全てを放り出したい・・・
その夜、タイジは6人の女達がぐったりして寝息をたて始めたのを見て、起き上がり、服を着ると部屋を出た。そこから、少しばかり廊下を歩いてバルコニーに出た。ごちごちの装飾と粗い作りの魔王城から見上げる3つの大商る月と星々、銀河は不気味にさえ見えた。それでいて離れがたいものも感じた。魔王城を占領してから、1か月近く、ここを拠点にしていたことがそのせいではない。
「どうした?王妃様達はいいのか?」
とどうして気が付いたのか、ウラヌスが後ろに立っていた。
「俺の元居た世界では、月は大きいのが1つだけでな。この月だったから生物が生まれる環境になったということが言われていてさ。今さらだが、それは間違えだって感じていたんだよ。」
「嘘ではないだろうが、それで物思いに耽るほど詩人ではないだろう?しかも、6人分の女の臭いをプンプンさせた男の言葉ではないぞ。」
「美人騎士隊長の臭いをプンプンさせているお前に言われたくないが、結婚式の話は終わったのか?」
「ああ、しているところだよ。」
と恥ずかしそうに横を向いた彼に、タイジはこいつはこういう男なんだと改めて思って面白くなった。が、
「明日からのことで気が重くてな。」
明日、オリオ王国に向け旅立つのである、帰還の旅である。凱旋であるとも言える。
一応魔族、下位魔族達は平和、共存には同意して、こちらの方は一段落している。
そして、そのこと以上に、全てのことが終わっていた。
暗殺ギルド、闇ギルドの本部は壊滅した。転移魔法で乗り込んだタイジ達が瞬くの間に、多分壊滅した側が自分達が誰に壊滅させられたのか理解できなかったろう。それが終わると、
「私の実家に転移して打ち合わせをしていいかも?」
とヘル、王妃が言い出した。それで、4人の実家に転移して、彼女達は利益誘導も使って説得を試みた。突然現れた彼女達に驚いただろうとウラヌスは思って、相手方に同情したものだった。それは、手ごたえがあるものだった、上々のできだったと彼女達は言っていた。が同時にそれで決まったとも思ってはいなかった。さらに、スカディの元夫が、愛する妻奪還のため、もうしっかり愛人達ががいて本妻争いをしていたにも関わらずにだが、色々と手をまわして、クーデターというかタイジ、勇者暗殺を試みた。兵をあげたのだが、その前にスカディに会って大いに、涙を流し、愛を訴えたのである。それで彼女が自分の元に戻った、勇者タイジの力は失われたと思ったらしい。情報が曖昧に流れたいたのか、都合よく解釈したのか、両方なのか。簡単に壊滅させられ、彼はスカディの目の前で、というようなことはせず戦いの中でタイジが簡単に斬り殺している。彼の死を聞いても、彼女は全く動揺するところはなかった。そもそも、自分に愛があると彼が考えること自体が間違いだったとも言えるようにウラヌスには思われた。
「おれは全てを放り出したい。子供の頃はそんなだった。」
と嘆くように言ったタイジを怪訝な顔で、
「そんな風には見えないがな。それに・・・今子供の頃と言ったよな。誰でも子供の頃は、失敗ばっかりで、間違いばっかり・・・恥ずかしくて思い出したくないことばかりじゃないか?大人になってからは違うということだろう?」
とウラヌスは慰めるように言った。俺は、神童と呼ばれて、失敗とかなんかはなかったけどな、と心の中で呟いた。
「多少は我慢できるようになった・・・それだけだよ。本性は変わらない。」
「しかしな、魔王は倒したし、魔族との和平、共存の端緒を作ったし、結果として暗殺ギルドも闇ギルドも潰したし・・・王妃様達の協力はあるが国王陛下達を相手に陰謀を巡らしているじゃないか?そんな奴が全てを投げ出して逃げたいなんて言うか?いざとなったら、大暴れすればいいんだしな。お前を取り押さえるのには大変だろうな・・・想像するのも恐ろしいよ。」
と苦笑してみせた。
「広がり過ぎて・・・。それにどれも上手く行くかどうか・・・不安だ・・・。それにだ・・・人妻さん達さ・・・俺のために人生をめちゃめちゃにされて・・・、彼女達の幸せを考えると・・・ああ、みんなどうしたらいいかわからない・・・。」
頭を抱えるような感じのタイジに、ため息をつきながらウラヌスは、
「もうどうしようもないじゃないか?お前のせいと言うわけじゃない。第一、お前を召喚した俺達のせいでもあるんだから。あのスキルがさ、口にするのも恥ずかしいスキルだけど、これまたお前のせいじゃない。魔王討伐は俺達が頼んだこと。それにだ、王妃様達は自分達の保身のために動いているんだよ。彼女を守るために・・・彼女達を守ることに専念すればいいだろう?俺はもうお前について行くしかないしな、もう。妻もいっしょにな。」
「ああ、そうだな。」
と力なく返すタイジだった。
その時、
「だんな様。どうしたの?」
との声。
「ああ、今後の策をウラヌス様と相談していたところだよ。よくわかったよ。心を決めたよ。」
と言って彼は声の主のところに歩いて行った。
「まったく女の顔を見て・・・単純な奴だ。まあ、そういうところがいいのだが。」




