6 なんやかんや、揃った
チラリと見えたのは先ほど見えたあの大きな剣だ。後ろを振り返ればなんと投げ飛ばしたのは女の方だった。一度捕まえたことがある男の方はいまだに真っ二つになったベッドの半分を持って走ってきている。
広場まではもう目と鼻の先だ、必死に走り広場の中に入るとムハンダゥバと見知らぬ男がいた。どうやらここで戦っていたらしい、その事実に苛立ちが募る。自分がこんなに苦労しているのにこいつは一体何をやっていたのか。
「ムハンダゥバ! 何をしているの!」
部屋に駆け込んできた女が苛立たしげにそう叫んだ。その言葉に反応するようにムハンダゥバと呼ばれた男は立ち上がると女を守るように前に立つ。叫び声とともに入ってきたサカネとサージ。女をどうにかしようとしたのではなく、間違いなくあの人形をどうにかしようとしたんだろうなと思って振り返る。そしてぎょっとした。
「いやなんでだよ!?」
二人は真っ二つになったベッドを抱えて叫びながら入ってきたのだ。そして女たちにめがけて二人同時にベットを投げつけた。もちろんその方向に例の人形がいたからだ。しかしその二つはムハンダゥバによって蹴り飛ばされてしまった。その蹴り飛ばした先に人形が向かってしまい、偶然にもぐしゃりと潰れる。
「とどめ!」
「とどめさせてない!」
「やかましいわ!」
駆け寄ってきた二人に同時に両手で片方ずつゲンコツを振り下ろす。ぎゃん! と引っ叩かれた犬のような声を上げて二人ともしゃがみこんだ。遅れて入ってきたのは師を背負ったエル。関係者がここに全員集まった……わけだが、一番理解が追いついていないのはルオだ。
「ツッコミが追いつかねえわ! まずなんでこいつらが真っ二つにしたベッドで戦ってんだ! あと何でジジイを連れてきてるんだよ、地上にブン投げとけ!」
「うるっせえなクソガキ! 師匠に大丈夫ですかの一言も言えねぇのか!」
「両手足くっついてるから大丈夫だろうがよ!」
「あ~なんか心臓が痛えなぁ! クソ馬鹿弟子の声がでかくて心臓に響いているみてえだ! 今にも止まりそうだよクソ野郎が!」
「そんだけキャンキャン怒鳴って止まらないんだったらお迎えが来る時以外は止まらねえよクソジジイ!」
ルオの声は大きいがその師匠である老人の声はさらに大きい。痛がっていたサージとサカネは思わず耳を塞いだほどだ。
「お前言葉が通じたじゃないの!」
二人の怒鳴り合いに思わず言葉を挟むラクシャーナだったが、二人は完全に無視して怒鳴りあいの口喧嘩が始まっている。そしてそこに自分たちの作った棺桶を見つけたサージたちが「あんなところにあった!」と騒ぎたてるのでもはや何が何だかわからない状況になりつつあった。サカネたちは棺桶を取り戻したいがムハンダゥバが二人を睨みつけている。絶対に渡さない、という強い意志がそこにあるのはわかるので迂闊に近寄れない。
「すみません、私が来てほしいと頼んだのです。攫われた人たちを取り返してそれで終わりというわけにはいきませんからね。教会が絡んでいるのならなおさらです、今後の我々の身の安全を確保の為に。落としどころをつけるため知恵を借りたくて」
こっそりと逃げ出そうとしていたラクシャーナを引き止めるためにあえて聞こえるようにエルがそう言うと、案の定彼女はピタリと動きを止める。
「肝心なところがわかっていませんでしたからね。そもそも今回の首謀者である彼女が一体何故こんな無謀なことをしたのか。権力が欲しいにしても手段が滅茶苦茶です」
「つーか誰だその花売りは」
冷静なルオの言葉にあたりが静まり返る。ここで言う花売りとは娼婦のことだ。確かに胸を強調するような格好はそういう女が多い。身に付けているものはかなり高価なので、ルオは違うとわかって言っているが。サカネとサージはそもそも隠語の意味を知らないのでお花を売ってる人なのかと思っていた。最大限の屈辱的な言葉を言われてラクシャーナは怒りでブルブルと震える。
「教会本部で一度だけ見たことがあります。現在の教皇の娘、ラクスナです。一般人に本名は乗らないので本名はラクシャーナ」
教皇は教会において最高の地位にいる者だ。王家ともつながりが深く王家に嫁ぐ女性は教会の関係者から選ばれることが多い。この二つは親族の関係なのだ。
「教会本部? なんだお前、お祈りにでも行ってきたのか」
「まさか。危険な薬の取り引きがされていると小耳に挟んだのでちょっと覗きに行ったんです。一般人に流れたら大変なことになりますからね。彼女が主体となって取引をしていたので、まあいいかと思って放っておきました」