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神具を作る者達  作者: aqri
職人の町
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2 何かを作っていると安心する

「うっさいなあ。 おっさん頭イイみたいだからちょっとまとめて!」

「要するに、お前の弟と俺んとこのジジイは何か大きなことに巻き込まれてる。だがお前の弟は今相手にとっても行方不明で探されてる存在だ。お前を攫って人質にしたいんだろう。弟が周囲に助けを求めないのが謎っちゃ謎だが」

「なんか身動き取れない理由があるのかも。でもなんで失敗すると後始末されちゃうの?」

「そこが俺もわからねえわ、調べていけばそのうちわかる。こいつらは調べれば身元がわかる、そこから出身を知られて辿られるのを嫌がってんだろ。その割には使ってる奴らの質が悪すぎるな、ゴタゴタしてるってところか」

「誘拐は用意周到なのに、変なの」

「複数人、それも結構な人数が絡むとそうなる。連携ができてねえ証拠だな」


――後始末をされている時点で、仲は良くなさそうだ。


 そんなことを考えているとようやく役人たちが来てチンピラどもを引きずっていった。何でもしゃべるから助けてくれと悲痛な叫びを訴えるが職人たちは誰一人見向きもしない。正直さっきのルオの言葉は大げさだとわかっているし、少し痛い目を見たほうがいいだろうなという感じだ。ボッカが取り締まっているのなら本当の意味での非道な目には合わないはずだ。多少痛め付けられるだろうが。


「何かどっと疲れた」


 がっくりと肩を落とすサカネは、先ほど影に向かって投げつけた鞄の中から手の平よりやや大きい木材を取り出す。そして地べたに座ると別の鞄から筆や絵の具の元となる粉、その他にもいろいろな道具を地面に広げる。それを見て職人たちも一気に仕事人としての目となり興味深そうにサカネを囲み始めた。


「気持ちを落ち着かせたいときに仕事とは違うもの作る奴いるけど、お前のそのクチか」

「うん。集中してる時と気晴らしの時は全然違う作品作るから。こういう風に他の人に囲まれてても全然気にしないし」


 まず木をぐるぐると回しながら細かいところまで見る。


(木目を見て硬いところと柔らかいところを見ていったところか、後は全体の木の良さを見て何を描くか決めてんのか)


 ルオもすっかり職人としての目でサカネを見つめる。すると少し不思議な形をしたナイフのような道具を手に取って削り始めた。角を取るような削り方ではなく、大きく削ったり細かく削ったり、一見めちゃくちゃに溝を掘っているようにしか見えない。

 複数カ所に大きな溝や傷を削り出し、次にかぎ針のような細い道具を取り出す。それで溝の中や削り出した部分を手早く擦り付けた。


「へえ、そんなヤスリがあるんだ」


 声を上げたのは家の中に飾る装飾品作りをしている職人だ。主に木を使っているので道具に興味が湧いたらしい。一目でヤスリとわかったのも職人だからこそ。


「売ってないから作ったんだ」 

「自分で道具を作れるならたいしたもんだ」


 他の職人たちの声かけにも応じつつ、しかし目線は手元の木をじっと見ている。一通り削り終わり、小さな器を十個ほど並べると顔料と糊などを混ぜて絵の具を作っていく。ここまでの作業は目にも止まらぬ速さだ。


「どうすっかな、あれ、いやこっちか」


 ぶつぶつとつぶやきながらサカネは細い筆を指の間に一本一本挟み、すべてに違う色をつける先ほどよりもさらに早い動作で色をつけ始めた。絵を描くような薄い塗り方ではない、絵の具という物体を置いていくような塗り方である。


「速いな」

「この顔料は乾くの早いんだ、ここは速さの勝負だ」

「保湿剤を入れてねえのか」

「入れると緩くなる。木によっては染み込んでへこんだり割れたりするから好きじゃない」


 確かに木が乾燥しているのか、切ったばかりで水分をたくさん含んでいるのかによって絵の具の映え方は違う。先ほどから見ているようにサカネの絵の具の使い方はペタペタ塗っているのではなく絵の具を置いていっていると言う立体的なものだ。表面は乾いても中心まで乾くのに相当時間がかかるだろう。無理矢理乾燥させれば木も絵の具も割れてしまうので自然乾燥だ、そうなると数日かかるかもしれない。くるくる回しながら器用に色を乗せていき、あっという間に色付けが終わった。

 それは一言で説明するには難しい模様だ。花や植物、何かを模したものではない。かといって幾何学的な模様でもない。どちらかと言えば教会にあるステンドグラスや、神に捧げるものなどの抽象的な絵柄に見えた。見る角度によって見え方が違う。


「できた」


 その瞬間見ていた男たちから褒め言葉や指摘、質問までいろいろな口出しが始まる。子供だからという目ではなく、あくまで職人たちの目で見てくれているのがサカネには嬉しかった。

 俺にはこう見える、いやいやこうじゃないかといろいろ考えを口にするわりにサカネに何を描いたんだと聞いてくる者はいない。

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