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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
本編
22/59

第十九話  変化

ユニークアクセス数が500を超えました。

本作品を読んで下さった全ての皆様のおかげです。

ありがとうございます!!


今後も張っておいた伏線を回収し、矛盾のある展開や目に余るようなご都合展開はないよう、精進します!!


この決意表明に関係して、残念なお知らせがあります。

この作品は、作者が学生の時キャンパスノートやメモ帳に書いた話を加筆・修正しながら書いてます。

今書いてる辺りで、ちょっとこれ変じゃね? 都合よすぎるなー、と感じてしまい、手が一昨日から止まりました。

此処さえなんとかなれば、文章に対して変な所ないんですが……

ストックが明日までの分しかありません。

明後日までに解決出来なかったら、連続更新が止まってしまい、続きをお待たせする事になるかもしれません(TT

そうならないよう、無い知恵を絞ります。            朔夜

「カーフィ、ホントに面倒臭いの嫌いね」

 

 よくエーリスはそう言って、彼を引きずり出した。


「本当に馬鹿みたいよ、カーフィ。そうしなければ本格的に壊れてしまうとしてもね。

 目をつぶって見ないふり、聴覚を一時的に封じて聴こえないふり、歯を食いしばって口を閉じて何もしゃべらない。

 そうやって事態が過ぎ去るのをただじっと待ってるから、あいつらにお人形さん呼ばわりされるのよ! 貴方の力が必要なのは事実なんだから、自己主張して態度が大きくなったとしても殺される事だけは絶対に無いのよ!?」


 彼はその言葉も聞こえない事にしていた。

 確かにそうだと、頭の中では頷いていても。

 数百年に渡って続いた経験が、防御本能として内にもる事を選択させる。


 思考が停止したのか。

 何かを考えだしたのか。

 それとも向こうで何か事体が動き出して、余裕が無くなったのか。

 イーシャの『声』が止んだ。


 静かになった事にひとまず満足して目を閉じ、身体の力を抜く。

 夕日が天窓から差し込む中、彼は眠る体制に入った。


 つかの間の平穏、嵐の前の静けさ。

 それに値したのだと、彼が悟るのにそう時間はかからなかった。





「……リア? イスフェリア!?」


 自分の名を呼ぶ声とヒンヤリ冷たい床の感触に、イーシャはカッ! と、両目を見開いた。

 深く呼吸を繰り返し、知らぬうちに涙がこぼれ落ちているのを自覚する。

 直接思考に叩きつけられたカタストロフの強烈な拒絶の混じる感情は、彼女の心の奥まで響いていたのだ。


 こめかみの痛みも、いつの間にかやって来ていたスアウの存在も。

 イーシャには、どうでもよかった。

 小刻みに身を震わせ、感情のままに叫ぶ。


「クーのド阿呆あほうっ! 筋金入りの怠け者っ!!」

「「……はぁ?」」


 スアウとドラクロの怪訝そうな声が、綺麗に重なる。


「クー? 誰だ、それ?」


 イーシャは金切り声でカタストロフを罵倒するのに忙しく、どうでもいいと判断したので無視した。

 ひたすら肉声に出して、彼女の知る限りのありとあらゆる言語を使ってののしり続ける。


 しばらくして、イーシャは不意に我に返った。


「しまった!! 普通にしゃべってたんじゃ届かないじゃない!」


 唖然とした様子でイーシャを眺める二人をよそに、彼女は一人納得すると再び目を閉じた。

 集中状態に入ろうとするが、何故か 身体を揺さぶられているため、それもままならない。

 イーシャの怒りの温度が更に上がった。

 己を揺さぶる手の主を、殺気のみなぎる眼差しで睨みつける。


「集中の邪魔をするなっ!!」


 イーシャが正気だったら絶対にしなかったであろう。

 十倍以上年上であり、上位者であるスアウに対して怒鳴りつけるなど。


 歴戦の猛者であるイーシャの濃密な殺気にてられたのか、単に普段と違って命令口調だったせいなのか。

 スアウは彼女の両肩から手を離した。


「イーシャちゃん。拉致の衝撃ショックで現実逃避でもしてるかと踏んでたんだが、その様子じゃ違うな。現実を意識から切り捨てるほど集中して、何やってんの?」


 イーシャの異様な様子に面喰っていたドラクロだったが、殺気を浴びて闘争意欲を刺激させられたのだろう。

 妙に楽しそうな様子で聞いてくる。

 イーシャは間髪入れず、言い切った。


「クーと念話! 分かったんなら邪魔しないで!」

「この程度の逆境で値を上げるような弱虫じゃなくて嬉しいぜ。それが誰だか知んねーけど、気のすむまで馬鹿にしてやんな」


 イーシャは鼻で笑って応じ返すと、再度目を閉じた。

 深く深く意識を潜らせ、繋がるラインを辿ってカタストロフまで。

 この一日半そうしていたように、ひたすらひたすら、届くと願って罵声を浴びせかける。


 イーシャはちゃんと気付いていた。

 たまに、カタストロフが彼女とエーリスを重ね合わせて見ているのを。

 レスクも時々セリシェレの面影を探しているような目で見る事もあるので、その分慣れがあったから気づけた。


 カタストロフは一瞬険しい空気になって、すぐ安堵したようにやわらぐ。

 よほどエーリスは彼に嫌われているのだろう。

 イーシャは、そう考えていた。


 どうやら、彼の昔馴染みに関する気持ちはそう単純なものではなさそうだ。

 彼女の言葉はカタストロフの芯に響き、普段動きはしない感情を大きく波立たせる。


 イーシャを必要として、イーシャの管理下にあり、イーシャとほぼ対等に過ごしていた彼は、ほんの少し似ているエーリスの方こそ今でも必要としている。

 そう思って、イーシャの中から激しい怒りが湧いた。

 彼女の怒りは、小さな子どもが大事にしていた宝物を盗られたモノによく似ている。

 恋情がからまない独占欲。

 『私』は誰かの代わりじゃない。貴方も、『私』が必要ではないの――と。


 罵倒はカタストロフまで、ちゃんと届いている。

 他ならぬ彼が最初に言ったのだから。


 イーシャの罵倒語彙ごいは豊富である。

 最初は下士官に混じって戦場入りし、職務上今でも色んな地方からやってくる下級兵とも接触する機会が多くあるのだ。自然に増える。

 その全てを言い終え、更に繋ぎ合わせるなどして新たに創作し、言語を変えて最初から順繰りに言い直すこと十二週目。


 イーシャは、パッと目を見開いた。


 音を立てて血の気が引き、周囲から光が消える。

 頭が割れるかのように激しく痛み、視覚の代わりに聴覚が冴え渡って、自分自身の心臓の鼓動の音がうるさく感じるほどだ。

 その状態で集中など出来るはずもなく、イーシャは激痛に顔を土気色に染め、両手足を痙攣けいれんさせた。

  

「!? どうした、イーシャちゃん。今度は何だ!?」


 スアウは、とっくに出て行ったらしい。

 目に見えて異変を起こしたイーシャの耳に、焦った様子のドラクロの声が響く。

 その問いにこたえる余裕はない。


 イーシャは、その感覚に覚えがあった。

 これは肉体と魂が上げる悲鳴だ。

 樹海の遺跡で感じたものと同種、受容可能容量を遥かに超える『力』が突如とつじょ内側に現れた危険信号。

 きしみを上げる身体は、あの時と同じように『力』に押され。

 痛みに色を失ったイーシャの唇が、彼女の意図しないまま動いた。





 様々な悪態を飽きる事なく発信続けるイーシャに、彼は苛立つよりも反省した。


 逆上するという事は、イーシャ自身に誰かと同一視されているように感じ取られてしまった点が、幾度かあったという事であろう。

 そっと心の中にしまって置いてくれたわだかまりを、やぶを突いて出させてしまったのは彼の失態だ。


 実のところ、彼はイーシャに苦手意識に近いものを感じていた。


 彼女は光の民アルヴのくわだてから、一部とはいえ彼を解放してくれた恩人である。

 それだけでも感謝の念が尽きないのに、衣食住の世話まで自ら采配さいはいを振るってくれた。

 他者と接触するのが嫌いな事も、彼が口にせずとも気付いてくれて必要以上に干渉されず、快適に生活出来ている。


 イーシャの行動が封印を解いてしまった責任感からであっても、前触れもなくやって来て初対面であるのに名乗らず強引に連れ出し、いきなり闇の民の集落に連れ出されたと思ったら、驚いている当時のサレ族長に押しつけるようにして何も言わず置いていったエーリスとは大違いだ。

 あの時、サレ達が『魔王』と気付いてくれなかったらどうなっていたことか。


 仮に光の民のくわだてが世界にとって善と成り得るものであったとしても、彼の感謝の念が尽きる事は無いだろう。

 彼等に良いように使われるのは、うんざりしているのだ。

 エーリスに似ている点が無かったら、もっと分かりやすく態度に出ていただろうに。


 ふと、彼はある事に気づいた。

 そういえば、一度も恩人だと考えている事を伝えていない。


 意識してなかったが、自己防衛本能があえて言わせなかったのだ。

 言葉に出してしまえば、恩は借りになり、彼の立ち位置が決まってしまう。


「……いや。言わなくても同じか。恩人認識があるせいか、イーシャにどうも強く出れないしな」


 声に出して呟いたためか、何事かと振り返った牢番がバタリと倒れる。


 結果が変わらないのならば。

 延々と続くイーシャの罵倒を聞き流しながら、彼は一つの意思を固めた。





「――道よ、通れ――」


 簡潔ないにしえの力ある言葉コトノハが、イーシャの口からこぼれ落ちる。


 ドラクロが大きく息を飲む音が聴こえた。

 身体を侵食していた『力』が消えると同時に激痛が消え失せ。

 ぐったりと汗だくで床に倒れ伏したイーシャの耳は、小さな物音を拾った。


 コツリ。コツリ――近づく誰かの歩く靴音。

 スアウでは無い。

 彼女はまるで滑るように歩くので、杖をついてなければ足音を立てない。

 

「な、お、お前、どう……!?」


 ドラクロの声が不自然に途切れる。


 すぐ傍に覚えのある強烈な力波を感じ取って。 

 イーシャは荒い息を整えながら、ゴロリと転がった。


 視界が回り、二本の足が目に留まる。

 装飾のように優美で細く長い鎖、どっしりとした強固そうな錠のついた足枷。

 嫌な予想が当たって、イーシャは新たにダラダラと冷や汗を流した。


「よぉ。イーシャ」


 カタストロフは腰を落としてしゃがみ込み、イーシャと目線を近づけた。


 押さえつけていた頭布と飾り紐がなく、サラサラと彼の前髪が音を立てて揺れる。

 目元までしっかり覆い隠していた黒い幅広眼鏡ゴーグルが外され、あらわになった赤みがかった金の双眸はギラギラ光っていて。

 どう見ても愉快ゆかいとはいえない様子であった。


 カタストロフの言葉で表せないほどの美貌を隠すものは何一つなく。

 かつてない近距離で、直視してしまったイーシャはどうしようもなく魅入った。


「黙っていれば、執拗しつように粘っこく好き勝手馬鹿にしてくれたな。お前」


 ああ。私、死んだかも。

 ろくに動かない意識の片隅で、イーシャはそう思った。



  

実は微妙に、相手に対する認識がすれ違ってる二人です(w


カタストロフが怒っているのは、イーシャに大してではありません。


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