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神具を作る者達  作者: aqri
神の子
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2 成人の儀式

「完全に一対一の決闘の戦い方だ! 馬鹿じゃねえのか!」


 叫ぶと同時に男の喉にナイフの柄で突き攻撃をした。今度は男の回避は間に合わない、完全に入った。


「がっ!?」


 息が詰まり骨が折れたのではないかと思う位の激痛。一瞬で手足がしびれて手から剣がすっぽ抜けた。そこからさらにルオは追撃をしようとしたが、男が勢いよく頭突きをしてきたのですぐさま離れた。頭突きが外れたことで男は体勢を崩してその場にうずくまる。咳をして肩で息をするがすぐに立ち上がった。

 剣は離れたところに、しかもルオの方に飛んでしまっている。ルオは剣を持ち上げるとしげしげと見つめ、自分が入ってきた扉のほうに向かって力の限り投げつけた。通路に向かって飛んでいった剣は遠くの方で地面に落ちたような音がした。


「オマエ、フザケルナ!」

「ふざけてんのはテメェだ!」


 男からすれば先程の一撃、柄ではなく刃の方で攻撃していれば確実にとどめをさせたはずだ。しかも突き攻撃など大した威力もない。本気で戦っていない、馬鹿にされていると怒り心頭だったのだが。それと同じ位に怒りで返されて意味がわからないといった様子で黙り込んだ。


「やりあってみりゃ大した事ねえ! お前の動きは狩りの動きじゃなく成人の儀式を乗り越えるためだけの人形みたいな戦い方だ! 一対一で定められた規則のもとで武器を使って戦う、頭の中花畑にでもなってんのか!? その戦い方にこだわることがお前が立派だという証ってか!?」


 ルオが以前世話になった黒い肌の部族。彼らには成人の儀式というものがあった。命がけで戦って強い者が一人前の男として、神に仕える戦士として認められる。だがそれは戦士そのものが生きる目的ではない。戦士となって部族を、女子供を守ることが目的だ。そうして神に忠誠を誓う。貴方から頂いた命を今日も守りきることができました、と。

 食物を確保するために狩りをして、敵が攻めてきたら守るために戦う。だから戦士になった男は強い。目的がはっきりしていて使命感と信仰心があるからだ。

 だが目の前の男はおそらく成人の儀式を通ることだけに重きを置いてきた。戦い方がまるっきり「試合」なのだ。確かに成人の儀式は命がけで戦う。儀式を迎える前に鍛錬で命を落とす者も多い。だが本末転倒だ、目的と手段が逆転してしまっている。


「成人の儀式だけにこだわった戦い方しかしてねえのが殺し合い!? 笑わせんな! あのバカ王子と一緒だ、自分の世界だけに閉じこもってそれが一番正しいと思い込んでやがる! 何度でも言ってやる!」


 男が突っ込んでくる。まっすぐに突っ込んでくるのも成人の儀式において最初にやることだ。一対一で向かい合って一直線に走って相手と刃を交える。そして力押しでしばらく力競べをした後剣戟が始まるのだ。武器がないのだ、真正面から来ないで使えるものは全て使って、床に落ちている石ころだって使えばいいのに。あくまで美しい戦い方にこだわるこの男は。


「お前は弱すぎる!」


 殴りかかってきた男の腕をギリギリでかわして手首を掴むとそのまま勢いよく内側にひねった。今度は手加減なし、力の限りひねったのでボギっと鈍い音がする。


「ギゥ!?」


 骨が折れて激痛なのだが叫ぶことをなんとか堪えた。痛みで叫びのたうち回るのは儀式において即失格だからだ。痛みは我慢するものだと幼い頃から鍛錬を積んできた男にとって一瞬でも声を上げてしまったのは屈辱だった。


 力だけで押し切るのではなく、相手の力を利用して最小限の力で戦う。それは敵が大量にいる場合の戦い方だ。常に全力で戦ってしまっては体力がもたない。自分の命を守るのと同時に仲間を逃がすための体力を残す。それがルオたち放浪の旅の戦い方である。

 相手が動物の群れ、盗賊、奪う事で生きる者達、戦わなければいけない相手は多種多様だった。使えるものは何でも使うし、体力が尽きるまで戦うなどという愚かな事は絶対にしない。大切なのは相手を皆殺しにすることではなく適切な時に逃げること。人間のようにやり返してくる相手はもちろん全員潰す必要はある。しかし狩り取ることだけにこだわっていては女、子供を守ることができない。

 なお攻撃を仕掛けてくる男に渾身の力で回し蹴りをした。靴に金属を仕込んでおり頭部に当てたので脳震盪は避けられない。


「俺が強いんじゃない、お前が弱い」


 相手が強い、自分が弱い、似たような意味で全く違う二つの言葉。周りに弱者しかいなかったら当然自分は強者となるが、それは自力がある事とはかけ離れている。

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