5 襲撃
「ここでは特に噂が立ちやすいんですよ。人形師はいかに相手を蹴落とすか考えているので、人のあら探しをすることがとても得意です。けなす材料を見つけては悪い噂を振りまく。だからこそ悪いことがあまりできないんです。人形師がいなくなったとなったら大騒ぎになる、相手はかなり慎重にやっているのでしょう。そして二つ目ですけど本当に私の率直な感想ですよ」
エルはそこまでいうとあっさりとこう言った。
「反乱の準備をしているのではないでしょうか」
「うん?」
あまりにも突拍子もない話に理解が追いつかずサカネは再び首をかしげる。
「何か戦いを起こしたい時必要なものはたくさんあります。食べ物、兵士、金、挙げたらキリがないですけど。でも始める前の準備段階でやる事は武器を集めることです。もう結論から言ってしまうとね、今までにない武器か人形を作ろうとして職人を誘拐してるんじゃないかと思うんです」
あまりの内容に言葉が出ない。しかしルオは驚いた様子もなくやっぱりなとつぶやいた。
「おっさんわかってたの?」
「わかってたわけじゃないが選択肢には入れてた。男たちにとどめを刺しに来てたやつ、二回目は姿を見ることができたが、ありゃ人形だ。人間の形してなかったからな」
ルオが見たのは何かが這いつくばったような形だ。そもそも二足歩行で俊敏な動きをするのはかなり難しい、それを作り出そうとするともう二回ほど技術革新が起きないと無理だ。そうなると必然的に動物のような形の暗殺人形が作られやすい。
「ある程度暗殺できる位の人形は完成してきています。表立ってはいませんけどね。それでは不十分だと思って人形師ではなく技術を持った者たちを調べあげて誘拐しているのかもしれません。裏で協力している人形師はいるでしょうけど」
「でもどうやって誘拐を成功させてるの? 無理矢理連れて行こうとしたら騒がれたり抵抗されたりするんじゃ」
「本人の意思で黙って連れて来させる方法なんていくらでもありますよ。大切な人そっくりの人形、いえ、もう顔だけでいいと思いますけど布でぐるぐる巻きにされた大切な人がいると思わせて黙ってついてこいと言えばそれで終わりです」
サカネの時もおそらくサカネを人質に取ったように見せたのだろう。他の職人たちも同じだ。皆家族がいる者達ばかりだった。
「ジジイの場合は他の職人たちを殺されたくなかったらおとなしく来いと言えばそれで済むか。消えた職人たちはみんなジジイが面倒を見てきたって話だしな」
ある程度人の多い場所から離れてしまえば後は気を失わせて無理矢理連れてくればいいだけだ。いなくなった後を見れば、ついさっきまで何かをやっていたような痕跡が残っているのも納得できる。
「戦いというのは意外なところから既に始まっているものです。調べてみたらあの時からこんなことが始まっていたのか、というようにね。今回私のところに来てもらえたのは幸いでした」
「何か手がかりがあればと思ったがドンピシャだったな」
「そうですね。私はあちこちで戦いを経験していますから。あなたの話を聞いてピンときました」
戦いを経験しているというのはかなり意外だなとサカネは思う。エルはどう見ても戦いが向いていなさそうな、優しいお兄さんという感じだからだ。戦いを経験して人形師になったと言う経歴もなんだか変わっているなと思う。
「で、こいつが狙われてるって事は弟はうまく逃げ出したってところか」
「ほぼ間違いなく。こうして、またちょっかいを出してきたなら弟さんは結構重宝されていたのかもしれないですね」
その瞬間エルは勢い良く扉から外に飛び出し、ルオもサカネを抱えて開いていた窓から思いっきり外に飛び出すがすぐに地面に落とした。
「おぶぉ!?」
「家の中戦いづらいからな、道具壊したくねえし」
何が起きたのかわからず慌てて周囲を見渡すとすでに黒い何かがそこら中を走り回っているらしい。だが速すぎてその姿を確認することができない。
「三つですか、これはまた随分と戦力を投入してきましたね。貴重でしょうに」
「俺が戦っちまったからな、まずは俺をどうにかしないとこいつを掻っ攫えないと踏んだか。いや、性能確認か?」
「何が起きてんのかよくわからない状態になってる!」
そう言っている間にも黒い何かは一気に三人に向かって飛びかかってくる。ルオは飛んできたものをまるで虫を叩き落とすようにナイフの柄で地面に叩き落とす。しかしそれでは壊れなかったらしく即座にそれはその場を飛び出した。
「見覚えがないので新作みたいですね。技術を組み合わせることでどんどん今までにない人形を作り出しているようです」
「見えてるの!? 速すぎて見えないのに!」
「私は結構目が良い方なんですよ」