1 人形調査
自分の部族を誇りに思ってるのでこうして都心に出てきてるのは珍しい。もしかしたら家族を人質にとられているのかもしれない。小民族では人形の力には勝てるわけない。ラカッツィアは軍事国家だ、大きな国だけではなく領土を拡大するため先住民や小さな部族を狩りとってきたのは有名な話である。
「あっちはエルに任せて今俺たちがやらなきゃいけないことをやるぞ」
「武器づくり! と、言いたいところだけど。さっきの虫みたいな人形ちょっとゆっくり見てみたい」
「へえ? 何か気になるのか」
「まさかと思うんだけど。アレの全体作ったの、サージじゃないかなって思った」
二人はエルの家に戻り先ほど見ていた人形を改めて観察する。見れば見るほど職人たちが作り上げたのではないかと思われる痕跡がいくつもあった。しかし職人としての目で見るとルオもサカネもいくつか気がつくこともある。
「釉薬の塗り方が雑だな。下の層の刷毛で塗った跡が見えちまってる」
「結構細かい作りで木が組み込んであるみたいだけど。これじゃ長持ちしないよ、外れてきてるじゃん」
「あれだけ無茶苦茶な動きをしたら金属使わない限りは無理だ」
一見今までにない画期的な人形に見えるが、所々がかなり雑でなんとも中途半端な印象だ。もっと丁寧に仕上げれば長持ちもする。完成まであと少し、というように見える。
「こんな中途半端な仕事、職人だったら絶対許さないよ」
「自分たちが作りたいものを作ってるわけじゃない。作らされてるし、時間の制限があるはずだ。半分以下の時間で作れって言われてるんだろうな。目に浮かぶぜ、人質がいると思わされているとしてもやっつけ仕事で不良品作ってやるぜって燃えるあいつらの顔」
職人と商人のいざこざで一番多いのがこれだ。そんなちまちました作業いいからさっさと仕上げろ、そんな中途半端なものは商品じゃねえ黙って待ってろ、そんな怒鳴りあいの喧嘩はここでは日常茶飯事だ。きちんと仕上げたい職人と、さっさと物を売りたい商人の考え方の違い、わかりあえないのはどこにでもある話である。
まして人質がいると騙されているので従わざるを得ないものの、望まないものを作るのなら徹底的に不良品を作ってやろうと考えるのは至極当然のこと。どうせ文句を言ってきている奴らは職人ではない、わかるわけないだろとわかりにくい最大限の仕返しをしている。
「やっぱり、この木材の組み合わせ方サージだと思う」
見ればかなり複雑だ。関節の部分は時計の歯車の原理を利用しているようだが、釘を一切使わず複雑な組み合わせだけでこれだけの物を作っている。場所によってはあえて組み合わせ同士に隙間を作ることで柔軟な動きに対応しているようだ。すげえな、と感心していたがふとルオは疑問がわいた。
「いやちょっと待てよ。なんで棺桶作るのにこんな技術を持ってるんだ」
「えっと、最初はただ作るだけだったんだけど」
なんとなく言いにくそうにしているので少し嫌な予感がしてきた。雲行きが怪しいとはまさにこのことだ。
「作ってたら俺もあいつもちょっと楽しくなってきちゃって」
「おう」
とりあえず右手の指を閉じたり開いたり、準備運動をし始める。
「何かこう、仕掛けみたいのがあったら面白いかなって」
「いらねえわ」
べし! と軽く額にチョップをする。みぎゃ! と悲鳴をあげるもすかさず反論してきた。
「でもそれ作ったらますますウケが良くなって売れたもん!」
「片田舎の都会かぶれの奴らの頭がスッカラカンだっていうのはよくわかった。つまりなんだ、チェストの中に貴重品を入れる隠し扉みたいな。そんな感じのを作ってたのか」
「そうそう。棺の外側とかに死んだ人の貴重品入れる引き出しとか。でもあからさまに取っ手が付いてたら不細工じゃん。二回叩かないと開かないとか、すごいわかりにくい切れ目が入ってて斜めにずらさないと出てこないとかいろいろ」
「死んだやつがあの世に行くっていうのを前提にしてるんだったら、自分の持ち物変なところに隠されて慌てるじゃねえかよ。これどうやって開けるんだよみたいな」
「それは言えてる」
ただの嫌がらせじゃねえかと思ったが、細かいところまで人形の観察を終えるとルオは椅子に座ってため息をついた。サカネは腑に落ちないといった様子だ。
「すごい武器を作りたいのはわかったけどさ、なんで装飾品の人たちまで誘拐されたのかな。まさか武器を派手に見せたいわけじゃないでしょ?」
「暗器とか、使いようによっては使えるが。織り込んだ布は刃物で切りかかっても切れない。つってもなあ、作るのに時間がかかりすぎる。って事は何か別の目的があるってことだ」