虐げられているあなたのために私の力を。
カルトナージュ・ベルモデートは分家と言う理由で本家のリードリッヒ・ベルモデートに幼い頃から妨げられていた。
しかも、カルトナージュの両親は本家に媚びを売り彼の虐待を許している毒親でもあった。
自死を覚悟したカルトナージュは隣国にいる愛する人に会いたいと願い彼女に手紙を送る。
それがカルトナージュを救うことになるとは思わず・・・。
そして、愛する人が持つ<ある力>が彼を妨げる者たちに鉄槌を下すことになる。
久々の投稿です。
短編ですが長くなっております。
【あらすじ、媚びを→媚を】「お前とサリドマイド嬢との婚約は破棄となる」
カルトナージュ・ベルモデートは突然の話に唖然とした。
あまりに急な話であった。
カルトナージュは当然の如く、納得できようはずもなかった。
「それは、それは何故なのでしょうか?理由を聞かせて下さい」
「本家からの命だ。分家の我が家ではあまりにもったいない。それゆえ今回は本家の長子であるリードリッヒ様とサリドマイド嬢を婚姻させることを決めたのだ」
「本家と言う・・・それだけのそれだけの理由でですか?」
「文句はあるまい」
「父上、それはあまりに惨過ぎます!」
「黙れ!これは決まったことなのだ!」
カルトナージュの父は息子の切なる願いなど一蹴する。
「私のことなどどうでも良いのですか?」
「こ、これは本家の方針、一族総意のものだ。お前の意見など受け入れられるはずはない」
「父上は我が家をないがしろにされていると思わないのですか!?」
「・・・仕方あるまい。これもすべて本家の総意なのだ」
さすがに気まずいと思ったのか、カルトナージュの父はその場を離れていった。
カルトナージュ一人が頭を抱えるしかなかった。
・・・あまりに無体な仕打ちではないか。
カルトナージュは一人取り残された部屋で途方に暮れるしかなかった。
カルトナージュがいるベルモデート家には本家と分家が存在する。
カルトナージュの家はベルモデート家では分家に位置する一族であった。
その長であるカルトナージュの父は昔から本家の顔色ばかり気にしていた。
そのためにカルトナージュには幼い頃より本家から理不尽な仕打ちを受けていた。
学生時代より成績優秀であったカルトナージュに対して、本家はまるで目の敵にしていた。
本家としては分家の息子が自分の息子より優秀なのが許せなかったのだろう。
その影響は本家の息子にも及ぼしてしまう。
その息子であるリードリッヒ・ベルモデートは卑怯な男であった。
本家である彼はカルトナージュを普段から見下しており幼い頃から苦痛や辱めを与えていた。
それは五爵の中で公爵家である自分と比べれば、伯爵家でしかないカルトナージュなど下賤の対象であったからだ。
とにかくカルトナージュの成績を落とそうとリードリッヒは躍起になっていた。
どんな時でもカルトナージュが勉強できないようにしようとした。
カルトナージュは我慢した。
どんな妨害でも我慢をすれば良いと考えていたからだ。
カルトナージュの父さえも「本家のメンツを考えろ」と勉強をしないよう忠告をするほどであった。
さすがに学び舎である学院の中では、リードリッヒは邪魔はできなかった。
勉強嫌いのリードリッヒは図書館に寄ることもしないので、カルトナージュはそこにいつも逃げ込んでいた。
カルトナージュが通う学院には他にも味方がいた。
学院長である。
彼は平民でありながら自分の実力で学院長になった優秀な人材であり、その性格も寛大であり学生たちを温かく見守っていた。
もちろん、カルトナージュが妨げられていることは知っていた。
何度も彼の両親に態度を改めるよう忠告した。
しかし、彼らは学院長の話を聞くこともなく学院の外でカルトナージュを虐待し続けた。
リードリッヒも親に頼み込んで学院長の印象を良くしようと賄賂を贈ることもあった。
だが、学院長はリードリッヒの家から賄賂を贈られても突き返し、そればかりかリードリッヒの成績に対して注意をするほど実直で寛大であったからだ。
そればかりか学院長はカルトナージュを逃がすために短期留学を許して隣国へ送り出したのだ。
これでリードリッヒは何もできなくなった。
「くそっ!!」
しかし、リードリッヒは諦めない。
次なる嫌がらせを考え始めていた。
成人前になったカルトナージュであったが、彼の婚約者に興味を持ったリードリッヒはより嗜虐的な行動を起こした。
それがカルトナージュの婚約者を奪うことであった。
リードリッヒは密かにカルトナージュの婚約者に接触すると爵位や財力を糧に彼女を自分の虜にしようと動いた。
もちろん、親の力も使って婚約者の家にも接触した。
カルトナージュの婚約者は侯爵家の長子であるサリドマイド・フェルディアスであった。
サリドマイドは成人を迎える前であったがすでに大人びた美しさを兼ね備えておた。
そもそものカルトナージュとサリドマイドの婚約は両家の商売的な側面があった。
だが、本家であるリードリッヒの方がフェルディアス家にとっては有益であった。
カルトナージュの家よりも領地があり、爵位も高いため彼女の両親は意図も簡単にリードリッヒの方へ靡いた。
サリドマイド自身もカルトナージュに興味をなくし、リードリッヒへ心が傾いた。
そもそもサリドマイドもリードリッヒ同様に加虐嗜好の人間であったし、彼女は自分の美貌と爵位を尊大に扱う女性であった。
カルトナージュの婚約者となった時から彼を粗雑に扱っていた。
カルトナージュの家の爵位が彼女の家よりも低いこともあったが、自分より身分の低いものには虐待や差別を与えるのが好きな人間であった。
それは彼女にとっては当たり前のことであった。
その対象は婚約者のカルトナージュにも行われた上、同じ人種のリードリッヒと出会った。
そうなると二人が自然と結ばれるのも時間がかからなかった。
そのような環境の中でカルトナージュは隣国から戻った時にはすでに手遅れになっていた。
カルトナージュの両親はリードリッヒの動きを知っていたがあえて息子に伝えなかった。
それゆえにカルトナージュは抵抗を許されなかった。
そして、リードリッヒはついに一線を越えた。
カルトナージュの婚約者であるサリドマイドを奪ったのだ。
本家から正式に持ち込まれた婚約破棄の話をカルトナージュの両親は息子のことなど考えず媚び諂いながら了承した。
長年の本家への奴隷精神は息子のことなどどうでも良かった。
しかも、リードリッヒはカルトナージュの婚約破棄の話を社交界に流したのだ。
カルトナージュの不甲斐なさを笑うためにリードリッヒは噂を流したのだ。
すでに両親から見放されていたカルトナージュは完全に心が壊れた。
自死さえ考えるようになり、密かに毒杯用の薬を用意しようとした。
それさえも両親に見つかり取り上げられた上に、見舞いに来たリードリッヒには惨めだとテーブルにあった水をかけられた。
もう抵抗するのも諦めてしまったカルトナージュだったが、ある日、何かを思い出した。
・・・せめて最後に会いたい。
カルトナージュは一通の手紙を隣国にいる相手に対して密かに出した。
宛先は彼が一番大切と想う女性。
名前はナイルネガ・シーリングライト。
カルトナージュがわずか1ヶ月だけ隣国へ留学した際に出会った女性であり、リードリッヒや両親さえ知らない想い人。
その彼女に一目会いたかった。
カルトナージュに最後の抵抗として両親とリードリッヒ、元婚約者サリドマイドを手にかけようとまで考えていた。
もはや追い詰められたカルトナージュは彼女に助けを求めた訳ではない。
純粋に彼女に最後に一目だけでもと会いたいと思っただけだ。
結果としてその願いは別の意味として彼女に届くことになるとは思いも知らずに・・・。
手紙を送った七日後。
彼女こと、ナイルネガ・シーリングライトがカルトナージュの前に現れた。
「お久し振りね」
そう言うかとナイルネガはカルトナージュに向けて優しく微笑んだ。
その時、カルトナージュの体に白い霧が包み込んだことに気付いたのは誰もいなかった。
今日のカルトナージュはリードリッヒに強引に誘われて、サリドマイドの婚約指輪の買い物に付き合わされていた。
嫌味を言うリードリッヒに表情を曇らせるカルトナージュはただ同行するのみであった。
その様子を見て満足していたリードリッヒであったが、そこにナイルネガが現れた。
・・・美しい。
リードリッヒはナイルネガに見惚れていた。
サリドマイドよりも美形であり、その立ち姿は凛々しく何よりその瞳が欲情をくすぐる。
だが、彼女はどうしてかカルトナージュにしか興味がないようで彼しか目を向けていない。
それがプライドの高いリードリッヒにとって腹立たしかった。
・・・俺を無視するとはな。
こうなれば強引にでもこの令嬢を愛人にしてやろうとリードリッヒは邪な考えを起こし始めた。
しかし、彼女に名前を聞けなかった。
何故ならあのカルトナージュの態度が急に変わったのだ。
まるで何かに憑依され彼女を守るかのようにナイルネガから目を離さないでいる。
・・・なんだ、こいつ。
リードリッヒは初めて見るカルトナージュの態度の変化を気味悪がった。
リードリッヒから見ればカルトナージュの様子がこれまでと違う違和感があり、周囲の様子など興味がない彼の態度に初めて戸惑いを覚えた。
しかしそんなことよりも彼には目の前にいる令嬢は何者なのかが知りたかった。
加虐者としての性慾の乾きがそこにあった。
この令嬢を奪えば確実にカルトナージュの心が完全に壊れるだけでも嬉しくなった。
リードリッヒは令嬢に何度かに名前を尋ねようとした。
だが、彼女の前にカルトナージュがおり彼の放つ嫌な雰囲気に話を切り出すタイミングが外れてしまった。
一方、かの令嬢はカルトナージュに話を続ける。
「せっかくだから食事に行かない?」
「うん」
カルトナージュは素直に頷く。
「それでいつ空いてるの?」
「三日後」
「じゃあ、後で使いを出すね」
「うん」
「じゃあ、三日後の夕方に会いましょう」
そう言うと彼女はその場から去っていった。
全くリードリッヒを眼中にないままに。
それがリードリッヒは許せなかった。
「おい、彼女は誰だ?」
リードリッヒはなんとしても彼女の名前を聞きたかったので強い口調でカルトナージュに尋ねた。
彼の脳裏には本来の目的であるサリドマイドへの婚約指輪などもはや頭の中になかった。
「昔の知り合いだよ」
カルトナージュは淡々と答えるのみだ。
「な、名前は?」
「・・・・・・・」
「お、おい?」
リードリッヒの問い掛けに無反応のカルトナージュは何も言わず歩き出した。
「おい!」
だが、カルトナージュは振り返ることなくその場を離れていった。
それはこれまでと違いありえないことだった。
初めてカルトナージュが逆らったのだ。
だが、リードリッヒは何も言えなかった。
突然のあまりの変わりようにどうすれば良いかわからなかった。
・・・分家のくせに!!
言うことの聞かないおもちゃに苛立ったリードリッヒはその夜、カルトナージュの両親に苦情を言った。
いつものように大袈裟に言えば良かった。
当然、カルトナージュの両親は息子に怒った。
だが、まったくカルトナージュには効果がなかった。
その上、密かに令嬢の名前を聞き出すように命を出していたがそれさえもカルトナージュは無視して部屋に籠ってしまった。
カルトナージュの両親も息子の異様な雰囲気にこれ以上何もできなかった。
翌日以降もカルトナージュは相も変わらず何かに取り憑かれているかのような上の空の態度であった。
カルトナージュの両親もさらに困惑した。
「一体どうしたのでしょうか?」
「わからん」
「また自殺でも考えているのではないでしょうか?」
「それならまた止めれば良いだけだ」
これまでもカルトナージュの両親は家宰や使用人たちに息子の監視を命じていた。
幼い頃から本家への忠誠心を示すかのようにリードリッヒに息子の様子を報告していた。
婚約破棄の件もこの両親が進んで認めたのも、本家へ良い顔をしたいだけのツマラナイ理由からだった。
カルトナージュの両親の奴隷根性がここまで極まっていた。
しかし、今回は全く違っていた。
カルトナージュは両親に興味を失っているようであった。
・・・このままどこかに消えてしまうのでは。
カルトナージュの両親や家宰たちはカルトナージュの様子に不安を覚えるのみであった。
その予感が見事に当たった時、彼らは後悔の波が押し寄せることになるのは後日となる。
結局、カルトナージュの態度はリードリッヒとサリドマイドの婚約パーティーまで変わることはなかった。
「くそっ!!」
自室で洋酒を飲むリードリッヒが悔しさを吐き捨てていた。
あの令嬢と会って以降、カルトナージュの様子が変わる事もなかったからだ。
カルトナージュの両親からの報告も芳しくなかった。
かの令嬢の名前も聞かずじまいであった。
彼としてはカルトナージュの苦しむ姿をサリドマイドと一緒に見たかった。
ただ、一つだけわかったことあった。
・・・まるで恋煩いだな。
カルトナージュは確実にあの女に惚れているのはわかっていた。
そう確信したリードリッヒはかの令嬢をさらに探り出した。
しかし誰も彼女のことを知らなかった。
・・・どういうことだ。
リードリッヒはカルトナージュの知らない部分に触れた気がした。
リードリッヒとしてはカルトナージュからサリドマイドを奪い婚約破棄させただけでなく、彼の両親でさえ本家の威光で取り込むことに成功していた。
しかしながら、カルトナージュはかの令嬢と会って以来、まったくリードリッヒたちに興味を示さなくなった。
リードリッヒは彼に何度も話をしても無反応に近いものであった。
それがリードリッヒには腹立たしかった。
だが、リードリッヒは次の手をすでに考えていた。
これでカルトナージュが苦しむ姿が見れるはずだった。
「次のパーティーは我が家で行うんだ。否応なく参加させてやる」
隣にいるサリドマイドに楽しそうに話すリードリッヒだった。
一方でサリドマイドには別の想いがあった。
・・・カルトを奪われた。
独占欲の強い彼女にとってカルトナージュが自分に目を向けないことが許せなかった。
しかも会ったこともない女がカルトナージュの心を奪った。
そもそもカルトナージュがそんな秘密を隠していたことがあろうとは・・・。
絶え間ない嫉妬と独占欲が彼女の心を黒く染めてゆく。
サリドマイドはカルトナージュの心を奪ったあの女に制裁を加えてやろうと考えた。
サリドマイド自身もかの令嬢を探し始めた。
だが、リードリッヒが見つけることができないのに彼女が見つけ出すことはできようはずはなかった。
こうして二人が不満を最大限に貯め込んだところで婚約パーティーの日がやってきた。
今回のパーティーはリードリッヒとサリドマイドの両親は参加しないことになっていた。
夫婦となる彼らの最初の作業として二人に任せることになっていたのだ。
これは二人にとっては都合が良かった。
これで何があってもカルトナージュを弄びながら楽しめると思ったからだ。
彼らの両親たちも息子たちのカルトナージュの苛めを黙認していた。
本家と分家の関係性が一族の関係を歪ませていた。
そのことに当然の如く気付いているリードリッヒやサリドマイドは満足であり、今日でもっとも追い詰めてしまおうと考えていた。
リードリッヒはかの女を奪うため、サリドマイドはかの女を断罪するために。
だが、二人の思惑は最初から外されてしまった。
その日の午後、カルトナージュの両親から息子が遅れて参加するとの報告があったからだ。
リードリッヒはいつものように本家の威光を笠にしてカルトナージュの両親に強く問い詰めた。
だが、彼らの返信は予想もしないものであった。
「今回は私とサリドマイドの婚約パーティーです。一族としてその意味合いをお忘れか?」
「もちろんわかっております。ただ・・・」
「どうした?」
「息子に王家より使いの者が訪問し・・・王城へ出仕するよう命が来まして・・・」
「王家からだと・・・」
リードリッヒの声が震えた。
まさかカルトナージュに王家の呼び出しがあるとは予想もしなかった。
一体、王家があのカルトナージュに何の用があるのか。
あまりのことにリードリッヒは驚きを隠せなかった。
彼は気持ち悪いほどに胸騒ぎがした。
それはカルトナージュの両親も同様であった。
その意味をリードリッヒたちは後に理解することになる。
「さすがに我々も止める訳にはいかず・・・」
その上でカルトナージュの両親が言うには彼は遅れて会場に来るとのことだった。
「それでいつ来られるのですか?」
「本人からはパーティーの1時間後には来られるとのことで・・・」
「1時間後とは・・・失礼ですわ」
近くにいるサリドマイドがカルトナージュの両親を睨み付けると彼らは畏縮した。
サリドマイドは王家のことなど気にしていない。
あくまで自分のプライドが優先でった。
「仕方ありませんね。まったく・・・」
リードリッヒはそう言うものの王家と言う不安が拭うことができなかった。
夕方になるとリードリッヒとサリドマイドの婚約パーティーが始まった。
それは爵位に見合う豪勢なものであり、参加者の皆が二人を祝福する。
そして、この後起こるであろうイベントに誰もが期待していた。
生贄はカルトナージュである。
そう、彼が本当の主人公でありこれからこのパーティーの主催者に惨めな目に合わされる。
これは加虐者にとって格好の趣あるイベントであった。
皆でカルトナージュを笑い物にしようと手ぐすねを引いて待っているのだ。
誰もが早く早く獲物が来いと願っていた。
パーティーが始まり1時間後、カルトナージュがようやく会場に現れた。
彼が現れた時、イベントを楽しみにしていた参加者の誰もが目を疑った。
なんと彼の隣には美しき令嬢を伴っていたのだ。
「誰よ、あの女・・・」
サリドマイドが嫉妬の目を向ける。
一方でリードリッヒは彼女の姿に見覚えがあった。
・・・あの時の令嬢じゃないか。
リードリッヒはカルトナージュの隣にいる女性がサリドマイドに先週会ったかの令嬢だと教える。
「・・・あれがカルトを惑わせる女ね」
「そうだ」
「許せないわ」
二人はさっそくかの女を虐げることにした。
そして、カルトナージュがより絶望することを楽しみにしようとした。
「遅かったじゃないか、ランド」
リードリッヒがにやにやしながらカルトナージュに歩み寄る。
「すまない」
カルトナージュはリードリッヒに謝罪する。
だが、意識が上の空であった。
それは前回と変わらないものでありリードリッヒは嫌な印象を与える。
サリドマイドもカルトナージュの態度に困惑する。
リードリッヒはカルトナージュのその態度が段々と腹立たしく思えてきた。
「それが謝罪か!これは我々一族にとって大切はパーティーなんだぞ!」
「そうだな」
カルトナージュの態度は変わらない。
声も前と同じ高揚のないものであり、他の参加者から見ても異様であった。
「そこにいるあなたもです!」
サリドマイドが令嬢に対して扇子を向ける。
「あなたはこのパーティーがどのようなものかご存じなのですか?」
「ええ。それがどうしましたか?」
かの令嬢はサリドマイドに馬鹿にしたように微笑む。
その態度がサリドマイドのプライドを刺激した。
彼女には相手の態度は無礼で到底許せなかった。
「ふざけないで!!」
サリドマイドの扇子が令嬢の頬を叩こうとした。
その時、誰かが彼女の右手を掴んで止めた。
「なっ!?」
その腕の主はカルトナージュであった。
リードリッヒやサリドマイドにとって信じられないことでありそれは有り得ないことであった。
これだけ大勢の参加者の前でカルトナージュが逆らったのだ。
・・・これでは興ざめしてしまうではないか!!
実際、参加者の多くがかの令嬢を守るカルトナージュに目を奪われていた。
「嘘でしょ・・・」
「まさか・・・」
「あの方は・・・そんな・・・」
参加者の一部はかの令嬢のことを知っているようであった。
しかも、彼らは動揺していた。
そのことに気付かないのはリードリッヒやサリドマイド、カルトナージュの両親だけであった。
「やめろ」
高揚のない声が続く。
「放しなさい!!」
だが、カルトナージュはサリドマイドから扇子を奪うと彼女をリードリッヒへ突き返した。
「きゃ!!」
バランスを崩したサリドマイドをリードリッヒが受け止める。
「お、お前なんてことを!!」
しかし、カルトナージュは何も答えようとしない。
あくまでかの令嬢を守るために二人の前に立ち塞がる。
・・・オモチャのくせに!!
サリドマイドが怒りを込めて大声で叫ぶ。
「そもそもあなたはどなたですの!!ランドとはどのような関係なのかしら!!」
「私は妻です」
会場の時間が止まった。
かの令嬢はこの会場の全員に改めて言う。
「私は妻です」
「今・・・なんと?」
サリドマイドが改めて尋ねる。
「ですから、私はカルトナージュ様の妻です」
そう言うとかの令嬢は一度離れたカルトナージュの腕を改めて組み直す。
「そうですわね、旦那様」
「うん」
カルトナージュはかの令嬢の手を優しく握り締めた。
「わ、私たちは何も聞いていないぞ!?」
カルトナージュの両親たちも理解できないでいた。
いつ結婚したのか二人の肉親は知らなかった。
「そうですか。では、これをお渡ししましょう」
かの令嬢は胸元から一通の封を取り出すとカルトナージュの両親に渡す。
「これは・・・」
カルトナージュの父はそれが大変なものだとすぐに気付いた。
そう、驚くことに封には王家の封蝋が押されていた。
「どうして王家の・・・」
カルトナージュの両親が息子に目を向ける。
息子は相変わらず上の空であった。
二人に目を合わすことをせず、あくまでかの令嬢しか見つめていない。
かの令嬢が話を続ける。
「皆さま、カルトナージュ様の年齢を覚えておいでですか?」
「も、もちろんだ。カルトナージュは私たちの息子だ」
「では言うまでもありません。カルトナージュ様は今年で20になりました。どういうことかお分かりですね?」
「ま、まさか!!」
カルトナージュの父が動揺する。
そして、かの令嬢の話の意味をすぐに理解した。
「叔父上、どうしたのですか?」
リードリッヒは未だ理解できないでいる。
「・・・我が国は齢が20になれば成人と見なされる。どんな事情があれ自分の選択で婚姻ができるのだ」
「そんな馬鹿な・・・」
その話を聞いたリードリッヒは思わずカルトナージュを睨み付ける。
このようなことを本家である自分に無断でやったこと自体が許せなかった。
なによりオモチャが自分に歯向かったのだ。
「カルトナージュ!お前は一族から追放されていいのか?」
「ああ。すでに戸籍を抜くよう手続きをすませてきた」
「なっ!?」
さらに二重で頭を殴られた衝撃がリードリッヒを襲う。
まさか、あの何も言えないカルトナージュがこのような強引なことをするとは考えられなかった。
それは元婚約者であるサリドマイドも彼の両親、パーティーの参加者も同様であった。
「お前は・・・お前は何を考えているんだ?」
誰もがカルトナージュの行動に関して理解不能だった。
「誰がそんなことをしろと言った?お前は分家だ!本家を無視するな!」
リードリッヒがカルトナージュの胸倉を掴もうとする。
しかし、すぐにカルトナージュはリードリッヒの両腕を掴むとその場に突き飛ばした。
床に倒されたリードリッヒは何度も起き上がりカルトナージュを殴ろうと挑む。
そのたびにカルトナージュに躱される上に床に倒された。
「無礼ぞ!」
カルトナージュの両親の怒声もカルトナージュは無視した。
「無礼はあなた方ですわ」
かの令嬢の声が響き渡る。
「ふざけるな!私は由緒あるベルモデートの後継者だ!その意味がわからないのか!!」
怒りに震えるリードリッヒを見ながらかの令嬢がため息をつく。
「これでは話が進みません。仕方ありません、私の正体をお教えしましょう」
そう言うとかの令嬢は自分の名前を告げる。
「ご紹介が遅れました。私、ナイルネガ・シーリングライトと申します」
かの令嬢はそう言うとカーテシーを行う。
「シーリングライト家!!」
この場にいる皆が驚愕した。
まさかこの場で王家の名前を聞くとは思いもしなかったからだ。
「・・・どうして、シーリングライト家がこんな場所に・・・」
もちろん、リードリッヒも信じられず自分の声が小さくなる。
騒めく会場の中でナイルネガは話を続ける。
「今後、カルトナージュ様は私と一緒に王家を支えていくことになります」
「カルトナージュが王家に入ると言うのか?」
「はい」
「そんな勝手なことは許されない!!」
カルトナージュの父が反論する。
本家をコケにされたと思い込んでいる彼にはそのようなことが許す訳にはいかなかった。
分家は本家を立てる。
その考えしかない愚かな両親であった、それが無駄であることを彼らはすぐに知る。
「残念ですが、すでに王よりの決定です。詳細はその封の中をお改めてお読み下さい」
かの令嬢に言われて封を確かめるカルトナージュの父は二枚目の手紙を読んだ。
<我が親族であるナイルネガ・シーリングライトとカルトナージュ・ベルモデートを婚姻を認める。そして、この婚姻に対して反対する者がいれば処罰されると心得よ。なによりカルトナージュへの虐待はすでに我が影の手により調査済である。その者たちはすべて覚悟せよ>
その内容に対して、カルトナージュの両親は二人ともその場に崩れ落ちた。
「お、お許しを!!」
カルトナージュの両親は王がいないにも関わらず、床に落ちた手紙に頭を下げた。
「どうしたのですか!?」
リードリッヒやサリドマイドもカルトナージュの両親の態度に困惑する。
「・・・王が我々にお怒りだ」
「何故ですか!?」
「我々がカルトナージュをないがしろにしたことが理由だと。すでに王家の影が事実を確認しているそうだ」
「そんな・・・嘘だ!!」
リードリッヒは床に落ちた手紙を拾うと手紙の内容を確認した。
その内容はリードリッヒに痛手を与える。
「・・・違う・・・私たちはあくまで一族のために・・・」
「どうするのよ!!」
同じく手紙を読んだサリドマイドがリードリッヒに詰め寄る。
「どうするのよ!!」
「うるさい!!」
リードリッヒは頭を抱えながら王への言い訳を考え出す。
まさか王の影が周囲にいたことなど知らなかった。
どう言い訳しようと無理だとわかっていてもリードリッヒは責めを負いたくなかった。
「・・・婚約破棄なんてするんじゃなかった」
そう言うとサリドマイドはカルトナージュの前に出る。
「カルトナージュ様!!私は悪くありませんの!!」
サリドマイドはカルトナージュへ媚びを売り始めた。
「私、リードリッヒに脅されていましたの!!カルトナージュ様と婚約破棄をしなければ我が家に圧力をかけると!!私は悪くありませんわ!!」
彼女のその身の変わりように周囲の者たちは呆れてしまう。
「カルトナージュ様、悪いのはリードリッヒ様ですわ!!」
「お前、何を言い出すんだ!!お前も喜んでいたじゃないか!!」
「今日のパーティーでカルトナージュ様を辱めようと言い出したのがリードリッヒ様なのです!!」
「サリドマイド、お前も認めたじゃないか!!」
「嘘です!!この人が勝手に言っているだけです!!」
「貴様!!」
サリドマイドの裏切りにリードリッヒは発狂してしまった。
気の触れてしまったリードリッヒは大声で叫びながらサリドマイドに殴りかかった。
「お前のせいだ!お前が俺を誘惑するからこんなことになったんだ!!」
床に倒されたサリドマイドの顔面を何度も殴りながらリードリッヒは叫ぶ。
サリドマイドの美しき顔が殴打により鼻や口から血が出ており、左目や両頬の部分は打撲創で損傷していた。
「や、やめて・!!
サリドマイドが意識が朦朧と痛みで悲鳴を上げる中、リードリッヒは会場の外にいた騎士たちに取り押さえられた。
これはナイルネガの用意した警備の者たちであった。
彼らは手際よくリードリッヒを拘束するとそのまま騎士団の屯所へ連行した。
一方で彼に暴行を受けたサリドマイドはすでに気絶しており急ぎ治癒院へ運ばれた。
「お二人とも自業自得ですわ」
ナイルネガが呆れながら首を横に振る。
「カルトナージュ様、王城へ戻りましょう」
「うん」
すべてを見届けたカルトナージュたちは会場を出ようしたが、するとカルトナージュの両親に止められる。
「カルトナージュ」
「なんでしょうか?」
「これまでお前には迷惑をかけた」
「いえ、大丈夫です」
やはり彼の態度は変わらない。
「これも仕方なかったんだ。我々は分家だ。本家に逆らう訳にはいかない。わかるだろう?」
「それは父上たちの考えです。私には関係ありません」
「そ、そうだな」
中々許してくれそうにない息子に対してカルトナージュの両親たちは本家と同じ態度を取り続ける。
「そうだ。我が家に改めて養子として戻ってこないか。そうすれば本家との関係も益々強くなるぞ」
「お断りします。私はナイルネガと一緒に王家へ行きますので」
「わ、私たちは親子でしょう?」
カルトナージュの母が息子の手を強く握り締める。
だが、その腕を離させたのはナイルネガであった。
「残念ですがもう遅すぎるのです」
「そんなことはない!!今からでも・・・」
「あなたたちは本当にカルトナージュ様のことを理解していないのですね。ご存じないと思いますが彼は私に手紙を送ってきました。その内容は本当に酷いものでした。あなた方は肉親でありながら本家のことばかり気にしてカルトナージュ様を助けなかった。そればかりかカルトナージュ様がどうなっても良いと言われたそうですね」
「そんなことは言っていない!!」
「カルトナージュ様は応接室の扉の前で密かに聞いていたそうですよ。しかも、カルトナージュ様が死んでも養子を取ればよいと。とても親とは思えませんわね」
「それは・・・」
カルトナージュの両親はまさか息子が養子の件を聞いていたとは思わなかった。
あくまで最終手段と考えてはいたが、どこかで息子が死んで問題ない。
本家との関係を続けられれば良いと計算していた。
「そうですわ、あなた方に一つだけ感謝はしております。あなた方がカルトナージュ様から毒杯を取り上げて自死を防いでくれたことを。その時は血の繋がりを忘れていなかったのでしょう。でも、それ以外は親としての責務はなかったですがね」
ナイルネガとしては心を込めた嫌味であった。
目の前にいるこの両親たちの醜さに対しての彼女なりの復讐であった。
だからこそ今ここで少しでもカルトナージュの苦しみを知り、傷つけば良いと思っていた。
「これで戸籍上はカルトナージュ様はすでにベルモデート家を抜けております。あなた方の望み通り他の者を養子に迎えて下さい」
ナイルネガにトドメを刺されたカルトナージュの両親はその場に泣き崩れてしまった。
彼らは口々に「許してくれ」や「本家に逆らえなかったのだ」など相変わらず勝手な言い訳ばかりであった。
「行きましょう」
ナイルネガに促されてカルトナージュが歩き出す。
「そうでしたわ」
何かを思い出したナイルネガが立ち止まる。
そして、会場にいる参加者たちを一通り見回すと一言告げる。
「参加者の皆様も名前を憶えておりますので皆様もお覚悟を」
ナイルネガの宣言にパーティー会場は悲鳴や人が倒れる音がこだました。
その後の話だが、リードリッヒとサリドマイドは当然の如く破局した。
リードリッヒはベルモデート家を平民に降格の上に追放となり、サリドマイドは修道院で幽閉となった。
しかし、彼らはその後もカルトナージュたちに接触しようとした。
彼らにとってカルトナージュとナイルネガに復讐をすることしか頭になかったのだ
リードリッヒはナイルネガを襲い既成事実を作ろうとした。
彼はナイルネガが王城を出て街に入ったところでならず者たちと一緒に彼女を襲ったのだ。
だが、それも徒労に終わる。
彼女の側には王家の影がおり強者の騎士たちがいた。
彼らは襲い掛かってきたならず者たちを一人残らず斬り捨てた。
その中にリードリッヒもいた。
彼は背中を斬られると言う致命傷を負いながら、最後はベルモデート家本家の正門前で息絶えた。
その執念はあまりに惨めにしか見えなかった。
しかし息絶えた場所が悪かった。
まさかベルモデート家本家の正門前で倒れるとは彼の両親は予想しなかっただろう。
これでは彼らも共犯者だと思われても仕方なかった。
それゆえに彼の行動は国家への反逆罪となり、ベルモデート家本家は連帯責任として取り潰しとなった。
一方でサリドマイドは怪我をしたことでカルトナージュの同情を誘おうとした。
カルトナージュに見舞いに来て欲しいと手紙を出したものの、彼がなかなか来ないのでついに修道院を脱走した。
王城の使用人を体で買収したサリドマイドは密かに王城へ侵入したが、すぐに王家の影に捕獲された。
彼女の手にはナイフと媚薬があり、そのために王族に害を成すと判断された。
サリドマイドは処刑場で密かに葬られた。
その時も「私はカルトナージュの妻よ!!」と叫んでいたそうだがその声も処刑が終わるころには消えていた。
サリドマイドの家ももちろん取り潰しとなった。
そして、カルトナージュを一番苦しめたと言えるカルトナージュの両親も虐待の責を負わされ、爵位を降格となり辺境の地へ追いやられた。
こうして今回の騒動は幕を閉じた。
王城にあるナイルネガの部屋にカルトナージュは眠っていた。
パーティーが終わってからすでに三日が過ぎていたが、その間、カルトナージュは眠り続けていた。
その側にはナイルネガがずっと彼の手を握り締めながら介抱していた。
カルトナージュが目を覚ました時、ナイルネガは優しく彼に声をかけた。
「お目覚めね」
そう言うとナイルネガはカルトナージュの髪を梳かすように撫でる。
「ここは?」
「私の部屋」
「そうか・・・もう終わったんだ」
「ええ」
ナイルネガがカルトナージュの額に口づけする。
その瞬間、カルトナージュの体から白い霧が浮き上がりそのまま消えた。
「魔法は解いたわ。あなたは自由。どう気分は?」
「・・・もう何もされないんだね?」
「そうよ。あなたに危害を加えるものはいないわ」
「良かった」
上半身を起こしたカルトナージュはナイルネガを抱き締める。
「ありがとう」
「でも、これっきりよ。あなたにかかる負担が大変なんだから」
「ああ」
カルトナージュが頷く。
その口調も「うん」と言う子供のようなものではない。
「その時のあいつら、滑稽で面白かったわ」
「見たかったな」
「そうね。でも。あなたはダメ。あなたは優しすぎるからそんなところを見たら動揺してしまうわ」
「わかっている」
「わかってない。だから・・・私、あなたにしか魅了の術をかけなかったの」
そう、ナイルネガは魅了の持ち主であった。
だが、彼女は幼い頃よりその能力が強大であり悪用されるのを恐れていたため、その力を極力使わないようにしていたし周囲にも秘密としていたのだ。
今回は事情が違った。
隣国へ留学中の彼女の元に親類の学院長から手紙が届いた。
その内容こそカルトナージュのことであった。
ナイルネガがカルトナージュと出会ったのはあまり周りに知らせていなかった。
二人が出会ったのが学院の図書館であったし、リードリッヒが勉強嫌いであったこともあり彼が図書館に来ることはなかったからだ。
ナイルネガがカルトナージュの誠実さに好意を抱くのは自然の流れであったし、それはカルトナージュにとっても同じであった。
その後、カルトナージュが短期間の隣国へ留学した時も二人は交流を続けた。
二人の愛情は自然と育まれていった。
ただ、隣国へ戻るナイルネガにカルトナージュが手紙を送らないよう伝えてきたのが気になっていた。
何故、そのようなことを言うのか?
その理由が学院長の手紙で理解できた。
カルトナージュが親族や肉親から辱めを受けていたのだ。
その上、婚約破棄の憂き目にあっていた。
「・・・許せない」
学院長はこれ以上、自分の手ではどうにもできないと言ってきたのだ。
ベルモデート家の本家と分家の差別、カルトナージュの両親が毒親であること、これらがカルトナージュを追い詰めているので王族であるナイルネガに助けて欲しいと。
そして、続けて届いてきたカルトナージュからの手紙をもらった時、彼女は母国へ戻ることを決めた。
「会いたい」
ただ、その一言だけがナイルネガに決断させたのだった。
帰国した彼女は親族である王に願い出た。
カルトナージュと結婚させて欲しいと。
その上でカルトナージュの立場や状況を説明して彼を救うよう訴えたのだ。
「なんということだ・・・」
王はすぐにカルトナージュの周辺を影に探らせた。
そして、彼の虐待の事実を突き止めた。
しかも、多くの者たちが関わっていたため、この話が王や重鎮たちまで来なかったのだ。
「どうしたいのだ、ナイルネガ?」
「カルトナージュを虐げた彼らに鉄槌を。そのために私の力を解放しますので許可を」
「よかろう」
王はナイルネガの力を容認した。
ナイルネガはすぐにカルトナージュに会うと彼を救うために魅了の術をかけた。
こうすれば彼が傷つくこともなくなる。
カルトナージュも彼女の魅了を受け入れた。
その後は見事に元凶であるリードリッヒたちに罰を与えることができた。
「私の想いはわかってるよね?」
「うん」
「結婚しましょう」
「俺でいいの?」
「もう、どうして素直になれないのかしら?」
「・・・恥ずかしいんだ」
「恥ずかしいって・・・あなた、乙女みたいなこと言わないでよ」
「嘘ついても仕方ないよ」
「そう言うところ。本当にダメなんだから」
「悪かったよ」
「謝るなら行動で示しなさい」
ナイルネガから笑みがこぼれる。
そして、彼女は思う。
目の前に愛する人に自分の魅了を使うのはいつだろうかと。
「ナイル」
「うん?」
「もし俺が迷ったらまた魅了をかけてくれるかい?」
「ええ。でも、そんな日が来ないよう努力してよね」
ナイルネガからカルトナージュに口づけをした。
登場人物
カルトナージュ・ベルモデート
・・・ベルモデート家分家の長子。分家の立場であるため本家のリードリッヒに妨げられている。本家に媚びる両親とも仲が悪い。まさに毒親である。
リードリッヒ・ベルモデート
・・・ベルモデート家本家の長子。カルトナージュを幼い頃から苛めており、彼の婚約者だったサリドマイドを本家の命令をして奪った。
サリドマイド・フェルディアス
・・・カルトナージュの元婚約者。リードリッヒとの利害が一致し、カルトナージュと婚約破棄して彼を追い詰める。
ナイルネガ・シーリングライト
・・・王家の親族。カルトナージュと両想い。カルトナージュを虐待する者たちに制裁を加えるため、自分が持つ<魅了の術>を使用する。