勇者は私に任せて下さい
「最強無双の勇者・・・。もう我慢ならぬ。わし自ら討伐に向かう。」
魔王城、人間達は勝手にそう呼んでいるが、魔族達はヴァルハラ城と呼んでいる。上級魔族の中で、魔王となった者、魔界、魔族と呼ばれるあるいは自ら名乗る種族、全てを制圧し、唯一の魔王となった者にのみが、その城の扉が開かれ、そこにある玉座にすわることが許されることになっている。魔王バルドルは、この時大柄の人間型魔族の姿を取っているが、金髪の甘いマスクの男の姿である、魔法により実際とは異なる形をとってるだけである、その玉座から立ち上がり、苛だたしそうに叫んだ。
「勇者は私に任せて下さい。」
と豪語した出陣した既に、四天王の2人が帰ってこなかった。もちろん、勇者に倒されのだ、敢え無く。既に勇者パーティーは魔界に入り、重要な砦を、討伐に赴いた軍を簡単に落とし、全滅させてしまった。
「お待ちください。魔王様。ここは私めに任せて下さい。」
と進み出たのは、副魔王の一人だった。彼も人間型魔族の形をとっていた。赤い髪の整った、中年紳士のような顔立ちだった。もちろん魔法で、本隊とは別の形をとっているのである。どうしてかと言うと、下位魔族のかなりの部分が程度の差こそあるものの人間型魔族であるためだった。
「ええい。そのような言葉、聞き飽きたわ。戦力を小出ししていては、じり貧だ。ここは、力を集中的に投入した方がよいのだ。」
と吠えるように言ったが、正論ではあるが、あえて副魔王は諦めなかった。
「私めが勇者を食い止めます。倒すというのではなく、進んでは退き、退いては進んで、時間を稼ぎまするその間に、魔王様は、本軍を率いて人間、亜人の世界に進撃していただきます。かの最強無双とふざけた勇者ではありますが、実力は侮れないものをもっております。逆に奴のいない人間、亜人の軍など魔王様が陣頭指揮を取った我が軍には、ほとんど無力でしかありません。壊滅していく人間達からの救援の報を聞いて焦り、駆けつけるふざけた勇者を魔王様と私が挟み撃ちするのです。人間達には、魔王様様どころか上級魔族を牽制する力もありません。全力を持って勇者を迎い討つましょう。」
と一気にまくしたてた。魔王は、しばし考えた。そして、
「それもよかろう。しかし、それには連絡が密だぞ。それを、疎かにはするな。それで、兵力はどうする?」
と彼の策を取ることとした。
「あまり数か多いと、柔軟な動きが困難ですから、比較的少数で精鋭を揃えた部隊がよろしいかと。」
「わかった。それなら、八部衆とその手勢をつけよう。これにお前の直属の兵で十分か?」
「ここまで精鋭をいただけるとは思っておりませんでした。十分すぎるほどです。」
その会話があったのは10日ほど前のことだった。魔王の陣頭指揮の魔法軍本軍は、人間達の領域の手前、もう一歩というところまで進出していた。明日には、一気に侵攻する予定だった。その時、副魔王からの伝令がきた。当然勇者と遭遇したということだろうと判断した。しかし、伝令の報告は、伝令は傷だらけ、鎧もボロボロで、まるで敗走兵、敗残兵という格好だった。疑問を感じつつも、バルドスは、
「勇者パーティーを捕捉したか?場所はどこだ?」
と問うた。
「副魔王様、八部衆の皆さまをはじめ、多くが討たれ部隊は壊滅しました。」
との報告をうけたが、魔王も、周囲に並ぶ将校達もにわかには信じられなかったが、
「ま、まさか、たった1日で全滅、壊滅したというのか?」
「い、いいえ。半日どころかその半分もかからず壊滅いたしました。」
見た目通り、この魔族の男は敗残兵であって、伝令ではなかったのである。
「壊滅したのは何時だ?勇者達は今どこだ?」
「3日前のことです。勇者が今どこにいるかはわかりません。」
「魔王様。いかがいたしましょうか?」
四天王の一人、もう既に2人しかいないが、が恐る恐る尋ねた。魔王は怒りと焦りで、体を震わせ、恐怖のオーラと魔力を放出していて、容易に近づける状態ではなかった。
「と・・・とにかく・・・戻る。このまま人間達を蹂躙しても、後ろから攻撃されるかもしれないしな。途中で待ち伏せているかもしれんから、直ぐに先遣隊を出発させろ。本軍もできるだけ早く出発する。わかったか。」
最後は焦りから、怒りを爆発させるような命令となってしまった。
そして、翌日中には魔王城に向けて出発した魔王とその軍であったが、四方の警戒を怠ることなく、できるだけ速く進んでいたが、その2日後、先を行っていたはずの先遣隊と合流することになった。もちろん追いついたのではない、彼らが戻ってきたのだ。
「た、大変です。ヴァルハラ城が勇者に占拠されております。」
「な、何だと?」




