出発又は出陣➁
タイジと王妃以下の人妻4人は、最後の準備、パーティーとしての実戦経験のために二泊三日の新婚旅行もとい遠征にでた。それにはクロノスも同行した。彼も、魔王討伐の為の旅に彼らに同行するからである。基本的には戦わない、下手に加われば足手まといになるからである、がそううまくはいかない場合があり、巻き込まれて、後方を襲われて戦う羽目になる可能性は十分ある。彼らとの戦いの連係をとれるようにしておかなければならなかったからだ。
その旅の馬車の中で、その前日までの深夜にまで及ぶ会議の疲れで、彼はほとんど熟睡していた。タイジは、それを見て起こそうとは思わなかった。
前日のことだった。
「どうでしょう、国王陛下、オーガの女戦士を王妃様方の代わりにさせるというのは?王妃様は、あの勇者のスキルに反応いたしましたので、彼のパーティーの一員とならねばなりません。しかしながら、夜の営みと戦いは、他の者にその代理を務めさせるということで、王妃様方を苦しみから解放させることができるのでしないでしょうか?明日の小遠征も、魔王討伐の旅も、王妃様方は王都におられ、心はあの勇者とともにあるが、共にするのは代理のオーガの女戦士ということになり、王妃様が得たスキルも、レベルも、能力も移行できるのではないでしょうか?」
"こ、このくそ爺。何を寝ぼけたことを言ってやがる?"クロノスは、怒りの視線を、王室魔導士長に向けたが、頭の金髪が禿げかけた、腹のでた、魔導士長は、してやったりのどや顔だった。
それは、勇者に対する会議でのことだった。国王も、王弟、宰相元帥、宰相、枢機卿、元老院議長など国の重鎮が顔をそろえていた。連日、国王、国弟の顔色を窺い、ああでもない、こうでもないとつまらない議論を繰り返すばかりだった。
「おお、それは気が付かなかった。」
と国王はクロノスを責めるように見てから、
「直ぐにオーガの女戦士を用意せよ。醜くてよい、とにかく強い者を選べ。」
と王は喜色満面でクロノスに命じた。
「お恐れながら、連日説明申し上げているように、そのようなことで解決できるものではありません。」
と慌ててクロノスはそのような命令を拒絶した。
「どうしてだ?あくまで代理で、しかも一緒に夜も戦いも過ごす女を与えようというのだぞ?感謝して余りあることと思うが。」
と王弟。
"あんたら、醜いオーガ女を抱きたいのかよ?"と悪態を言うのを何とか口の手前で押しとどめた。国王も王弟も、ちゃんと別の寵愛する女と、夜はよろしくやっているのを、クロノスも知っていた。それでも、それはそれで別問題だと、2人が思っていることも分かっていた。それは王妹夫の公爵も同様だった。ただし、公爵の場合は、寝室から女の罵声と許しと罰を懇願する公爵と鞭うつ音が聞こえていたが。
「勇者様ご自身ですらスキルの発動の対象の認定は、左右できないのです。どうして、既にそれぞれのスキルのレベルが8になり、能力値が1000を超えたかを見れば、我々が醜いオーガ女が代理だから、その能力を移せと言っても、だれが移すのですか?勇者様は、醜いオーガ女を抱きたいとも、共にいたいとも思わないでしょうし、そのような関係ではスキル発動の対象にはどうしてなるのか説明していただきたい。」
と言ってから、あらためてあの口に出すのも恥ずかしいスキルの内容について説明することになったのである。
魔導士長は、国王が気に入ることを言った、それをクロノスが手厳しく否定したということで、満足気で嬉しそうだった。
「スキルが発動したのだから、もう王妃様方がいなくなってもいいのではないか?」
と側近の一人が言い出した。
「今の段階で勇者様は、他の勇者と一桁上の力をお持ちですが、魔王と魔王軍を倒すのには不足しています。それに無理やり王妃様方を引き離したら、そのスキルは活力を失うとも何度も申し上げたではありませんか?」
王妃様方が、もう離れようとしなくなっていることまでは言わなかった、クロノスは。
「そこを何とかならないのか?なんとかしてくれないか?」
と執拗に粘られて、その度に、
「私が何とかできるものではありません。」
と言い続けたクロノスだった。後半は、そのやり取りで、そのまま深夜の持久戦になって、何とか勝利したのである。
それも最後に、
「そのようなことを言われて、魅力的なオーガ女達を集めるおつもりですか?皆様が思わず抱きたくなるようなオーガ女を彼に与えるおつもりですか?とても抱きたくないような、醜いオーガ女を彼に抱かせて、魔王討伐を頼めるとお思いなのですか?」
の言葉が、決定的だった。どの顔も、オーガの醜女をあてがうつもりでいた、という顔だった。




