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神具を作る者達  作者: aqri
消えた弟
3/65

3 職人の卵

 この辺ではこの男が口も悪く口より先に手足が出るのは知っている者は多い。また何かしてるんだな、くらいの温かい目で見られている。


「人探しなんざ絶対長引くじゃねえかよ! ここがどんだけデケエ国かわかってんのか! てめえは自分で飯の種が稼げるのか、ああん!?」

「すぐには稼げないけど! でもほら、えーっと、何かできる事……」


 男を逃すまいと必死にしがみつく子供はよほど焦っているのか、言葉が続かない。それを見ていた男は別の意味でイラっとした。


「何かひねり出せ! 何もねえとか可哀想でしょうがねえわ!」

「何かはある! 焦らせないで! えっと、ほら、あ、あれだよあれ!」

「なんだよ!!」


 ぶち切れそうな男に緊張がてっぺんまで来たらしく、子供は大きく息を吸い込むと叫んだ。


「脱いだらすごい!!」


 その瞬間子供を引き剥がそうとしていた男がピタリと動きを止めて黙り込み、二人の様子を楽しそうに見ていた周囲の人間も目を丸くした。自分が何を言ったのかあまり覚えていないらしい子供は静まりかえってしまったことが不気味でゆっくりと周囲を見回した。

 次の瞬間。子供以外のすべての人間が、大爆笑したのだった。




「いやー笑った笑った、久しぶりだぜ腹から声出したの」


 人通りのあるところから離れて木が生い茂る手前まで来た男はいまだにくっくっと笑っている。少女はブスっとむくれていた。


「まあいいや。ちびっと興味がわいたから話くらいは聞いてやろうじゃねえか」

「え」


 急に態度を変えた男に、少女は本当に今更だが猜疑心が生まれる。確かにここは人身売買や騙して身売りさせる輩がいると聞いたことはある。甘い言葉に良いことなどないと祖父も昔言っていた。商売で身をもって体験したことがあるのでよくわかる。戸惑った様子がわかったらしく、男はニヤリと笑った。


「今更警戒してきたか、おっせえわ。最初に言っただろ、俺が人の売り買いする奴だったらどうするんだって。今だって品定めしてるかもしれねえぞ。ま、絶対売れないけどな」


 その言葉にカチンときた。自分だって年頃の女の子だ、小汚い格好をしているにしても全否定は腹が立つ。


「なんでだよ! 脱いだら凄いんだって、おっぱい見るか!?」

「あーはいはい、別に見たかねえわ。俺が言ってんのは手だよ」

「手?」

「お前、職人の卵だろ」


 言いながら男は少女の手を指さした。改めて自分の手を見てみると、指にはあちこちタコができている。関節は太くなりごつごつとした男のような手だ。


「一応商品になる女、子供ってのは小奇麗に着飾れる奴が売れる。手は隠せねえからな、普通の指輪も関節で引っかかって入らねえだろ? そういうのは価値が下がる」


 男の言葉に目を丸くした。そんなところまで見抜かれていたとは思わなかった。しかし、当然と言えば当然なのかもしれない。


「ここは職人の町、軍事商業国家のラカッツィアだぜ。住人は何かしら商売をしてる、そういうのは自然と目に入るもんだ」


 男が大げさに両手を広げて周囲を見渡せという仕草をした。周りを見れば少し離れた道にきれいな格好をした女たちが談笑している。しかしよく見れば同じ服は一つもない。


「あれは自分で織った布を着てるんだよ。基本女が着てるものは自分が作ったもの、歩いて宣伝して自慢もしてるんだ」


 そんな女とすれ違った年老いた男は直角になるのではというくらい腰が曲がっているが、杖はついていない。


「足取りはしっかりしてる、筋肉が残ってるんだ。屈む作業の職人なんだろう、現役だ」


 大きなカバンを背負った若い男はかなり汚い服を着ている、黒なのか茶色なのかわからない服。


「あいつは――」

「絵師だよ。絵の具でしょ、あれ」

「ほう? わかるのか」

「俺がその卵だよ」


 そう言うと少女は鞄から筆入れを取り出して中身を見せた。男は興味深そうに覗き込む。そうだなあ、と周囲を見渡すと地面に落ちている木の棒を拾いさっと表面を削ると何かを描き始めた。まるでそこに下絵があるかのように迷いなく描かれていくその絵は、何か不思議な紋様のようにも見えるし柔らかく温かみを感じられる。これで何か装飾品を作れば小遣い稼ぎくらいはできるのではないか、というくらい完成度は高い。人探しをするための生活費を稼ぐにはなんとかなりそうだな、というのが男の感想だ。


「へえ、タコができてるからてっきり硬い道具使う宝石や指輪職人かと思ったけどな」

「そういう道具も使う。絵の具で塗るだけじゃないから。ちょっと特殊な方法」

「なるほどねえ? で、人探しにわざわざ来たわけだ。修行でもなく一攫千金でもなく」


 その言葉に沈んだ表情で道具を丁寧にしまい始める。


「ここなら、いるんじゃないかって思って……」


 そう言うと少女はサカネと名乗り三か月前の事を語りだす。ある日突然姿を消した己の片割れを。

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