最強勇者のスキルは「好みの人妻とイチャイチャラブラブする最強勇者」
「どうだい、最近は?不満とか問題はないか?」
王室次席魔導士長、クロノスは、今しがた剣の練習を終えて、汗を拭いている黒髪の長身の男に声をかけた。彼は、まだ20代半ばで、その才能ゆえに最年少で今の地位についた、見事な金髪で整った顔立ちという、神から二物を賜ったような男だった。
「衣食住保証されて、運動も勉学にも励めて、規則正しい生活をさせてもらっているんだから、文句を言える立場ではないよ。」
と対照的に地味な顔立ちの20代半ば、当人は言うがもっと若く又は幼く見えるリューイ・タイジは答えたが、その中には若干の皮肉も込められているのを、年齢の割にはそういうことに鋭いクロノスは感じた。
「それで、今日は何の用だい?」
この2年近くの付き合いで、リューイはため口になっていたが、クロノスも気にならなくなっていた。
「いい知らせだ。あるいは悪い知らせかもしれないが。」
と言うと、
「大丈夫か勇者パーティーの連中は?死んじまったなんてないだろうな?」
と返した。まずは他人の心配か、お人好しだな、とクロノスは思った。半ば良い意味で感心したのである、あくまでも。
「大丈夫だよ。かなりの重傷を負ったが、全員、命に別状はないよ。魔族の王族クラスとその部隊と交戦、何とか退けたが・・・。とても、魔王には歯が立たないだろうという判断になってね。」
「それで俺にお呼び出しということかい?」
「そう言う事だ。どうだろう?」
「断る選択などないくせに、よく言うよ。とはいえ、君には恩があると言えなくもないから、勇者パーティーの面々の療養、無事、しかるべき待遇、今まで頑張ってきたことへの報償として、を保証してくれれば、喜んで王命に従うよ。」
「大丈夫だよ、確約するよ。」
「しかし、いいのかよ?口に出すのも恥ずかしいスキルの持ち主を勇者に認定して?まあ、勇者スキルではあるけれど。」
「実際、それだけ追い込まれているということだよ。」
「そんなこと外部の人間に言っていいのか?」
「まあ、私にもこのくらい言う権利があるだろう?」
クロノスは苦笑してみせた。リューイは、それに合わせて苦笑してみせた。
話は2年ほど前に遡る。
オリン王国では、勇者召喚を行った。迫りくる魔族の脅威に対抗するためである。魔族との戦は今までも一進一退、領域を守り切っているという状態で続いていたが、魔王、魔族全体を統率する存在、が現れたという情報が入った。魔王が現れると、魔王の強大な力はもちろん脅威だが、今までの魔族とは格段に強い上級魔族も多数出現する。勢力の均衡が崩れ、人間・亜人は魔族に蹂躙されてしまう。それに対する対抗策は、勇者とその仲間となれる者達である。この世界にも勇者達はいる。以前から、勇者と認定された者達が魔族との戦いに活躍していた。だが、その彼らではとても太刀打ちできなかった。いや、何とか魔族の侵攻を多少は押しとどめてくれている。が、次々に倒れている状態だった。
これに対して、二つの対策が考えられた。より強い勇者を捜すことが一つ。もう一つは、異世界から勇者達を召喚する、つまり勇者召喚を行うことである。前者は、本当にそう言う者がいるのかどうかという不安がある。後者は、異世界から召喚された者は協力なスキルを持っていると言われているが、どう言う者が来るか分からないし、そのために必要な準備は膨大になる上に、失敗する場合すらある。オリン王国では、魔導士や必要な聖具が揃っていたこと、召喚を行う施設があったこと、以前おこなったことがあったため、勇者召喚を行った。勇者召喚を行った国は他にもあるが、失敗している。強い勇者は見つけられない。というわけで、オリン王国での勇者召喚に、各国の期待が掛けられることになった。
召喚は成功した。10人の男女、皆黒髪で、ニホン人と名乗る、10代後半から20代後半の年齢、が召喚されたのだ。しかも、鑑定してみると、うち9人が勇者(2人)、剣神、大聖女、大白魔導士、大黒魔導士、槍神、大賢者、弓神のスキルを持ち、能力レベルもこの時点ですら、この世界の勇者を既に超えていたのだ。国王以下、召喚の儀をハラハラと見守っていた者達は歓喜した。
ただ、一人例外がいた。しかし、スキルもない、能力レベル最低とか、無能又は外れスキルと言う者ではなかった。スキルは最強無双の勇者で、能力レベルも10人中最高だった。だが、そのスキル名が、最強無双勇者で終わらなかった。
鑑定結果を読み上げようとしたものが、口を開けたまま、目が点状態で、言葉が出なかった。
「何をしている。読み上げよ。」
と王宮魔導士長が命じた。
「は、はい。」
厳しく命じられた男は、汗を吹き出しながら、意を決するように、一度深呼吸してから、
「好みの美人人妻とイチャイチャラブラブして、みんなと強くなる最強無双勇者。能力レベルは総合800。」
その場の全員目が点になった。




