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神具を作る者達  作者: aqri
神の子
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13 お前は戦士になれない

 守れなかった自分。戦って負けたのではない、戦う事すらできなかった。それがどこまでも影となって常につきまとう。前に進むしかないと、自分は生きていくしかないのだからと一歩一歩進み続けてもどこまでもどこまでも影法師としてへばりついてくる。

 目の前の男が自分自身と重なる。家族を守れなかった自分と家族を守ろうとしなかった男。目の前から消してしまいたかった。

 先ほど戦った時よりも相手の動きが読みづらくなってきている。戦うために生きてきただけあって、相手の癖を見抜きすぐに学習する能力は非常に高いようだ。徐々に相手の剣が掠るようになってきた、ただの切り傷だがそれを見てニヤニヤと笑っている。そしてさらに速度が上がる、優位に立つと力を発揮しやすい気質のようだ。


(勝機は怪我をしている右腕だが、そんなこと相手は百も承知だ。長期戦では体力面から俺の方が不利、確実に殺せる首か心臓を狙うしかないがこれも相手は読んでいるか)


 戦っている時ほど冷静になる。昔からそうだ、怒りや悲しみで戦ったことなど一度もない。戦う時はいつだって相手を殺すことしか考えていない。心が真冬の荒野のように冷たくなる。

 ムハンダゥバの剣技は確かに能力が高い。だが大きすぎる剣は動きが非常に読みやすく、一撃を振り下ろした後に次の攻撃までわずかに時間差が生まれる。だからこそ自分の持っている剣技はこういう相手とは非常に相性が良い。


「弱者め」


 気がついたら口に出していた。ムハンダゥバに向けた言葉がそのまま自分にも返ってくる。


「捕まった時は不利だったから見捨てた。自分の手に負えませんと自ら認めた」


 低い声には殺気がこもっている。ナイフだけでなくルオは拳も蹴りも仕掛けてくる、それもかなり速い。お互い防戦一方だったがわずかにルオが押し始めた。ムハンダゥバの顔や体には汗が溢れてくる。重いものを持って振り回して全力で動いているからだ。無駄な動きも多い、精錬されていない。

 必要最小限の動きで、しかも相手の力を利用しテコの原理まで使って畳み掛けてくるルオの戦い方は非常に相性が悪い。ここにきてようやく気づいた。ルオは己に疲れさせる戦い方をしているのだ。


 自分は自分の意思で剣を振っているつもりだったが、次に来る攻撃を読んで別の場所に次々に攻撃を繰り出さなければならない。それは上下左右、とても大振りになる動きにならざるを得ないものばかり。ルオの動きを読んでいるつもりが、相手はその二歩も三歩も先を読んで攻撃してきている。


 その事実に頭に血が上った。その戦い方も兄そっくりだ。


『どうしてお前はそんな戦い方しかできない』


 兄の言葉が耳の奥にこもる。


 何度も何度も何十回も兄と手合わせをしたが兄に勝てた事は一度もない。部族の中では最も強かった兄。その弟である自分は周囲からいつも評価が低かった。あの兄と同じ血が通っているのにどうしてこいつはこんなに弱いんだ、と。

 自分が弱かったわけではない、部族の中では二番目に強かった。勝てなかったのは兄だけだ。それを周囲はいつも「こいつは弱い」と決めつけてきた。


 力を求めた、鍛え上げた、武器も手に入れた。自らを神の子孫だと名乗る者たちの襲撃を受けて年寄りたちが殺されてしまった。おとなしくいうことを聞くのは屈辱的だったが、女は情交の前後や酒が入るとしゃべり尽くすことに気づいた。

 その中で聞いたこの国に伝わる神にまつわる伝説、神の子供が持っているという武器の数々。それが工芸品に設計図という形で残されていることを知り、それを絶対に手に入れるために今まで従ったふりをしてきた。


 双子を攫いに来た場所で盾を見たとき、とうとう自分は神に認められたのだと歓喜に沸いた。ひたすら助けを待つ女子供など、神に仕える資格も何もない。弱い存在など反吐が出る、だから盾を手に入れて皆殺しにした。これで自分が部族の長だ、子供など女がいればいくらでも増やすことができる。自分だけの部族を作り出せば何も問題ない、己の血を引く強い子孫を残せばいいだけだ。自分を過小評価する部族など必要ない。

 武器や防具を持った自分の神聖なる戦い。絶対に勝つ自信があった、なぜなら自分は神に仕える戦士になったのだから。


「お前、成人の儀式通過しなかったんだろう」


 その言葉に頭が真っ白になる。


「生死を乗り越え、大切な人との戦いに勝つことが儀式をやり遂げたことになる、だったな。そうやって強い男が残るような仕組みで生きてきたわけだ」


 体に切り傷が増えていく、ルオの攻撃が止まらない。防ぎきれない。


「だがお前は通過しなかった。戦っていればわかる。大切な人を殺した後に降りかかる罪の意識も、それを乗り越えたとき得られる意思もお前には全くない」


『たとえお前が成人の儀式を乗り越えたとしても、お前が得られるものは何もない。残念だ』


 兄の言葉が重なる。成人の儀式の相手は兄だった。誰もが勝てるわけがないと笑い飛ばす中で儀式は始まった。強すぎる兄の猛攻に、とうとう膝をついてしまった。すぐに立ち上がらないと儀式失敗とみなされる。

 なぜ勝てない、この日のためにあらゆるものを削ぎ、捨てて生きてきたというのに。兄に向かってそう叫んでいた。

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