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姫将軍と世界の楔  作者: 朔夜
本編
21/59

第十八話  距離なき会話

早いもので、もう12月。

皆様も、風邪に注意して下さいね。


「――何それ! 真実ほんとうなの!?」


 イーシャは驚きのあまり目を見開き、肉声に出して叫んだ。


 深い集中状態から、急激にうつつに戻った反動か。

 あっさり伝えられた爆弾並みの衝撃情報のせいか。

 イーシャは、こめかみの辺りがズキズキ痛むのを感じた。


 突然、叫び出したせいだろう。

 変わらず壁にはりつけられている状態のドラクロから、不審な眼差しで見られた。

 そんな事はどうでもいい。

 イーシャにとっては、今のところ問題ではない。


 イーシャは再び目を閉じ、深い深い集中状態まで自身を導くと、ラインを意識しながら答えが返ってくるまでひたすら尋ねた。


 ――その話、真実ほんとうなの!? クー!――

 ――お前に嘘をついて何か得があるか? 言ったはずだ。開戦はまだ先だと――


 続けざまに発生した、長年盟約を交わして相互協力関係にあった二つの民族達の離反。

 確かに、開戦はまだまだ先だろう。

 想定が異なってしまったのだから、軍の編成だってやり直しになる。


 闇の民サレの離反の影響は甚大じんだいだ。

 サレの能力は暗殺に最も向いている。

 闇の精霊の力が最も有効に奮えるのは夜であるが、昼でも充分な効果がある。

 影は闇の一部だからだ。

 標的の影に干渉して魔力をぶつけたり、影自体を操作して動きを止めたり。


 レスクは前にオーウェンが、敵対した十メート先の相手の肩に落ちた薄い影を操作し、首を絞め落としたのを見た事があると言っていた。

 この事から、認知されない距離から攻撃しないと一対一では勝利は難しい。


 サレは元々近接攻撃も得意としている。

 しかも、個人魔力保有量は八の民族一。

 理知的で知略にも優れているので、戦場で相対すれば遠慮なくドカドカ攻城級魔法を浴びせてくるのは目に見えていた。

 数の差で王国側は勝利は出来るだろうが、被害が恐ろしい数字になるに違いない。


 容姿的にも、細身で儚い印象のある水の民と、妖艶で敵意と嘲笑の似合う闇の民では相対する威圧感プレッシャーが段違いだろう。

 もっと問題なのは。

 破れかぶれの水の民とは違って、勝算が無いのに戦争を仕掛けて来そうにない点だ。


 現時点で離反のみだろうが、これから何もしないのならばする必要がない。

 ディアマスに属していたままの方が暮らしやすいし、他にも利点があったから盟約を結ぶ事になったのだ。

 確実に、何かをしかけてくるからこそ、陣営から抜けた。


 ――御父様、頭からけむり出して倒れてそうね……

   クー、闇の民の離反決意表明って出てるでしょう? 分かる?――

 ――公式か? それとも非公式?――

 ――知っているなら両方――


 時期的に、おそらく水の民に関する協力要請をオーウェンは断っている。その上での離反表明だとしたら、正当性も取れるのだ。

 イーシャが気にかかるのは、カタストロフが非公式の表明を知っているような感触を受けた事である。


 スアウによるイーシャとドラクロの襲撃及び拉致事件は、現場が彼の部屋だったので一度は対策会議に発見者として出ただろう。

 ずっと会議に出ていたというのは有りえない。


 現在、カタストロフはイーシャの預かり。

 要は長期滞在のお客様扱いなのだ。

 彼女の部下として役職に就いているわけではないから、会議に呼ばれる必要性が無い。

 先程も、会議自体について他人ひと事のような印象を受けた。


 カタストロフは、自ら立ち入り禁止の場所に入っていくような積極性を持っていない。


 構われるのがあまり好きではないらしいのは、細々した身の回りの世話をさせている者達の報告で理解していたので、誰かと雑談して噂話を聞いたというような可能性も低い。

 無いわけではないのはカタストロフの場合、話かけられれば興味が無くても一言二言くらいなら返すためだ。

 相手が空気を読めなかったり、読めてても図々しい者だったりすると一方的な会話なら成り立つ事も有り得るのである。


 幾ら彼に流れる血の半分が闇の民であったとしても、それだけで対策会議に呼ばれるかと言えば否だ。

 疑問に満たされていたイーシャの脳裏に、淡々とカタストロフの思念が届いて響く。


 ――ニンフ達を救い切れず、その誇りを穢したディアマスは信ずるぬ値せず。

   水の民は随一に穏和で忍耐強い民族。

   そんな彼等を戦いに駆り立てた事柄だけで、充分にその証となる。

   我等闇の民サレ族は、現世に再び目覚めし我等が至上たる氷魔王に。

   この大陸の覇権を委ねようと考える――


 早い話。

 水の民が決起するほど、酷い目にあわせている夢の民が治める国に愛想が尽きた。口だけのお前らに協力するのは嫌だ、という事である。


 水の民を怒らせたのは事実だ。

 その点は反論できないし、メイザスが反乱の許しを盟約条件として与えているので、前半に対しディアマス側が文句を言える内容ではない。

 問題なのは後半だ。

 名指しで、カタストロフが示されている事。


 ――それじゃあ、貴方面倒な事になってるでしょ。周りが色々言ってきてない?――

 ――そうだな。俺、今牢の中だ。

   オーウェンから話聞いてたし、予想はしてたが――


 非公式を知っていた理由が良く分かった。

 カタストロフは民族長定例会議の後、オーウェンに直接聞かされたのだろう。


 スアウの事件が起きる前に聞いていたとなると、闇の民はかなり前から離反の機会を窺っていた事になる。

 最も最悪の可能性は、水の民と示し合わせて離反計画を練っていた場合だ。そうだとすると、とっくに準備が終わっていて何時いつでも攻めてこれるという事になる。


 ――オーウェン様から話があった時、自分の名前出して良いと許可したの?――

 ――これ以上ないくらいはっきりと、俺を巻き込むなって言ったんだがな――


 幸い、カタストロフに協力する気はまるで無いようだ。

 しかし。

 イーシャは、彼が置かれている状況に納得いかなかった。

 闇の民の離反に無関係であるのなら、牢に入らされる理由が無い。


 ――ねぇ、クー。貴方何かしでかしたの?

   戦時においても理由なき投獄は禁じられているのよ?――

 ――強いて言うなら、何もしなかったせいだろうな――

 ――そんなはず無いわ。何もしてないの?――


 カタストロフの思念が途切れた。

 どうやら、自分の行動を思い返して心当たりを探っているようである。


 ――言い方を変える。俺は敵になる事も味方になる事も助言を与える事しなかった。

   立場を示めさなければならないと警告されたが、それでも何もしなかった。

   否定するだけでな――


 今度はイーシャが黙り込む番だった。

 カタストロフは本当に何もしていないようだ。


 ディアマスとしては彼の存在を無視できない。

 強力過ぎるからだ。

 彼がその力を振るい示した事など一度としてないが、ある程度近づけば分かるほどに強大な『力』をその肉体に秘めている。

 味方になればこの上なく心強いが、いざ敵に回れば戦慄と恐怖以外の何物でもない。

 牢屋に入れても何も解決にならないどころか、むしろ敵対させかねない。

 そもそもカタストロフがその気なら、簡単に牢屋から出ていけるはずだ。

 それなのに、牢屋の中に居るという事はそれだけ何もする気が無い、何もしたくないという意思表示である。


 明確な立場を示さないという理由で牢に入れるというのは、やはりやり過ぎだった。

 超危険人物を放置出来ず、扱いに困って牢屋に入れた王城関係者の気持ちは分からなくもない。

 だが、これは挑発行為に等しい。

 牢屋行きにする事で、かえってカタストロフを怒らせ、そのまま王城から出て行ったらどう償う気でいたのか。

 言い出した者と、許可を出した者は誰だろう。

 脱出後に殴る。

 イーシャはぐっと拳を握って決意した。


 ――クー。何故オーウェン様の協力を断ったの? 

   今の世界に関わり合いたくないから?――

 ――俺は利用されるのが嫌いだからだ。

   はっきり言っておくぞ。俺がいる方が勝つ。

   一撃で王都を壊滅できる自信がある。

   封印されてる今の状態でもな。戦う意味がないと思わないか?

   誰かに利用されるくらいなら、俺は喜んで牢で退屈している方を選ぶ――


 イーシャはしばし、絶句した。


 カタストロフの実力についてではない。

 彼の血の半分は神とうたわれた民族のものだし、精霊の協力があったとはいえ大陸半分を氷の世界に変えたほどの人物である。

 驚くよりも、納得いく。

 イーシャが驚いたのは、その価値観の方だ。


 ――クー、貴方。実はものすっごく消極的な人間だったのね――


 カタストロフが言語習得に積極的だったので、イーシャは気付いていなかった。

 干渉を嫌う振りはあったものの、ただ人見知りしているのかと考えてたのだ。


 ――でも、どうしてはっきり言ってやらないの? 全てに関わる気が無いって。

   そこまではっきり言っておけば、牢屋行きになんてならなかったと思うけど――

 ――それは言った。だが、状況は変わらん。

   現に今も『説得』しようとする奴等が後を絶たないな。

   まるで、中立が罪とでも言わんばかりだ――


 中立は罪ではない。

 白と黒しかない世界が、成り立つはずが無いのだ。

 灰色の領域はどうしたって必要であるし、無ければただ破滅へと向かう恐ろしい世界だろう。


 確かに、カタストロフの行動は一理ある。


 当事者でもない彼が積極的に行動しては、何も変わらない。

 今の世界に、むしろカタストロフは関わってはいけないのだ。

 当事者同士で戦って結果を出し、あるいは手を取り合って解決に持ち込まなければ、また同じ事の繰り返しになってしまう。


 ただし、カタストロフの言い分は利用されたくないから中立を選んでいるだけだ。

 そして、中立を希望する割にそうり続けるための努力を嫌っている。

 彼のような立場は中立とは言えない。

 そう。極度の面倒くさがりだ。


 ――呆れた。中立でいたいのなら、それくらい普通でしょうに――


 イーシャは苛立ちを感じた。

 いつぞやも同じ印象を思った事だが、カタストロフはアルフェルクに似たところがある。

 やろうと思えば自分だけで望みの叶うだけの実力が充分以上あるのに、面倒だからと手を抜いているところがそっくりだ。


 ――どんな立場だって、面倒事はもれなくついてくるのよ――


 どんなに努力を重ねたって、報われない事は沢山ある。

 その努力すらしないのならば、余計に。


 ――貴方は足場すら固めきっていない状態で、ただダラけているだけじゃない。

   見ざる聞かざる言わざるで、ただ嵐が過ぎて行くのを待っているだけ――


 イーシャが言ったその言葉の返答は、今までにないほどに強烈な感情。


 ――お前はエーリスと同じでやかしいな。言う事までそっくりで、苛々する――


 カタストロフの『声』は何処までも冷ややかで、激しい怒りに満ち溢れていた。




文字数を気にし過ぎるせいか、どうにも話の展開がスローな気がします。

精進せねば……!!


以下、最近の作品に関する悩み。

登場予定の未出キャラの名前が思いつかんとです。

出番が少ないんで、いっそつけなくてもいいかなと考えた事もあるのですが、設定上ルビエラの対に当たるのでないと不自然さが出てしまいます。

ルビエラさんはキャラ的に名前を呼ぶでしょうし。


ルビエラはルビーからもじってつけたんで、同じようにサファイアからつけようとしたんですが……

女性名しか思いつけないのです。

対になるので男性名が思いつきたいのに。

何故か、作者は男性名が苦手です。

レスクなんて、超テキトー。

作者はRPG大好きなんですが、知ってるゲームからキャラ名を拝借しようとするとイメージが固定されてるせいか、拒絶反応が。

長兄のミドルネームも結構悩みましたが、普段使わないし語感が良かったんで時空を超える物語のラスボス名から取りましたけど。


長々しょうもない悩みまで読んで下さった方、ありがとうございます。


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