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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
本編
42/59

第三十八話 魔物事典

更新の間が空くようになってしまい、申し訳ありません。


またしても風邪をひいた作者です。

熱は下がったけど、咽喉と節々が痛い(>x<)


今年最後の更新になりそうです。

今回、短いですよ~。

「……分かりました」


 カタストロフの話を真摯に聞いていたオーウェンは、真剣な眼差しで頷いた。


「アルウェスの問題が片付かない限り、我等と共に新世界へ移住する事はありえない――と、言う事ですね。カタストロフ様の状況を聞けば、移住強行派の多くもこの世界に留まる事を選ぶでしょう。

 貴方様の御役に立てるやもしれぬ事態。皆、張り切ります」


 イーシャは思わず、ポカンと大口を開けた。

 

 世界の滅亡に繋がる話を聞いて、一言目に出てきた感想が予測のやや斜め上だったせいだ。

 オーウェンは随分と神妙な顔をしていたから、イーシャは即座に協力を申し出るかと考えていたのである。


 役に立つために張り切る――と言う事は、協力すると言っているのと変わらない。

 変わらないが、けしてこの世界のために頑張るという意味合いで言っていないのである。

 闇の民を代表し、総意を持ち合わせている族長であるオーウェンが、だ。


 戦争になるかもしれないと容易に予測がつく離反を、新天地へ行くためにと強行した連中が、あっさり主張を曲げてカタストロフの力になると断言するとは――彼はどれだけ、闇の民に重要視されているのだろう。


 この世界が滅んでも大丈夫そうな当てがあるにしろ、世界よりもカタストロフの方を重視しているような言い方に、イーシャは表情に現さずとも、思いっきりドン引きしていた。


 オーウェンの態度に、彼女と同じ感想を抱いたのだろう。

 カタストロフがひくり、と口元を引き攣らせる。


「それはまた……俺が知らんうちに随分とまあ、崇拝の度合いが上がったもんだな」


 どうやら封印以前から、闇の民は彼に対してこういう扱いをしていたらしい。


 手紙の内容が命令とも受け取れる上から目線だったのは、『魔王』を熱烈に望んでいる以上嫌々でも受け入れると言う公算があるから――と言うよりは、過去の扱い方から問題無いと予測したからだったようである。


 オーウェンの反応が、闇の民サレ族のカタストロフに対する普通の態度デフォルトならば、魔素からの救世主を通り越して信仰対象になっているような気がした。


「それで? アルウェスや精霊王について、何か知っているか?」

「……直接の関係があるか知りませんが、ルーフィアの統治していた頃、アルウェスについての記述がある魔物事典の写本を提出した覚えがあります。残念ながら内容は覚えていませんので、我々の元に在る原本で確認してまいりましょう」


「いや、いい。写本がディアマス王城こっちにあるんなら、そのうちに出てくる。それ以外でアルウェスの記述がある物があったら持って来い」


 イーシャはポンっと手を打った。


 そうだ。それなら読んだ覚えがある。

 あまりに嘘臭いかったので内容は忘れたが、挿絵の巧さにイーシャは感心した覚えがあった。

 まだ、宮廷魔導師達の調査部隊から、手掛かりになるような本が見つかったと言う報告は無い。

 そんな本があると教えてやるべきだろう。


「分かりました。ある程度貴方様の状況が落ち着いたら、我々の街まで来られるのですね?」

「俺が外をふらついて不審に思われないくらい、ディアマスとお前達の状況が落ち着いたんなら、しばらく滞在してもいいぞ」

「全力で努力いたします!!」


 後にイーシャからの報告で、この会話を耳にしたレスクの複雑そうな顔は見ものだった。


 闇の民は己の自治区に氷魔王を訪問・滞在させるためだけに、王国との関係を良好状態まで回復させると言われれば、そんな顔になるだろう。


 重臣達の顔も国王と似たようなもので、より苦々しいものを含んで見えたものだ。

 カタストロフの言葉は、裏を返せばディアマス側にも闇の民と同様の努力を求めていたのだから。


「次にディアマスに来る時は、過剰魔素で中毒を起こしてる奴、浄化するから何人か連れてこいよ」

「ありがたき幸せ」





「なるほど。これがオーウェンの言っていた物か」


 最後までイーシャの存在に気付かなかった、オーウェンとの会談の帰り。

 カタストロフと別れたイーシャは、まず王立図書館に寄った。


 一冊一冊、目を凝らして古代書を読み進めていた宮廷魔導師の調査団の一人に、闇の民寄贈の魔物事典を探すようにと頼んだ翌朝。

 彼女の元に、該当する五冊が送られてきた。

 内容までじっくり読まずに探すだけなら、すぐに見つかったようだ。


 魔物事典は全五巻だったらしく、重さも厚みも立派な物である。


 朝食を終え、イーシャは早速カタストロフの元へと事典を持って訪ねた。

 カタストロフは興味深そうに第一巻を手に取ると、パラパラとめくり始める。

 程なくして、彼のページを捲る手が止まった。


「〈アルウェス〉……あったな」


 イーシャにも見えるようにとの意図だろう。

 カタストロフは事典を円卓テーブルの上に広げた。

 見覚えのある精密なタッチの迫力ある竜の挿絵が、目に留まる。


「……クー、書いてある内容って、合ってるの?」

「アルウェスについて過小評価気味だが、おおよそは合ってる」


 パラリ。

 カタストロフはページを捲り、ピタッと動きを止めた。

 ややあって、トンとページの一部を人差し指で叩く。


「〈八大要素を何らかの方法で、それぞれ特殊な石に宿し、その力を増幅させたものを創り出して封印処置すべし――〉

 再封印の手掛かりになりそうなのは、この文だな。実際、ルビエラもアクエリオスも石の中に長い間封じられて、本来の力を扱えないようだし、他の精霊王の目撃例も無くなっている。

 俺の封印具も八つだ。無関係じゃないだろう」


 おやっ、とイーシャは首を傾げた。

 

 耳飾りピアスが二組、首環トルク、手枷、足枷、指環が二つ。

 カタストロフの呪具は七つだ。

 残り一つは何処にあるのだろう。

 服の下にあるのか、それともイーシャの解釈が違うだけで、見えている部分のものが該当しているのかもしれない。


「イーシャ。とりあえず、アクエリオスのところに行くぞ」

「? 水の王の元へ? でも、ルビエラと同じように何も知らない可能性があるわよ」

「それならそれで構わん。あ、そうそう。『紅の刃』を持ってこい」


 イーシャは困惑をあらわに、カタストロフを見た。

 ルビエラいわく、アクエリオスは反属性である彼女が大嫌いなようなのだ。

 いきなり攻撃してきてもおかしくない程度に。


「……うかつに刺激しない方が良いと思うんだけど」

「阿呆、逆だ逆。スアウが寝ている事の方が多いって言ってただろ。

 せっかく会いに行っても、寝たまんまじゃ話にならん。天敵といっていい相手の気配が傍にあれば、寝てる場合じゃなくなって起きる。ある程度攻撃して発散すれば、冷静になって話も出来るようになるだろ」


 それは暗に『紅の刃』を持っている私に、的になれと言ってないか。

 イーシャは内心そう思ったが、口に出すのを止めた。

 当然という風に肯定されるような気がしたからだ。


 カタストロフの言い分は最もで、話をするならアクエリオスの意識がある事が大前提である。


「分かったわ。待ってて、『紅の刃』取りに行ってくる。魔物事典それでも読んで時間潰してて」


 イーシャは溜め息を吐いて、カタストロフの部屋から去った。

 足早に自室へと足を進め、途中出会った女官に今日は遅刻していくと職場への連絡を頼んで、主寝室へと向かう。


 そこではルビエラが具現化しており、いつも以上に笑み崩れた顔をしていた。


「イーシャちゃ~ん!!」


 イーシャが話しかける前に、ルビエラは嬉声を上げて飛びついて来た。

 以前のものと勝るとも劣らない強烈な体当たりタックルを、何とか両足に力を入れて受け流し、問いかける。


「嬉しそうね。ルビエラ。聴いてたから分かっているでしょう。今から水の王の寝所に向かうわ」

「うふふふ~。アクエリオスと会うの、すっごく久しぶり~」


 攻撃されるかもしれないと分かっているのに、ルビエラはいつになくご機嫌だ。

 もしや被虐趣味マゾヒズムの気があるのだろうか。

 イーシャは、ちょっぴり契約精霊の性質に不安を感じた。


 剣帯を付けて、『紅の刃』を背負う。

 ルビエラは実体化したまま憑いてくるつもりのようで、イーシャの支度をニコニコ眺めていた。

 アクエリオスの注意が実体化しているルビエラの方に向いてくれれば、彼女としても無駄に危険な目に遭わずに済みそうなので、そのまま好きなようにさせておく。


 宙を進むルビエラを供に、イーシャはカタストロフの元へと急いだ。




読んで下さってありがとうございます。

良いお年を。

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