8 新たな襲撃者
そこまで話すとエルは一度口を閉じる。今の考えを聞いてどう思ったのか二人に答えを促しているのだ。つまりエルの中では大方答えが出ているということになる。現に先ほどまで穏やかな雰囲気だったエルは真剣な表情を浮かべていた。
「なるほど、なんとなく俺にも読めてきた」
「なるほど、全然わからない」
その言葉にすかさずサカネの頭を鷲掴みにする。かなりの力で握っているらしくギリギリという音まで聞こえてきそうだ。
「いただだだだだ、痛い痛い痛い! だってほんとにわかんないんだもん!」
「この空気をぶち壊せるのはある意味お前の才能だよな。いいか、エルは最初に反乱を起こす準備をしてると言っただろ。中央部で四六時中権力争いが起きてるんだったら、どう考えてもその権力争いで巻き起こってる面倒事じゃねえか。それにチンピラどもはこの町の職人たちの強さを知らなかった、つまり首都の出身だ」
そこまで言うとようやく手を離して答えを言ってみろとばかりに腕を組んで仁王立ちをする。
「ちなみにここで答えを間違ったら、ゲンコツ?」
「木に触るの一週間禁止だ」
「わかったちょっと待って、死ぬ気で考えるから」
絵を描いたり自分の作品作りを禁止だと言ったのではなく、触るのを禁止だと言っただけでこの表情。まるでこれから戦いに行ってくるとでもいうような雰囲気だ。しばらくぶつぶつ呟いていたが急にはっとした表情で勢いよく手を挙げる。
「はい、わかった!」
「言ってみろ」
「ちょっと負けそうになってる王族が、職人たちを誘拐して反乱準備してる!」
「十点満点中五点だ」
「ふえっ!?」
サカネは絶対に満点だと思っていたのでその場でがっくりと膝をついた。惜しいところまで行っているのだが、肝心なところを忘れている。その指摘をしたくて半分の点数にしたもののサカネの嘆きようにルオは盛大なため息をついた。
「一応点数は取れたから木は触っていい」
「ありがとうございます先生!」
「誰が先生だ。いやそういえば弟子って設定だった。それも正解の一つだ。今までにない軍事力になるものを作ってるのは確かだ。反乱、っつうより今優位に立っている王子がいるからそいつを殺そうとしてるんだろ。この人形は完全に暗殺道具だ。それがお前を誘拐しようとしてる奴だ。それだけじゃないだろうけどな」
先程の動きを見てもルオだけを狙っていたとは思えない。人形は直線にしか動けないようだった。もしサカネがそこにいたら死んでいたかもしれない。最初のチンピラどもの首を掻き切ったのはこれの足だ、刃物はないが鋭利な形になっている。
「お前は死んでも別によかったってことだろ、今回は。あっちにはあっちの事情がありそうだ」
「なんかめんどくさい」
「権力争いとはそういうものですよ、いろいろな人が絡むと最初の目的が曖昧になってきます。チンピラの口封じに人形を使ったのは、性能を試したいんでしょうね」
そこまで話すとエルは斜め後ろの方を振り返った。
「何かお話をしたいようなので、どうぞ」
その方向にルオとサカネは目線を向ける。ほんの数秒間があったが、姿を現したのは背の高い男だった。腕には簀巻き状態の一人の人間を抱き抱えている。
「サージ!?」
「に、見える人形だな。双子のお前が驚くならさぞやそっくりなんだろう。こうやって職人たちをおびき出したわけだ。ナイフでもあてがってたら慌てて飛び出して行くだろうからな」
姿を現した男は無言のままだ。確かに手にはナイフを持っているが、ルオたちにはやっても無駄だとわかっているらしく静かに立ち尽くすだけだ。
「どなたに用事です?」
男はわずかに殺気立っているがエルは気にした様子もなく穏やかに問いかける。男は色黒を通り越して肌の色がだいぶ黒い。かなり南の方にそういう人種がいるとは聞いたことがある、戦争に負けて奴隷として連れてこられたというのはそう遠くない過去の話だ。
「オマエ、イラナイ」
片言の発音で男はルオを見ながらはっきりと言った。その様子にルオは苦笑だ。
「いらないとは失礼な奴だな。ま、用事は間違いなくエル、お前だろ」
「あ、やっぱりそう思います?」
二人のやりとりにサカネは不思議そうな顔をしている。今まで狙われていたのは自分のはずだが。
「俺じゃなくて?」
「お前はもうおまけ的な存在になりつつある。内乱の準備をしてるって事は何十人の兵士を集めるより殺傷能力の高い道具を作った方が戦略としては上だ、当たり前だけどな。それを作るために職人を誘拐した。だが最終的にはやっぱり必要なんだよ、優秀な人形師が」
「それなら最初からバレないように人形師を狙えばよかったんじゃ」