3 情報収集のための労働
父親のことが嫌いだったのでそんなこと全く考えていなかった。祖父は大工だった。といっても自分の村では稼げないので他の村で稼いでたまに帰ってくるという生活をしていた。歳をとってからは出稼ぎに行けなかったので、小物を作って問屋や行商人に売っていた。最初はそれを見てサカネたちも物づくりを覚え始めたのだ。
「お前のお袋さんも村出身か」
「違うと思う、母ちゃんの実家ってなかったし。他の村だと思うよ」
話ながらふと疑問に思う。そういえば母は実家に帰ったことが一度もない。てっきり母方の祖父母はもういないのだと思っていたが。
毎日毎日技術を上げるために物を作って、あまり他のことを考える余裕もなかった。とにかく金がなくて二 、三日食べられなかったことなんてよくあった。父親が裕福になり生活が楽になったといっても、必要最低限の金しかもらえずこれは俺の金だから自分たちで稼げと言ってきたくらいだ。苦労していた時母が必死に働いていたにもかかわらず、金はほとんど寄越さなかった。
「なんでこんな話したかっていうとな。俺はお前の作った物に何か足りねえなって言ったが、ちょっと見覚えがあるからだ」
「え?」
「どこで見たのか忘れちまったが、村か一族の代々伝わる工芸品みたいな感じで見せてもらったことがある気がする。その時見たやつと今のお前が作ったやつ、似てるっちゃ似てるが何か足りないしちょっと気持ち悪いんだよな」
「今までの話がなかったら気持ち悪いのあたりで飛び蹴りしてるけど。今俺が一番気持ち悪いよ」
「話まとめると、もしかしたら棺を作ったり棺をきれいに飾るやり方を教えたのって母ちゃんじゃないのか。お前が幼すぎてそのあたりの記憶が曖昧なだけで」
「そう……かな? 確かに親父が死ぬ前は俺達工房に入るの禁止されてたから、家でいろいろ作ってたけど」
「貧乏すぎて何か稼げる方法はないか必死に考えたんだろう。自分の知ってることを教えて少しでも稼ぎが上がればお前たちを食べさせてやれると思ったんだろうな」
そこまで聞いてルオはなんとなくサカネの家庭の事情が見えてきた。サカネの話では貧しい時も母親が仕事をしていて夫はそれに無関心だったような節がある。つまり夫婦の仲は最悪だった。子供たちを育てるために必死だったのだ、母親とは強いものである。本人の前では言わないがサカネの両親、おそらく。
(サカネの母親は自分の夫を嫌っていたというよりもしかしたら憎んでいたかもな。夫にはてきとうに教えて、サカネ達に本当に継承したい技術を教えてたってところか)
だが技術を全て教えきる前に母親は亡くなってしまった。二人の技術もまだ中途半端なのだ。行方不明になった者たちは自分の師を除いて、まだまだ切磋琢磨し技術の向上が見込める連中ばかり。絶対に良い職人になると言われてきた者たちだ。サージもその見込みがあった可能性は高い。
(だがわからねえ。遠く離れた片田舎の棺桶作ってる奴をどうやって調べあげた。普通ラカッツィアの中から調べて攫うだろ。どうしてわざわざ? 人形が奴隷を売るために通っていたから一応関わるきっかけはあったか。手間暇かけすぎだろ)
何か目的を達するために誘拐しているのは間違いないが、時間や余裕があるからこんな手間をかけているのではなく。
(もし、その目的がシャレにならねえくらい重要で、人形を使ってかなりの広範囲を調査しているとしたら。国外にまで『目』や『耳』を張り巡らせてるのか、めんどくせえな)
そうするといよいよ、これから会う者の知恵が必要だ。大事に巻き込まれたのだろうなとは思っていたが、これは予想以上に急がなければ。