第四十話 協力
相変わらずタイトルが微妙です。
良いタイトルの閃きがほしい……orz
簡単にシリーズ化出来る事に気づいて、操作してみました。
突発的に書いた短編がシリーズ名からクリックで見れるので、宜しければそちらの方も読んで頂けると嬉しいです。
今回は短いです。
「水の王よ。私の知るルビエラと貴方が語られた彼女は、まるで人格が違っているかのように思えるのですが……」
激怒して噴火は、まだ納得の範囲だ。
火の要素そのものである彼女の怒りに、大地の底のマグマが反応するのは許容範囲である。
イーシャが納得いかないのは、沸点が低いとの発言だった。
火の性質的には合っているのだが、ルビエラ個人にすると恐ろしく違和感まみれである。
カタストロフも、本当にこいつがそんな事やったのかと言わんばかりの雰囲気で、ルビエラをじっと見ているから、イーシャと同じく違和感を覚えているのであろう。
――ふむ。異なる人格か。
ありえんな。アルヴに力があるとはいえ、たかが人間だ。
忘れさせる事がせいぜい。
ヒトの娘、お前の目に映るルビエラは熾き火のような性質に見えるか?
それは、あいつのほんの一面にしかすぎない。
ルビエラは忘れっぽいが、己の気に留める存在に対し害があれば、
烈火のごとく怒り狂い、燃やし尽くすまで攻撃し続けるような激しい存在ぞ――
アクエリオスの言うルビエラと、目の前できょとんとしている彼女が上手く重ならない。
水の王の方が遥かに付き合いが長いのだ。
実際にルビエラは、火の王に相応しい烈猛の性質も持ち合わせているのだろう。
ただ、イーシャの記憶にある今までのルビエラとの付き合いが、想像を難しくしているだけで。
それにしても、熾き火とは水の王も上手い表現を使う。
普段のルビエラにぴったりの言葉に、イーシャは納得し感心した。
火は様々な物を灰に変えるまで燃え盛る代わりに、燃やす対象が無ければ存在出来ない。
広範囲を焼き尽くす巨大な炎よりも、今にも消えてしまいそうに脆くほんの小さな火である方が、長々と燃え続ける。
火のエネルギーを存在出来る最小限に絞って、強さよりも寿命の長さを重視した場合が、現状のルビエラのような性質を見せるのだろう。
無論、極小とはいえ火は火。
燃料を近づければ、すぐさま勢い良く燃え上がる。
「では、水の王。私の知るルビエラと同じ存在であるか、ご確認していただけますか?」
そうイーシャが告げた瞬間。
きら~んと、ルビエラの柘榴石色の双眸が、ひときわ強く輝いた。
何をする気だろう。
イーシャは軽く首を傾げた。
「アクエリオス~!!」
ルビエラは名を呼びながら、真っ直ぐ『蒼の閃』に向かって飛び付いた。
しかし、あと一歩と言うところで大鉾が光り輝き、すぐ傍に立っているカタストロフを内側に巻き込む形で薄い障壁が発生。
じゅっ。実に痛そうな音を立て、ルビエラが弾かれる。ぶつけた彼女の額と手が、一瞬形が歪んで蒸気を上げていた。
即座に戻った手と手を顎の下で握り合わせ、ルビエラは口を尖らせる。
「アクエリオスったら相変わらず照れ屋さん♡ さあさあ出てきてぇ~。久しぶりに一緒にお話しましょ~」
応答は無い。
それでも構わないのか、まるで犬がじゃれついているかのように、ルビエラはグルグルと障壁の外側をうろついている。
カタストロフはしばし、障壁の内側からルビエラの様子を観察していたが、特に動じた様子なく『蒼の閃』を掴んだ。
「アクエリオス。俺はアルウェスの再封印を行いたい。協力してくれるか?」
――カタストロフ。吾は世界の一部たる水の王ぞ。
世界を少しでも長く存続させるため、大人しくこの中に入ったのだ。
アルウェスを滅ぼすは世界の意思。
無論のこと、吾に出来る限り協力しよう――
その『声』が響くやいなや、瞬時に『蒼の閃』を、宝物庫の床、壁、天井を覆っていた分厚い氷が溶けて水に変わった。
水はそのまま空気に溶けるように消え失せていく。
――さあ、吾を持ってマナの聖域まで向かうのだ。
お前の全ての封印具が機能していても、吾とルビエラ、二つの王の器がある。
アルウェスの再封印も、作動を始める事が出来よう――
「そうか」
カタストロフは大鉾を片手で持ち上げると、もう用は無いと言わんばかりに入口に向かって歩き出した。
「聞いていただろう。イーシャ、バテユイ樹海へ行くぞ」
気が急いているのか、カタストロフはイーシャの空いた左手首を掴んで引っ張った。
そのまま彼女の返事も聞かず、ぐいぐいと手を引いて前進する。
作動しているはずの障壁にぶつかる形となったが、イーシャに何ら衝撃はかからない。
カタストロフが無理やり歩かせている形のイーシャに対し、障壁が抵抗なくあっさり解けるのを見て、好機と見たルビエラが突進するが、またしても弾かれて白い蒸気を上げていた。
「る、ルビエラ。大丈夫なの?」
「これぐらい全然平気よ~。実体に使っているのってぇ、精霊王の全てを石に封じきれなかった、ほんのあまり部分の力だもの~」
それでも余計な力を使わないようにするためだろう。
弾かれる位置すれすれで、ルビエラはカタストロフに纏わりつき、すっかり沈黙したアクエリオスを呼ぶ。
それに対し、カタストロフも水の王も無反応だった。
「クー、ちょっと待って。『紅の刃』を抜刀したまま歩くと、私が怒られるわ。貴方もよ。刃の部分に何か布を巻かないと」
イーシャの右手には、彼女の魔力を纏わせたままの『紅の刃』が未だ握られたままだ。
将軍で近衛騎士である彼女は、王城内の帯剣を許されているものの、さすがに剥き出しの凶器を手に持った状態で闊歩すれば注意され、処罰を受ける。
王城は戦場ではない。
普通に生活している人間達の中を凶器片手にぶらつけば、危険人物と目されて牢屋に入れられても文句は言えないのだ。
『蒼の閃』の場合は、刃の部分が丸ごと青い金剛石なので魔道具や美術品だと思われる可能性もあるが、念には念を入れておくべきだろう。
「ん? ああ、そうだな」
言われてから気付いたらしく、カタストロフは彼女から手を離した。
くるりと手の動きだけで大鉾の刃の部分を己に近付け、鋭さを確認するように指で触っている。
もう少しで、宝物庫を出るところだったのでイーシャはホッとした。
鞘に『紅の刃』を納め、無意識のうちに最も動きやすいように剣帯の位置を調節する。
調整が終わってカタストロフを見やると、彼はしゅるしゅると頭布を外して大鉾の刃部分に巻いているところであった。
本日は繻子織りの布地であったために、イーシャの眼にはかなり違和感がある。
刃が剥き出しのままよりマシだったので、布を織った職人に対しては心の中だけで謝ると、カタストロフに声をかけた。
「ところでクー、今すぐに遺跡に向かうつもり?」
カタストロフは頭布を外した事により前髪が上がり、見えるようになった黒い幅広眼鏡ごしの視線をイーシャに向けた。
「当然だ。早ければ早い方が良い」
「……そう。分かったわ。フィアセレス様もアルウェスの再封印に関係する事なら、いつでもシリスに訪問していいと言ってたものね。でも準備に少し時間をちょうだい」
いつでもいいよと言われているからといっても、今からそちらに向かうという先触れくらいはした方が良いに決まってるから、その手配をしなければ。
カタストロフ一人ならば、先触れなしでも大丈夫そうだが、『紅の刃』運び人であるイーシャはそうもいかない。
ディアマス王家に所属する彼女には、今後の森の民との付き合いというものがあるので最低限の手続きは無視出来なかった。
「あ~……今日は書類仕事にいけないって連絡入れないと」
前もって休みを予定しておいた昨日とは違って、今日の分は書類量の調整が出来ない。
明日はさぞや書類が溜まっているだろう。
そう考えて、イーシャは軽く落ち込んだ。
呼んで下さってありがとうございます。