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黒の天使  作者: ミジンコ
3/3

第3話『今日』という日

 

 「――っは! ここは一体!?」

 どうやら私はいままで眠っていたらしい。ただ生徒会室の床でどうして眠っているのかは思い出せない。

 目を覚ました私が最初に見たのは、にっこりと怖いぐらい笑っている田宮初期だ。

 「あ、会長心配したんですよぉ。急に倒れるんですもん、もう私びっくりしちゃいましたよぉ」

 おどけた調子で言う田宮書記。正直これが演技であることは誰でも見破れると思えるくらいわざとらしい。

 そんな私たちのやりとりを遠巻きで見ていた佐藤会計と――

 「おや、榊原副会長ではないか、久しぶりだね?」

 「君の放送を聞いてね、わざわざ出向いてあげたのさ」

 佐藤会計の隣に悠然と佇む美貌の少女――榊原副会長が、自慢の長髪を青いリボンで結んだポニーテールを揺らしながらこちらに近づいてくる。

 私はその場ですくっと立ち上がり、彼女を迎える。

 「そうかそうか……で、感想は?」

 「あいも変わらず駄目人間街道まっしぐらで安心したよ」

 冷たい、それでいて何処か暖かい小さい笑みを浮かべている。

 私はそんな榊原副会長に右手をさしだし、

 「それは君なりのほめ言葉として受け取ってもいいのかね?」

 榊原副会長がそれを同じく右の手で掴む。

 「ご随意に」

 小さい握手を交わし、ほんの数秒見つめ会う。田宮書記がそんな私たちに割り込むように、

 「そ、それにしても燐が生徒会室に顔を見せるのは久しぶりよね!」

 「燐とは、榊原副会長の名前だ。

 榊原燐、我が桜坂生徒会の副会長であり、女版逢鏡陽介とも呼ばれている逸材だ。

 その本質はお気楽。猫のように気分屋で、ほとんど生徒会にも顔を出さない。どうして副会長に選ばれたのか非常に謎の存在だ。

 ……私のように完璧な人間が会長をするのは当然のことだがね」

 「会長、ナレーションに見せかけて全て口に出すのはどうかと思うよ……」

 半目で佐藤会計がつっこむ。私はそれを無視して、

 「それにしても後水無月実行委員が集まればはれて皆集合ということか」

 「これほど集まりの悪い生徒会も珍しいですよねぇ」

 「水無月くんなら、つい先ほど屋上で見かけたよ……私もそこにいたからね」

 ……屋上か。一応彼とあって確認せなばならないことがある。一度出向くべきか……

 「……ということはだ榊原副会長、昨日君も水無月実行委員も屋上で天使に殺されたわけだね。……ただでやられたのかい?」

 これはあくまでも確認だ。

 榊原副会長はしばし目を閉じて、そしてすぐにまじめな顔で、

 「……すまない。私は熟睡していてその天使とやらを目撃していないのだ」

 「……ふむ。では水無月委員も似たようなものか」

 「それで、会長。君はただでやられたのかい?」

 やらしい笑みを浮かべ、榊原副会長がオウム返しのように聞き返してくる。

 私はできるだけまじめな顔で、

 「そうだね。……もし、彼女達の武器があの光線銃だけで、複数人いるとしたら――」

 ――そして、不敵に笑い。

 「それでも私の敵ではないね」

 「さっすが会長! 僕頼りにしてますね!」

 「私も頼りにしてますぅ! しっかり守ってくださいねぇ!」

 佐藤会計と田宮書記の表情に少しだが活気が満ちてきている。

 まだ完全に恐怖を取り去ることはできないだろうが、しかしそれでも――

 「次は、我々が勝利を得る時だ!」

 「エクセレントだ会長。しかし君は一つ見落としていることがある」

 榊原副会長が笑みを消して冷たい表情で藍色の携帯電話をこちらに渡してくる。

 私はそれを訝しげに受け取り、

 「これはあれかね? 開けたら打ちかけのメールが出てきて、そこに愛してるとか書かれているという新手のラブレターかね」

 「グレイト。君の常軌を逸した発想には戦慄を感じるよ」

 ほほえみ、そして携帯画面を見るように指示してくる。

 私はそれに従い、開いて画面を凝視し、そして――

 「こ、これは――!?」

 「気づいたかい。さて会長、この状況君ならどう見る?」

 馬鹿な……。まさか、こんなことがありえるのか? いや、あっていいわけがない。なぜならこれでは――

 「――待ち受け画面が私じゃないだと!? これでは榊原副会長が私に惚れていないみたいではないか!」

 「…………」

 「――っは! いや待て、よく考えろ私の脳よ。これを見せることによる榊原副会長の思惑をもう一度よく考えるんだ! ……そ、そうかそういうことか。つまりこれは、私とは関係無い画像を待ち受けにすることで、ふんっアンタなんて興味ないんだから、みたいに敢えて演じることで私の意識を向けさせる作戦! つまり――押して駄目なら引いてみろ大作戦!!」

 「……ふぅ。現実に目を離したくなる気持ちはわかるが些か冗談が過ぎるぞ会長」

 榊原副会長が蛆虫を見るかのような目で私を見てくる。

 それに少しの恐怖と興奮を覚えながら私は、本当の戦慄を背筋に感じていた。

 「……これは一体何の冗談かね榊原副会長?」

 携帯のディスプレイに表示された、時計。

 現在3時20分を示している機械特有の文字、その右側に表示されている――日付。

 ――4月20日(木)

 「残念だが私が仕組んだことじゃない。……恐らく他の生徒も気づいている者がいるはずだ。――『今日』という日が、『昨日』に当たる4月20日であるということに」

 「「――――!?」」

  榊原副会長の言葉に、二人が反応してすぐにポケットにしまられた携帯を取り出し確認する。

 「……4月20日」

 佐藤会計が、呆然と呟く。

 私も、さすがに今回ばかりは笑い飛ばすことができなかった。

 これは、あまりにもしゃれにならない――現実。

 榊原副会長は少なからず動揺している私と、顔をまっさおにしている二人に構わず、淡々と告げる。

 「つまり私たちが今過ごしている『今日』と言う日は、『昨日』――4月20日の2回目、ということだ」



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