6 信仰するものの共通点
「この国は戦争の歴史が長い、勝つたび戦利品は手に入れてきました。その中で小さな部族の持っていた剣や盾の絵柄が設計図のようなものだと気づいた。もしそこに王族や教会の人間しか知らない似たようなものがあったら、神話になぞらえて妄想してしまいます。古代の失われた武器の作り方が工芸品という形で残されている、なんてね」
「それが今回の核心か。追い詰められてた馬鹿王子はどうでもいいとして。それを裏から操っているやつは本気なわけだ、失われた武器の製造が可能だと」
「私の知る限りでは剣と盾は壁画や絵に多く描かれています」
「人形との関連性はねえな」
「アポウトス、という神を護衛する空飛ぶ生き物がいますよ。私はこれ、砂漠に住む甲虫にしか見えないんですよね。それを模して作ったのでしょう。はるか遠い南の大陸はこの甲虫と大きな鳥がしもべとされているので、このあたりから流れてきた信仰なのかもしれません」
ぽっかりと空いていた穴のような部分が埋まった感覚だ。なぜ職人を誘拐していたのか。権力争いに勝てそうな強い武器を作らせるためだとしても随分と回りくどいと思っていたが。設計図のようなものが既にあって、これを作れと言われていたら確かに必要な職人だけを攫えば済む話だ。無茶をしても見返りが大きいからだ。
「しかし職人たちが素直に言うことを聞くはずもない。何せ作っているものがちゃんと作られているかどうかわかるのは職人だけなのですから。だから性能を確認するためにチンピラの後始末に使ったのでしょう」
それも性能がいいのか悪いのかはわからないものだ。それが最高の性能だと証明する手段は何もないのだから。暗躍する者は当然それをわかっていた、だから試した。
「裏で暗躍してる人って何者なんでしょう。エルさん、そこまでは分かりましたか?」
「いいえ、さすがにこの短期間では。相手もうまく隠れているようで尻尾を掴めませんでした。少し前職人が地下のようなところに閉じ込められていると言いましたが、おそらくそこで身を隠しているのでしょうね」
「地下?」
「この国は戦いを繰り返すことで発展してきました。攻め込まれることも多数あったでしょう。本当に大切なものは地上におかず地下に隠すものですよ。貴重な資料も祭壇も、逃げ道も」
荒くれ者たちが話している内容が地下という単語だったので、狭い地下室のようなものをエルは想像していたが。地下に張り巡らされた一部の者しか知らない地下空間があってもおかしくはない。貴重な資料もそこにある。そうなると相手は決まってくる。
「教会に深く関わっている人間が今回の面倒くさい奴ってことでいいか?」
「ほぼ間違いなく。教会の人間っぽい者は見当たらなかったので単独です。王子を使ったのは王家しか知らない資料を手に入れたかったからでしょう。お話からすると第二王子は随分と自尊心が高い。そんな人を丸め込めるのは女性だけです」
「確かに」
女性、と言われて一瞬優しい女性が頭をよぎったサージだったが、話の雰囲気からなんとなく色仕掛けに引っかかったんだろうなということはわかった。ということは狡猾な女だ。
「すげえ武器の設計図が工芸品に隠されている。なんとも夢のある話に王子様は酔いしれたわけだ。だがそんなこと俺らには関係ねえな。ふざけたことをしたやつにはそれ相応の罰を受けてけじめを付けてもらう、それだけだ」
「そうですね。地下に行けばもう大方決着がつくでしょうから」
エルは立ち上がると紙を持ってきて机に広げた。それは大きな地図だ、さすがに細かいところまでは書いていないがこの国の全体図が描かれている。その中に複数カ所ペンで丸を付け始めた。
「地下への入り口は複数確認できました」
「さすがに国中を走り回っていたわけじゃないだろ、どうやって確認した」
「色黒の彼が地図を持っていたのでこっそり拝見しただけです。ほら、彼はポケットのある服着てないですから隠れ家に出しっぱなしだったんですよ」
確かにあの男、上半身裸で下半身は布を巻いただけの簡単な服装だった。以前ルオが出会った同じような一族もそんな格好だった、というより男は全裸もいた。引き締まった肉体を見せることが美徳とされていたらしい。
ごちゃごちゃと荷物を持つのは戦うときに邪魔になると必要最低限の武器防具しか持たない主義だった。それにしたって大切な地図を出しっぱなしにするとか阿呆すぎるだろ、と思いながらも今は関係ないのでエルの話の続きを聞く。
エルが最後に印をつけた場所はここからかなり近い場所だった。考えてみればあの色黒の男がここにやってきたのだから出入り口が近くにあるのは当然と言えば当然だ。