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神具を作る者達  作者: aqri
職人の町
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4 今後どうするか

 今度こそ本当にうつむいてしまったサカネの頭に手を置くと髪を引っこ抜くのではないかと勢いでわっしゃわっしゃとかき混ぜる。


「いだだだだだ! 痛い痛い! 禿げる!」

「ハゲねえよ。落ち込んだって事はいつか満足できる作品を作りたいんだろうが。それを成し遂げるには何が必要なんだ」


 必要なもの? 何がいるのだろうか。父親が死んだ時は別に何とも思わなかった。その日からまた工房で絵の具を触っていた。しかし母親が死んだ時は確かに悲しくてしばらく筆が持てなかった。だがそれでもまた作業を続けようと思えたのは一人ではなかったから。自分も悲しいくせして食べていくには働かなきゃいけないからと。震える手で木を加工していた自分の片割れがいたからだ。例え感情で納得できていなくても、生きることがどれだけ大変か知っているから。嘆いていても腹は減る、金は必要だ。それを乗り越えるには一人ではできないことなのだ。


「あのバカがいないからモヤモヤする。見つけ出して、お土産買わせて、うまいもん奢らせて、それから」

「一発ぶん殴るんだろ」

「いや、丸太でボコボコに殴る」

「……。そこは素手で頼むわ、そいつの棺桶が必要にならねえように」




「うわあ」


 改めてルオと師匠の工房に入ったサカネは感嘆の声を上げた。先ほど入ったのは家の方だったので何もなかった。工房にはそこら中に材料や道具が置かれて完成した装飾品なども置いてある。


「ほとんどはジジイのもんだ、それも昔のな。今は俺に教える時以外は全く作業してない」

「やっぱり体が辛くて?」

「まあな。心臓のことがなくてもかなりの歳だ。一回の作業に集中できる時間がどんどん減って、逆に集中できなくなったからやめたらしい」

「わかる、作りたいのに作れないときの辛さ」

「なんだ、怪我でもしたことがあるのか」 

「小さい時、木を削ろうとして指を切り落としたことあるから」

「は?」

「ぎゃーって叫んで、サージがうわーって泣き叫びながら俺の指をくっつけて、これがまた激痛で俺が暴れまわって。あいつボコボコに俺に蹴られながらも絶対にくっつけてる時手離さなかった。おかげさまでぴったりくっついたけど、痛みが引くまで全然作業できなかったから」

「野生的な奴らはいろいろ見てきたが、ちゃんとした村に住んでたのにそれ以上に野性味あふれてるのは何でなんだよ。ちゃんと動くようにくっついたんだったらよかったが」


 言いながらもよくよく見てみれば、かなりわかりにくいがおかしな方向には曲がっている。といっても本当にじっくり観察しないとわからない。日常生活は勿論、職人として細かい作業に困らないくらいに動くのなら奇跡と言っていいだろう。

 ルオは椅子に座ると改めてサカネと今後について話をすることにした。最初はちょっと手伝ってやるか、くらいの気持ちだったが長い付き合いになりそうだ。いなくなった者達の名前とどんな職人だったのか、ルオは書き出していく。


「棺桶、家具、時計、馬車作りは三人、うちのジジイ含めて装飾品作ってるやつが三人、武器が二人か」


 見れば見るほど全く共通点がない。


「売り上げの状態は? 俺たち少しだけ売り上げが良くなってきてたんだ」

「俺の知り合いの時計職人は確かにちょっと売れてきてたが。ジジイはもう何年も自分の作品を作っちゃいない。俺に手ほどきをしてきたが、売ってたのは俺だけだ」


 自らの意思で姿を消したのか、誘拐されたのかまだはっきりとわからないがルオの師は自分の意思でないことはわかっている。それにサカネにちょっかいをかけてきた男達や、それを始末した謎のモノを考えれば誘拐されたという方が濃厚だ。


「今これを見てああだこうだ考えて、何も思い浮かばないなら次の行動をいくつか決めておいた方が良い。こうしている間も、いなくなった連中が幸せに過ごしてるとは限らないからな」

「それはそうなんだけど。俺は何も思い付かないけどおっさんは何か思いついたことあるの?」

「ちょいと他の知り合いに聞きたいことができた。こればかりは俺じゃわからないことだからな。お前は一人になるとまた変なのにつけ狙われるから、ここからはずっと俺と行動してもらう」

「わかった。俺はさっき職人の人たちに双子の弟を探してるって言ってきたから。顔も見せたし、見かければ教えてくれると思う。よそ者はすぐわかるって言ってたし」

「お前の連れ去りにもう二回も失敗してる、相手はもうちょっと使える奴を向かわせてくるはずだ。相手がさすがに王立騎士団様とかだったら敵わないが、チンピラに毛が生えたような奴らだったら俺でも相手ができる」


 そうだ、自分は狙われているんだったと今更思い出した。自分一人になったときに勝てる自信は無い。そういう時は立ち向かわずにとにかく逃げるんだと母から教わっていた。

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