をよく理解していたはずだ。


 ロキから話が持ちこまれたのは十年以上前の事で、その頃、ディアマス王国は戦時中だった。

 どうやってグラウニアと対するか、一進一退の状況であり、スノーンとの外交を考える余裕はまるで無かった時期であり。

 スノーンの方でも、2つの国でいつ終わるともしれぬ紛争状態だった――と、イーシャはイムハール前領主のヴィヴィアンから聞いている。


 この状態から、たった十数年の内に親書が届くような平穏な状況になるとは思わないだろう。

 アルシオーネ皇女から送られてきた親書は、両大陸の政治に関わる誰にとっても、予想より早過ぎた。


 そして、結果だけを見るなら、リア・ノインは廃棄された場所の個人使用に目をつむっただけだ。

 別にスノーンの一部の悪徳闇商人に制裁する行動自体に賛同し、深く関わっているわけではない。


 カタストロフが封印から解き放たれ、世界の滅亡に関わり合いになる事にさえならなければ、彼女はきっとロキに関わる事柄は誰にも言わず、黙っているつもりでいたはずだ。

 黙認というからには本人達の間の口約束で、物証はないのだろうから。

 民族的な特色で偽りを口に出すのが苦痛であっても、そもそも嘘を語らないで沈黙を守るという方法を取ればいい。


「……とりあえず、もしもの事を考えて、使用に条件をつけたの。

 あくまで黙認。例え、捕縛されて正体がバレたとしても、ロキの行動は風の民わたしたち全体になんら関係はなくて、絶対に助けたりしないから巻き込まないと己の内にいる精霊に誓う事。

 他にもあるけど、それはロキの行動に慎重さを増やすためのものよ。ロキのやろうとしている事は、慎重になり過ぎなくらいじゃないと、危険過ぎるものだから」


 リア・ノインはそう言って、再び紅茶を少しだけ口にした。

 具体的にどんな事なのか言わないのは、おそらく風の民独自の価値観から来るものだからだろう。

 イーシャはそう解釈した。


「今のところ、ロキの思い描いた通りになっているわ。闇市場の奴隷達を連れ出すたびに、アーリの住人が増えて、ロキに協力する者も増えた。スノーンで、ロキは正体こそバレていないけど、大きな盗賊団の首領として目されて有名人よ」

「……定期的に報告がされているのですか?」


 リア・ノインはイーシャの言わんとしていることが分かったのだろう。

 フルフルと、首を横に振った。


「ロキ本人とは、全く接触していないわ。この情報はあくまで、スノーン方面に関心を持っている同胞から上がってくるモノ」

「事情を知らないものからしたら、スノーンで闇市場ばかりを狙う有名な盗賊団の首領の名前がロキ――と、いう程度の認知という意味合いですか?」

「そういう事ね。正方法――と、言えるかどうか分からないけど、ハーピィと周囲にバレるような襲撃はしていないみたい」


 それならば何とかなるかもしれない。

 同名のものなど、結構居るものだ。


 イーシャは問題になりうる点を一つ一つ尋ねていく事にした。


「正規の奴隷市場に関しては、一度も手を出していませんね?」

「……もしかすると、違法すれすれのところには何かしたかもしれない。だけど、正規の手続きを取っている場所に手を出せば、国としても威信にかけて行動に出ざるおえない事くらいは理解していたから、大丈夫だと思う」


 リア・ノインは眉根を寄せ、少しばかり自信がなさそうな口調で答えた。

 連絡を本人とは絶っている事、憎しみを目の辺りにした事で、はっきりと言い切れるほどの確信はないようである。


 ブルートゥス側から見れば人道的に問題があっても、スノーン内では現在も制度として、身分として正式に奴隷というものは機能しているのだ。

 スノーン側から見ても違法の場所ならともかく、問題のない場所を襲ったのならば、友好を深めるべき立場にあるイーシャにしてみると、ロキを含めた該当者を引き渡す必要が出てくる可能性がある。

 

「アーリの住民の数は分かりませんよね?」


 アーリが現在も不自然に浮き続けている原因が、封印されている精霊王の力だった場合。

 形状がどうあれ、アルウェスの消滅封印に使用するために、アーリから運び出すことは確定されている。


 その場合に問題になるのは、その住民をどうするかだ。

 ロキが闇市場から助けたヒトを、スノーンで噂されていない事から一度に数人から数十人単位、アーリに連れて入れた――この点を考えるに、彼が転移用の魔法陣を作成したようなので、脱出する事自体は特に問題無い。

 ただ、本来の故郷に戻れるロキはともかく、スノーンで奴隷に落とされたヒト達はアーリが墜ちれば、住み慣れて安全な住居を失うのである。

 生活の場を奪う事になる。


 イーシャとしては今のところ、スノーンに送り返す気はない。

 アーリの住民達は、最低身分である奴隷のしるしが身体に残っているのである。

 その焼印がある限り、確実に暗雲立ちこめる未来が待っているだろう。

 それなのに――結果が想像出来るのにスノーンへ送り出すというのは、後味が悪過ぎる。

 リア・ノインもそう判断しているから、事前に問題点として伝えて来たのだろう。


 イーシャの問いかけに。

 リア・ノインは眉根を寄せ、難しそうな顔をした。


「……私の掴んでいる情報から見積もってみると、最低でも百人以上でしょうね。さすがに、千は越えてないと思うけど。残っているアーリの規模だと、ヒトが住むなら千人以上居ても全然問題無いもの。ロキも、あまりその点は気にしていないでしょうし」

 

 基本的に、風の民の空中都市に住んでいる人数は、一万程度。

 収容可能人数ではないので、実際にはその数倍は住む事が可能である。

 何故かというと、風の民ハーピィはヒトと比較した場合、パーソナルスペースが非常に広いのだ。

 空中都市では数部族ごとに分かれて暮らしている――風習が合わなくても特に問題無いよう生活区域が充分に離れているので、必要以上に出歩かなければ他の部族と遭うことなく生活出来るらしい。


 実際に訪れた経験はないが、そうイーシャは教えられた。


「数百人規模ですか……一度に、でなければ何とか。私の方で引き受けられます」


 イーシャは少し考え込んで、そう答えた。

 その程度なら、彼女の方で引き受けられる。


 イムハールにはスノーンから来た人間もそれなりに住んでおり、年々人口が増えていた。

 そして、スノーン出身の人間の生活区はある程度密集し、イムハール内だというのに別空間となっている。スノーン街と呼ばれるくらいに。

 そこでは普通にスノーンの大陸共通語とされているラスス語での遣り取りが可能なので、仮にブルートゥスの言葉が話せずとも、生活していく分には何とかなるのだ。

 

 スノーンから新天地を目指して来た労働者集団として扱うなら、イーシャは領主として、彼等の住居と仕事を手配する事は出来る。

 ただし、全員一度に――と、いうのはさすがに無理だ。当然の事ながら、アーリ在住の人数が多いほど、住居と労働場所の手配に少し時間がかかる。


「カタストロフ殿のお力を借りれば、そのままアーリごと地上に降す事は出来るでしょう。新しく、住居の手配はしなくても良い」


 イーシャは、ちらりとカタストロフを見やった。


 カタストロフは黙って、静かに紅茶を飲みながら二人の会話する様子を観察している。

 艶やかな黒い前髪によって隠されていない、周囲の目にさらされている整い過ぎた顔の下半分は、特にこれといって会談が始まってから変化はない。ヒトが風の民の年で暮らしていると聞いた際、少し驚いた程度だ。

 彼に確認せずに言い切った彼女に対し、無理だと否定はしてこなかった。


 水の精霊に大陸を永久凍土に変化させる程の魔力を供給出来るのである。

 やはり力の大部分を封印されている現状でも、イーシャが判断したように、風の精霊に街一つ操作させる分の魔力を供給する事は可能であるらしかった。 


「ですが、その場合。降ろす土地の確保と、その土地の領主の許可。そして、近隣の土地にある街の代表者との話し合いなど、多くの手続きが必要になります。

 他の街と交流を持たない僻地を確保出来たなら話は別ですが、アーリの住民達にはブルートゥスの言語を覚えてもらう必要もありますし。

 私が引き受けるか、リア・ノイン殿が引き受ける事にした方が、手間という面では簡単でしょうね」

「……ええ。それはそうね。でも、あちらの事情というものもあるでしょうし。調査の前に一度、アーリに行ってロキと話し合いする必要がありそうだわ」

「そうですね。リア・ノイン殿、お願い出来ますか?」

「任せて。イスフェリア。明日にでも、アーリへ向かうわ」


 リア・ノインはふわりと微笑むと。

 力強い声で了承した。

読んで下さってありがとうございました。


他の作品に浮気していた事もありますが、文章自体が気に入らなくて、なかなかあげられませんでした。

次は今回ほど間が開かないと良いな……


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