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神具を作る者達  作者: aqri
家族の絆
31/65

9 サージ

 そこにいたのは思っていた以上に綺麗になったサカネだった。年頃で言えば子供っぽさが残りつつも女の子から女性と変化している年頃だ。あどけなさを残しつつ、背伸びしすぎたような格好でもない。女性たちの着飾る感性は確かなものだった。

 髪が短いのであえて大きな髪飾りをつけ、ルオの耳飾りや首飾りなどがよくはえる鮮やかな黄色の服。膝までの濃い青のスカートが装飾品との相性をさらに際立たせている。素足はあえて出しているのが年頃の女の子の良さを引き出せていた。化粧はそこまで濃くないが、口紅だけはかなり色の濃い赤だ。体型を出す格好をしているのでようやくわかったが、サカネは胸が大きく体つきがかなりいい方だ。筋肉の付き方もほど良いので引き締まっている。男が放っておかないだろう。


「きれいになったじゃないか」

「ひぎゃあああ!?」

「その叫びがなかったら満点だったんだけどな」


 サカネの顔は真っ赤になっている……かと思いきや、顔面蒼白だった。いやなんでだよと内心ツッコミを入れる。


「き、きれいとか、言われたことない!  おえええ! 吐きそう!」

「どんな拒絶反応だよ、まったく。とにかく、お前は今後その格好だ。着替えるんじゃねえぞ」

「なんでぇ!?」

「可愛い女子がいるって周辺へ見せつけておくんだよ。またいつ狙われるかわからん、ここら辺の奴らに助けてもらう手助けしてもらうには女子っていうのは重要だ。見てもらうためにちっとばかし歩き回るぞ、これも食っとけ」


 手渡したのはパンに野菜や肉が挟まったものだった。食事は器にとって食べるのが当たり前の習慣だったサカネにとっては斬新だ。


「こんな食べ方あるんだ」

「忙しい時はがーっと食っちまえるように全部挟んでるんだ。あとは片手で食べられるように、だな。片手に道具持ったままの奴もいるから」

「職人の為のご飯だね」


 ピリッと辛みが効いていて美味しい。今までの食事の味付けは塩と出汁しかなかったので、香辛料のついたものを食べるのは初めてだ。香辛料は高くて手が出せなかった。

 それにしても自分が小奇麗に飾られているのはなんだか落ち着かない。いつも絵の具まみれで汚い格好していたので女として扱われた事はなかった。サージは別にいいのだが、同じ村人や父の弟子だった者達からそんな扱いを受けたことがない。うっかり食べ物をこぼして汚してしまわないように気をつけながらゆっくりと食べる。

 歩けば皆振り返る。驚いた顔、可愛い、という声。そしておそらく、自惚れかもしれないが見惚れる顔もちらほら。


「お、ちょうどいいのが引っかかった」

「え?」

「後ろからコソコソとついてきてる奴がいる。お前に怪我させないことを約束するから、ちょっともみ合いになってくれ。俺も駆けつけるが絶対に他のやつがタコ殴りにくる」

「騒ぎを大きくすればいいんだね、まかせて!」


 陰ながらルオが守ってくれるのなら何も怖い事は無い。ルオが少し離れると、サカネにもわかるくらいに大きな足音を立てて走り寄ってくる者がいる。


(こういう時ってどうするんだろう、いつもだったら木で殴りかかるんだけど。あ、悲鳴か。きゃあって出るかな、いつも腹から叫んでるからなあ)


 悶々と考えているといきなり背後から抱きつかれるように羽交い締めにされる。旅の途中で人攫いに捕まりそうになった時を思い出した。


「あがあああ! アタシに触んじゃねえええ!」


 条件反射で思わず足を後ろに振り上げて股間を蹴りつけていた。相手は「ぎゃあ!?」と悲鳴をあげる。


「悲鳴が可愛くねえなお前は!」


 ルオはつっこみつつも買っておいた小型ナイフを抜いた。ルオから教わった護身術を即使えるようになっているのはさすがというかなんというか。相手の男は逆上したらしくサカネに飛び掛かろうとしている。ルオがナイフを投げつけるよりも、職人たちが飛び出すよりも、女たちがサカネを守ろうとするよりも早く。


 バゴォーン!


 襲い掛かった男はきれいに宙を舞った。全員あんぐりと口を開けてその男の様子を見守ると、その場に落下して轢かれたカエルのような格好になっている。そして全員そんなことになった原因を見つめる。あまりにも目立つその姿に目が点だ。そこにいたのは、ゼーゼーと肩で息をしている一人の少年。


「サージ……」


 呆然としたサカネの声。ルオも目を丸くする。確かに少年はサカネそっくりだ。


――チンピラを釣るつもりだったのが、姉の危機に一番重要なやつが釣れやがった。


 肩で息をしているのは当たり前だ、男が宙に舞ったのは殴り飛ばしたからではない。否、殴り飛ばしたものが素手ではない。


「なんで棺桶で殴るんだお前は」


 呆れ果ててルオが何とかツッコミを入れた。サージは自分の身長よりも大きな棺桶で相手を殴り飛ばしたのだった。

 可愛い格好をした女の子に男が襲い掛かり、彼女そっくりの少年が棺桶で相手を張り倒す。一体どんな状況なのかと全員が大混乱だ。そんな中サカネは早足でサージに近寄っていく。


「サカ――」

「ボケがああ!」


 今までの感情が爆発してサージを殴り飛ばした。……彼が持っていた棺桶の蓋を取り上げて、横薙ぎに。


「おぶ!?」

「言いたいことがいろいろあるけど! まず謝れ!!」

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