どうしてそうなるんだ?
「どうしてそういう話になるんだ?俺の評判は赤丸急降下だな、全く。まあ、人気があったわけじゃないけど。」
と湯屋で体を洗いながらタイジはぼやいた。
「まあ、気持ちはわかるが、こういうことは肝心なことを聞かないで、後は勝手な思い込みが広がるもんさ。それに、実際のお前を見て、接して、どこでも評判は改善されているから我慢してくれよ。」
と湯に入っているウラヌスが慰めた。
「わかってはいるがな。俺のスキル名が一番の原因だからな。」
体を洗い終わったタイジは湯に入った。体をまず洗い、湯で体を温めるのではなく湯につかって寛ぐ彼をウラヌスは、もう慣れているとはいえ、不思議なものを見るような目だった。
「こ、この女達で我慢して下さい。」
といかにも商売女という女達を並べて、土下座して懇願する領主もいた。領民に危害が生じてはと思う、良質な領主だったのだろう。実際善政をしていると後で聞いた。
逆に、
「今日は、どのような女がよろしいですか?」
とニヤニヤともみ手をする領主もいたし、
「美人の人妻を取り揃えました。」
などという市長もいた。
「どうか私の命を差し上げますから、領民に手出しはしないで下さい。」
という司祭もいれば、
「どうか私でがまんして下さい。」
という領主夫人、市長夫人もいた。
何故か、
「子供達にだけは手は出さないで下さい。」
と懇願されたこともあった。
ウラヌスの説明を聞いて、安堵する表情を浮べたり、慌てたり、がっかりしたりと色々だった。中には、我こそはとやってきた女騎士、女冒険者もいた。残念ながら、彼女らにスキルは反応しなかったが。
女の件では納得、安心しても、そういう勇者だからきっと屑で、酒だ、ご馳走だとか騒ぐ奴ではないか、別の意味で変態野郎ではないかと思われ、警戒が続くのも常だった。
「いやあ、魔王の方がましではないかという勇者様と思って心配していましたが、存外いい方でした。」
などと、安心しすぎて気が緩んで、タイジの前で笑ってそんなことを言う者もいた。流石に嫌な顔をしたタイジに気づいて平謝りになることが多かったが。タイジは、笑って赦したものだが。
「王妃様方だから、それなりに、できる範囲でいいのでよろしく頼む。ひどい我がままだったら、私がいって聞かせるから、私やウラヌス様に率直に言ってください。」
とタイジは、挨拶の後、そういうのが常だった。
「やっぱり湯で洗うのは気持ちがいいですわ。やっぱり水浴では、ちょっとね。」
「肌のたるみを誤魔化すためには、よく洗わないといけませんわね。」
「あなたほどではありませんよ。」
「それは、どういういみでしょうか?」
と一瞬にらみ合ったヘルとリリス。またか、という目のイシュタルとフレイアだったが、ヘルとリリスは突然吹き出して笑いあったので、少し驚いた。
「陛下は多分、若い妃達に夢中でしょうからね。私達が争っても、しかたがないですね。それに私達は、陛下の元には帰れないでしようしね。」
「若い妃達が、争っているでしょうね、激しく。もう私達は若くはありませんからね。陛下のことは、若い妃達に任せましょう。ところで、ヘル様、最近、お互い、肌艶が良くなってきている気がするんですけど?」
「あなたもそう思いますか?私も感じていたのですが・・・どうしてでしょうか?」
「やっぱり、最強無双の勇者タイジ様に抱かれて、愛されているせいではありませんか?義姉様方?」
とのフレイアの結論にヘルとリリスは頷き、イシュタルは、
「お二人とも、若返ったようにすら見えますわ。私も、肌の調子がいいんですよ。」
と同意した。
「私達はもう、本当に勇者様、タイジ様から離れられなくなってしまったようですね。」
とイシュタルがしみじみとした調子で言うとヘルとリリスは、また頷いた。
「そうなると、もう王族としての生活には戻れませんわね。私は、もうタイジ様と辺境の小領主の暮らしを覚悟することとしていますわ。義姉様方はどうですか?タイジ様と別れて・・・まあ、私としてはそういう方がいいのですけど。」
とフレイアは一つ上から宣言するように言った。すると、まずリリスが、
「タイジ様をあなただけのものにはさせませんよ。私も、タイジ様のものですから。」
「わ、私もそうですわ。」
リリスとイシュタルが抗議するように言った。
「ヘル様は?」
一人黙っているヘルにフレイアは、不思議そうに尋ねた。
「ご実家に戻って、再婚でもされますか?」
フレイアが、カマをかけるように尋ねた。
「それはないわね。私もタイジ様のものですから。ただ。」
「ただ?」
少し考えているように間をあけたヘルだったが、
「単純に、清貧に引退しようとしても、タイジ様が無事でいられるものかしらね?どうしたら、私達とタイジ様が静かに、平安に暮らせる或いは無事でいるか考えなければならないかも・・・。本当に腹をくくって、タイジ様に敵対する者は、私達も敵対すると考えないといけないでしょうね。」
「ああ、たしかに、その通りですわね。」
ヘルの言葉に、フレイアは同意し、リリス、イシュタルは頷いた。




