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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
本編
33/59

第二十九話 闇の民対策

復活しました!!

風邪はホント、引き始めに治すべきですね。


気付いたら、総ユニーク人数が千人突破です!!


今まで拙作を読んで下さった全ての皆様のおかげです。

ありがとうございます!!


皆さんも、風邪には注意して下さい。


リアル多忙に付き、更新速度が落ちる可能性が出てきました(TwT

毎日は無理かもしれませんが、二日に一度は更新したいと思っています!!


今回、短めです。



「こんな所で、なにをしているの? 氷魔王」


 上方から降ってきた美しいソプラノに、彼は顔を上げた。

 ふかふかした草の絨毯の上に座り込んだ彼の、五、六メート上空に、髪と同じ蜂蜜色の両翼を大きく広げた風の民ハーピィ族長の姿がある。

 鳥とは違って、体内の風の精霊の力を無意識化で行使しているせいか、羽ばたきは少ない。


「あれ? 顔、隠してないんだ。目、綺麗な金色なのね」

「……お前、確かリア・ノインと言ったか……」

「ええ。それで合ってるわ」


 リア・ノインはゆっくりと降下すると、彼の傍に着地した。


「それで? なにしてるの?」

「……ちょっと回復しに来ただけだ。ここはマナの通り道だからな」


 とりあえず最初の目的はそうだったので、彼は答えると草の上に横たわった。

 色々思い出しておかげで余計に疲れたのだ。

 ひと眠りしようか、と思う。


「ね。氷魔王なら聞いても平気でしょう? 子守唄ララバイでも歌いましょうか?」

「確かに平気だが……他に観客がいないかどうか確認してからにしろ」


 ハーピィの狂乱の旋律セイレーンは、彼を含めた光の民アルヴにとってはちょうど良い魔力回復手段であるものの、他の民族にとっては異なる。


 同族以外の者にも聞かせたい。

 そんな欲求がハーピィの本能にあるからこそ、事故や問題が起こるのである。


「分かっているわ。何か望みの曲はある?」

「何でもいい。それより、邪竜についての情報はあるか?」


 ハーピィの情報網は広い。

 民族単位で放浪癖がある風の民は、責任者として自分の意思で好き勝手に動けない族長の好奇心を満たすため、己が知り得た各地の様々な情報を報告するのだ。 


 リア・ノインは眉をひそめた。


「うーん……世界の各地で邪竜が出ているか、知りたいんだよね?

 魔大陸ハッシュガルドで何十年か前に出たらしいけど、神竜ツェツェアルセリシャスに倒されたって言うぐらいしかないかな。前の族長リア達の時代も、貴方が封じられてからの邪竜報告は代に一、二件あるかないかの頻度ひんどで、全部違う神竜に倒されてるよ」

 

 光の民アルヴは結局のところ、この世界に与えられた役目を放棄したのだ。

 確かに代わりに邪竜を倒せそうなのは、世界の一部である神竜ぐらいだろう。


 瘴気の量は、彼の封印前の数十分の一ぐらいまで激減している。

 そう頻繁ひんぱんに、邪竜が生じるような状況ではないから、世界も十分対処できる回数に落ち着いているらしい。


 激減した理由は、分かっている。

 莫大な瘴気の塊であるアルウェスごと、能力の増幅処置をした彼を封じたからだ。

 彼を封じて三千五百年ほどで、どれだけアルウェスの力が削ぎ落とせたのか。

 その点、非常に気にかかるところだが、確かめるためだけに危険を冒すわけにはいかない。


「それじゃ、邪竜王ティアマトアルウェスについて何か知っているか?」

「……んー……邪竜王ティアマトアルウェス、ねぇ……」


 リア・ノインは、ますます眉根を寄せた。

 アルウェス、アルウェス、と口の中でブツブツ繰り返す。


「……もしかして、アルウェスって終わりの魔物のこと?」

「お前達が神と呼んでいた光の民アルヴが、封じる事が出来ても決して消滅させれなかったバケモノがそれに当たると言うならな」

「うん。それで合ってるみたい」


 リア・ノインは大きく頷いて見せた。

 すぅ、と息を吸い、吐き出しながら美しい声でうたう。


「――世界の始まりの日に地の底より生まれし、死をつかさどる存在。

   は世界を喰らいし、巨大にして強大なる魔物。

   幾千、幾万の月日を戦いを続け。

   神はついに、のものを封じる事に成功した。

   神域で眠る彼のものの前では、息をひそめよ。

   眠りを妨げてはならぬ、眠りを覚まさせてはならぬ。

   神が無き時代、彼のものが覚醒めざめたのならば、一切の希望を捨てよ。

   それは世界の終わりの始まり、そして世界樹は枯れ落ちる――」


 リア・ノインの歌声と共にまき散らされる魔力は心地よく。

 特に情報は得られなかったと、少しの落胆を感じながら、彼は目を閉じた。




「それで? 義兄上が言っていた話したい事って何なんだ?」


 ラムザアースの問いかけに、イーシャは小さく息を吐いた。

 暗い光を宿すアルフェルクの眼から、視線を逸らせる理由が出来てホッとしたのだ。

 さっと視界を、隣に座る義兄に固定する。


「闇の民サレの対策についてです。献策けんさくが一つあるのですが、聞いて下さいますか? 闇の民サレ対応戦闘部門副将、ラムザアース=アフラン=エウドリ=ディアマス殿下」

「……陛下の許しは?」

「既に。内容はいまだ申し上げていませんが」

「聞こうか」


 ラムザアースは軽く姿勢を正した。

 もともとダラけて座っていたわけではないのだが、イーシャの口調けいごが公的立場を求めていたからであろう。

 

「闇の民は離反表明に氷魔王カタストロフの名を上げました。その点を利用出来ると思います」

「ああ。確か、

〈我等闇の民サレ族は、現世に再び目覚めし我等が至上たる氷魔王に、大陸の覇権を委ねようと考える〉

 ――だったか? 離反表明に載せてたな。彼等の大義を利用するか」


 イーシャは大きく頷いた。


「はい。委ねると言うのならば、従ってもらいましょう」


 闇の民が、どういうつもりでカタストロフの名を挙げたかは分からない。

 彼はオーウェンから非公式のものも聞いていると言っていたから、何か離反する事で叶う事柄があったのだろう。

 色々あったせいで、すっかり非公式の表明を聞くのを忘れ去っていた。

 後でカタストロフに聞いてみなければ。


「今回の水の民の事件で、カタストロフ殿は私に解放された借りがあるから、私が生きている間は私の味方となって下さると、約定を結んで下さいました。その件を闇の民側に報告し、直接彼に出向いて伝えてもらうか、一筆あちらに直筆の手紙を出してもらうかして、離反を取り消してもらえればと考えます」


 これで断れば、闇の民の大義は無くなる。

 理由に挙げた水の民ニンフは、既に宣戦布告を撤回し、再度の盟約を交わす手続きに入っているのだ。

 離反するにあたって掲げた二つが消えてしまう。


 闇の民にとって、大陸の覇権を委ねようとした至上たるカタストロフの性格から目論もくろんだとおぼしき計画が、彼の不規則イレギュラーな行動によって潰れていく。


 従ってくれればいい。

 それならば、水の民に続いて余計な被害が出ずに、元の鞘に収まるだろう。

 ドラクロの血液という犠牲が出た水の民とは違って、無血で、だ。


 従わないのならば、その時は。

 イーシャは戦闘を希望して、カタストロフと共に最前線に立つつもりだ。

 カタストロフが敵対しているのがはっきり分かれば、士気どころではなくなるだろう。

 そうして、最小限の犠牲で降伏に追い込めばいい。


「なるほど、お前の味方ね。お前はディアマスの味方だ。表明に忠実であるのなら、カタストロフ殿がお前を選んでいるその間は、どうあってもディアマス側に付いている必要がある、と言う訳か」


 ラムザアースは呟くと、頷いた。

 そうして、すいっとアルフェルクの方へ目を向ける。

 まるで、貴方はどう思いますか、と意見を求めているかのように。


 煤まみれの上着を脱ぎ、のんびり茶を飲んでいた王太子は、にっこり微笑んだ。

 ラムザアースの目線が、再びイーシャへと戻る。


「私も行ってみて良いと思う。早速陛下にも申し上げなければ。カタストロフ殿にも、協力をお願いするんだ。一度、直接お会いするべきだな」

「私、午後一番に謁見要請をしているわ。ラズも同じでしょう? その時、申し上げれば良いじゃない」


 イーシャは言葉を崩した。

 公的に伝えたかった事はもう済んだ。

 私的な時間ラムザアースに、ダラダラと硬いしゃべり方をする気はない。

 アルフェルクに対してはずっと敬語でも気にならなかったりするのだが、これは仁徳の差と言うものだろうか。


「クーは――あ、カタストロフ殿の事ね――大抵午後は部屋にいるから、先触れなしでも平気だと思うけど、私も一緒に行くわね。多分、ラズだけで会いに行ったら会話にならないと思うし」

「ああ。頼む」

「謁見が終わり次第で良い?」

「そうだな。これといって大した報告はない。陛下がいつもの長話をされたとしても、ちょうどお茶の時間あたりには会いに行けるか。何か土産でも持っていこう」


 ラムザアースもレスクに長話で捕まるらしい。

 イーシャのように結婚の話では無さそうだが、何かの注意だろうか。

 ラムザアースへ下手に結婚話を薦めると後見勢力が黙っておらず、色々と困った事になりかねないので、基本レスクはそっち方面の話を振らない。


「楽しそうだね……僕もついていきたいけど、仕事が出来たし。また今度、カタストロフ殿の美貌を見に行くよ」

「お兄様。その時は、前もって連絡下さいね」


 ニコニコと笑って頷くアルフェルク。

 これはまた押しかけてくる気だな。

 過去の経験から、イーシャはそう判断した。


 いっそ、カタストロフが素顔でいる時に来ればいいのだ。

 そうすれば、反省するだろう。

 イーシャはこっそり溜め息を吐いて、脳内メモ帳に午後の予定を書き足した。

 

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