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神具を作る者達  作者: aqri
家族の絆
27/65

5 言い伝えが作品になっていた

 子供の頃は何でも話した。思ったことを全部口に出して喧嘩もしょっちゅうだった。なのに大人に近づくにつれて何も言わなくなってきた。家族であっても一人の人間だ、それは当然のことなのかもしれない。


「できた。でも足りない」


 出来上がったものは今までで一番会心の出来だ。しかしこの絵柄は棺に描いてこそ意味がある。土葬である村にはなかった死者を棺桶に入れるという方法。母親の一族の大切な習慣。


「あれ?」


 そこまで考えて何かが引っかかった。なぜ棺桶に絵を描いてこそ価値があるのだろう。改めて自分の作ったものを見ればただ単に色をベタベタ塗っているのではない、何か見覚えがあるような気もする。


「おっさあああん!」


 ばったーん! と勢い良く扉を蹴破る勢いで開けるとべしん! と顔に何かが当たる。見ればルオが首に巻いていた布だった。


「おぶ!」

「声がでけえよ! この距離だから聞こえるわ!」


 自分の倍以上大きいのではないかという声で返されて思わず耳を塞ぐ。


「おっさんの方が声でかいじゃん!」

「放浪の民は基本的に声でかいんだよ! で、どうした。その(ツラ)は何か答えが見つかったみたいだな」


 よほど慌ててきたのか手には自分が作っていた物を持ったままだ。青色が多いが白で複雑な紋様のようなものが描かれている。


「昔母ちゃんが言ってた、蘇った死者と闘う戦士の話」

「あ?」

「死んだ人は魂だけになる。でも新しい死体があれば自分の体にして蘇ることができる。死者は死者の肉体を求めて襲ってくるんだって。それを一人の強い戦士が倒したんだ。それで死者を守るために棺が作られて、守るための(まじな)いを施した。そうしたら死者は安心してあの世に行けるって」


 その手の話はルオも聞いたことがある。地方や宗教的なものが色濃く信仰されているところではよくある話だ。というよりもラカッツィアで信仰されている宗教がその考えである。だから神に祈りを捧げて自分たちが死んだときに死霊に襲われることなくきちんと神のもとに行けるように、祈りとお布施を捧げるようにと言われているのだ。一般市民から金を巻き上げるうまい手段だと思っていたが。


「んで?」

「この絵、こう横に回転させるとこんな形で、縦にぐるぐる回すとこんなだろ! だからアレだ、要するにさ! これで未完成なのはそうなんだよ! だって棺桶用だから!」

「全然要してねーわ! なんだって!?」

「ああもう、サージなら通じるのに!」

「それはお前らが双子だからだ! 言いたいことを一言で言ってみろ!十文字超えたら踵落としだ!」

「この絵、設計図だよ!」


 その言葉にルオは驚いた表情を浮かべサカネの持っているものを見つめる。言われた通りに横にくるくると回して全体の絵柄を確認し、縦に回して細部まで確認する。


「立体的だから確かに平面の紙に書くのは無理だ。頭の中で絵柄だけ考える必要があるってことか、頭使うなちくしょう。ちょっと待ってろ」


 自分とて立体的なものを作るのは得意だ。知り合いからは手順書や説明書を作れと言われていたが、やはり頭の中で組み立てた方が自分はわかりやすい。サカネが職人達の前でやって見せていた削り出す順番や色を置く順番も思い出しながらよくよく考えてみれば。


「お前が使う木はいつも手の平より少し大きい木の幹だった。それを棺桶に見立てているんだとしたら、お前はちっちゃい棺桶を作ってたわけだ」

「あ、そうかも」

「お前は絵の具で色付けしてきたが。おそらく本来使うべき絵の具じゃない、これを伝えてきたお前の母ちゃんがもともと住んでいたところにある顔料を使ってるんだとしたら。確かにこりゃあ……」


 二人でサカネが作ったものを見る。武器職人に以前見せてもらった盾の作り方に通じるものがある。ただしかなり特殊だが。


「棺桶の弱い部分を補強する手法だ。棺桶を盾そのものと同じ加工をして埋葬していたんだ。死者から守るっていうのは外からの攻撃に耐えるってことだ。それを呪いという形で伝えていたんだな、お前の母ちゃんの一族は」

「顔料は俺の村の近くの山から調達してた。もしかしたら母ちゃんが住んでた所の樹液とか、特別な石とかから作れるものだったら、それ自体が補強する材料だ。金属とは違う、硬質化するものだったら棺桶の強度を上げることができる」


 死者から守るために大切な人を埋葬する。それはとても尊いことだ。木を複雑な形で組み合わせることで簡単には壊れないように男が作り、最後に女が補強するという形で装飾を施す。あの色黒の部族たちと同じような風習だったようだ。当人たちにとっては呪いだが、軍事国家であるこの国の人間が見ればそれは。

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