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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
本編
45/59

第四十一話 邪竜あらわる

久々に連続更新!

繋ぎのような話が続いてましたが、今回は戦闘です。

ええ。作者が苦手な戦闘です(汗

上手く表現出来ていると良いなあ……(遠い目)


地震を連想する描写があります。

理由あっての事ですが、解説は次回になるのでご不快に思われる方は、数行流すか、次回に今回の説明を軽く入れる予定なので、この話を飛ばして下さい。


今回長めです。


 ぺきり。

 その音がすぐ近くで聞こえた時、イーシャは傍にいるカタストロフかフィアセレスのどちらかが、小枝でも踏んだのかと思った。


「……やばい」


 咽喉が引き攣ったような、かすれたカタストロフの声が響く。

 咄嗟にイーシャが振りかえった先では、顔を引き攣らせたカタストロフが己の足下を見つめていた。


 ディアマス王城からシリスへ。

 シリスの街から転移で移動してきた三人は、遺跡の傍の草原に立っており、足元にあるのは好き勝手に伸びた草だけだ。

 カタストロフの危機感を煽る物など無い。

 そう判断しかけ、イーシャは違和感を覚えた。


 フィアセレスが顔面蒼白になり、おののいたかのように後ずさって、カタストロフからじりじりと距離をとっている。

 

 イーシャは不意に、常にカタストロフから放射されている澄みきった力の圧迫感が倍増している事に気付いた。

 そして、彼の足下に草しか見えない・・・・・・・事の意味に気付いて、息をのんだ。

 つう、っと彼女の額から流れた汗が、頬を滑り顎先までをなぞって、ぽたりと胸元に落ちる。


 そう。あるはずの物が無くなっていたのだ。


 何の前触れも無く、封印具であるカタストロフの足枷が鎖と共に消え失せていた。

 これが意味する事は――


 どおん! 


 踏みしめた大地から、まるで足元を土台ごと空に向かって放り上げられるような強烈極まりない衝撃が、イーシャの身体を襲った。

 まるっきり不意打ちの、思ってもみなかった大地からの衝撃にたまらず体勢を崩し、彼女は地面に転がる。

 イーシャの視界の端に、フィアセレスが転がっているのが目に入った。


 突き上げられるような衝撃は一度だけで終わった。

 少し待ってみたが、大地の揺れは起こる気配が無い。


 先程の揺れも前触れなど無かったので警戒しつつ立ち上がりかけて、イーシャは背筋にかつてないほどの悪寒を感じ、動きを止めた。

 左手と左膝を大地につき、腰を半端に上げたままの姿勢で、おそるおそる顔を上げる。


 太陽が厚い雲で覆われて陰ったのか、薄暗くなった草原で、カタストロフが先程と同じように立ち尽くしていた。

 彼は転ばなかったのか、何処にも土のついた形跡が欠片も無い。

 先程と違うのは、カタストロフが己の足下では無く空を見上げて、口元を引き結んでいた事だ。


「……あ、あれは何ですか!? なんて、おぞましい……!!」


 カタストロフと同じように空を見上げたフィアセレスが、狼狽ろうばいしきった声で叫んだ。

 二人につられるような形で彼女は空を見上げ、目を見開く。

 あまりの光景に、ひっとイーシャの咽喉がひきつった悲鳴を上げた。


 見上げた空は、数百メート、いや数キーロ間だろうか。

 それだけの空が黒ではない、けれど黒としか言えないおぞましい粒子――魔素に覆われ、太陽の光をさえぎっていた。


 おびただしいほどの魔素は、ゆっくりと収束していき、質感を帯びて瘴気に転化する。

 瘴気がうごめいて凝縮し、ある形へと緩やかに変化していった。


 長い角、鋭い牙、ギラリと光る爪、皮膜質の巨大な翼、うろこに覆われた巨体、長く太い蛇のような尻尾、縦に割れた爬虫類独特の眼――それは魔獣の頂点に立つ、体長数十メートの巨大で美しいドラゴンの姿に。


 その身体の色は、吐き気をもよおすほどにおぞましく。

 その巨大な身体の線は強さに満ち溢れ、息をのむほど麗しい。


 これはってはならぬ存在ものだ。

 存在する事を決して許してはならない。

 どんな手を使っても、打ち倒すべき敵だ。


 イーシャは驚くほど強く、そう感じた。

 それは自らの想いであると同時に、この世界そのものの意思でもあったからであろう。


「……最悪だ、邪竜化しやがった」


 吐き捨てるような口調で、カタストロフが呟く。


 心の底から忌々いまいましげで緊迫感に満ちたその声に、イーシャはハッと我に返った。

 知らぬ間にポカンと開けていた口を閉じ、中途半端な姿勢を止めて立ち上がる。


 イーシャは無意識のうちに、背負った『紅の刃』を素早く抜き放って構え、いつでも飛び出せるように足に力を込めた。


 こわい。コワイ。怖い。

 邪竜から受ける本能的な恐怖からか、ぶるぶると全身が震えて、じっとりとした冷や汗が流れていくのをハッキリとイーシャは感じ取った。


「……クー。あれ・・は倒す事が出来る存在ものなの?」

「勿論、出来る。物理攻撃は一切通用しないがな――チッ! もう瘴気の受肉が終わりやがった。来るぞ!!」


 まるでカタストロフの声に応えるように、邪竜はその大きな顎門あぎとを広げ、一声咆哮ほうこうを上げた。


 ぎいおおおお!!

 どくりと心臓の鼓動が、その声に恐怖を覚えて大きく高鳴る。

 ひゅっと息が切れて、イーシャの呼吸が止まりかけた。


 ――イーシャちゃん!!――


 ルビエラの呼びかけに、イーシャはふっと息を吐いて、途切れかけた呼吸をし始めた。


 通常の竜の咆哮を近距離で耳にした草食獣は、恐怖のあまり心臓の鼓動を止めて即死する。

 人間や肉食獣、他の魔獣に対しても強力な恐怖心をあおり、金縛りや呼吸障害を引き起こさせるのだ。

 邪と名のつくだけあって、形でだけでなく竜の特性を持っているようである。

 それならば、弱点も同じか良く似たもののはずだ。


 イーシャは一度だけだが、竜討伐に参加した経験があり、倒し方を知っていた。

 まずは、空から大地に落とす。

 そして、ブレスを吐かせる暇を与えないように、途切れない攻撃あるのみだ。


 最も手強い天敵が、本能で理解かったのだろう。

 邪竜は空から墜落するかのような速度で、カタストロフに突進した。


 邪竜を本当の意味で倒せるのは彼だけだ。

 浄化が完全に終了するまで、その行動を止める事が今求められている役割だろう。


 手に握った大剣に魔力を流し、イーシャは大地を蹴った。


「はあぁぁっ!!」


 気合の声と共に、カタストロフに向かって真っ直ぐ飛んできた邪竜に肉薄し、逆巻く炎を纏った『紅の刃』を振り下ろす。

 竜を相手にする際は真っ先に狙う、空を飛ぶための翼へ向かって。


 がつり。

 剣で肉を斬ると言うより、鈍器で金属を殴ったような感触がしたが、イーシャは構わず『紅の刃』で片翼を薙ぎ切った。

 物理攻撃は通用しないとの事だったが、炎を纏っていれば攻撃が通るようだ。


 大した痛みダメージは感じなかったのだろう。

 邪竜は振り返らぬまま、小うるさい虫を払うかのような仕草で斬り裂かれた翼を振るい、イーシャをその場から吹き飛ばした。

 人形でも投げたように、容易く彼女の身体が宙を舞う。


 数メートほど空を飛んで、体勢を立て直せないまま落下しているのに気付き、イーシャは咄嗟に片手を地面に向けた。


ぜろっ!!」


 気合の声と共に、小さな爆発を起こして僅かに上昇。

 イーシャは土煙を浴びながら空中で一回転して体勢を整えると、草原に足から綺麗な着地を成功させた。


「――半身にして朋友ともよ。穢れし存在を縫い止めて」


 フィアセレスの声が響き、大地から数十の木の根が伸びて邪竜の足に突き刺さり、絡みつく。


「音を奏で、音を運ぶ。最も古き楽師シルフィード達。魔力を供給する。相応なる対価を受け取ったならば、世界の敵の動きを妨げろ!」


 カタストロフの精霊語の呼びかけに風の精霊が応じ、失速していた邪竜の突進が更に勢いを減ずる。

 それでもまだ止めきれない。


 ぶつかる――そう半ば思った瞬間、カタストロフは『蒼の閃』の穂先を邪竜に向けた。

 彼に向かって振り下ろされかけていた爪の一撃は、邪竜の右前足に差し出すように突きつけられた大鉾の刃に受け止められる。


 ギチリ。火花を散らし、鈍い金属音が両者の間で上がった。

 鍔迫り合いをする気は全くないのか、カタストロフが即座に呼びかける。


「――アクエリオス!!」


 ――承知。吾の冷気をとくと味わうがいい――


 『蒼の閃』の刃が煌めく。

 温度差にぎちぎちと音を立てながら、邪竜の右前足が凍てつき、その身体全体が氷に包まれていった。

 凍りつく邪竜を置いて、カタストロフが素早くその場から離脱する。


 氷でその身を固められながらも、邪竜はそれを振り払うように暴れ、動いていた。

 その動きを妨げるように、フィアセレスの精霊魔法によって更なる数を増した木の根が、邪竜の下から伸びて絡みつく。


 イーシャは『紅の刃』を突きの姿勢に構え直し、身体の位置を低く落として走り出した。

 助走して増した勢いのまま、再び大地を蹴って一直線に突進する。

 無防備な邪竜の後ろ足に、渾身の突きを叩き込んだ。


 先程と同じく、突きの一撃は殆ど邪竜に痛みが入らなかったようだが、今回は一味違う。

 

「ルビエラ!! 焼き尽くして!!」


 ――は~い!! 全部燃えちゃえ~!!――


 柄まで邪竜の足に突き刺さった『紅の刃』から白い炎が上がる。


 ぎゃおおおおぉぉ!!

 身体の内側から、超高熱の炎で焙られるのはさすがに効いたのだろう。突き刺さったままの『紅の刃』を外そうとしてか、邪竜は奇声を上げながら足を大きくばたつかせた。

 前足の爪先が触れるが、契約者以外の接触に大剣は更なる火柱を発生させる。


 無用な危険を避けるため、大剣の回収はしないまま、イーシャはその場から背後に跳躍して移動した。


 同時に、離れていたカタストロフが邪竜に肉薄し、どすりと翼を『蒼の閃』で地面に縫いつける。その場を白く染める冷気が蔦のように伸びて巻き付き、再び邪竜の身体を氷が包み込んだ。


 炎と氷の二重攻撃と、その巨体を拘束するように次々伸びてくる木の根、上空から押しかかってくる風の精霊達の妨害に、さしもの邪竜も動きが止まった。

 その隙を見逃さず、カタストロフは邪竜の身体を何度か蹴って駆け上がると、咽喉に近いところに存在する逆麟へ、貫き手を叩きこんだ。


 きしゃあああああっ!!

 急所への一撃に、邪竜が凄まじい絶叫を上げる。

 カタストロフの貫き手は、寒天にでも突き刺したかのように容易く、肘までも邪竜の身体に埋まっていた。

 きらきらと、刺し貫いた周囲から虹色に光り輝く粒子が上がる。


 邪竜の身体は崩壊を始め、どんどん質感を失っていった。

 構成していた物質が瘴気に戻り、魔素へと戻って浄化され、カタストロフの身体に吸い込まれて消えていく。


「ああ。なんて……なんて美しい」


 うっとりとした声を上げ、フィアセレスが恍惚とした表情を浄化するカタストロフに向ける。


 邪竜の下半身が完全に消えて、さくっと大地に『紅の刃』と『蒼の閃』が突き立った。

 伸びていた木の根が、しゅるしゅると大地の中に戻り、無数の穴だけを残す。


 イーシャは『紅の刃』を回収し、刃身を軽く点検した。

 予想通り、血肉や脂の類はついていない。

 ついているのは土と草の汁だけだ。

 念のため、手巾ハンカチで刀身を拭くと、鞘に納めた。


 カタストロフに目を向けると、彼の足が宙に浮いたままだ。

 竜の急所である逆麟の位置に手を突き刺しているのだから、地上から十数メート付近だろうか。

 魔素の近くに固まる性質のためか、邪竜は足や頭部といった浄化の中心から離れた位置から消えている。


 浄化し終わったら危ないのではないか。

 内心ハラハラしながら、イーシャはカタストロフを見守った。


 ややして、最後の魔素の塊が消えて、虹色の粒子となって弾ける。

 案の定、カタストロフはそのまま自由落下し――地面へぶつかる直前に、風の精霊が彼の周辺を取り巻いて体勢を整え、足から着地した。



邪竜を皆で一斉攻撃したせいか、あまり強そうにならなかった……(TwT)

精進せねば!!

ちなみに。

フィアセレスが居る理由……遺跡までの転移陣はエルフが居ないと作動しないよう構成してあるので、ついてきました。

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