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5話

 ここ『学び舎』の一員となってから一か月。ここの生活にもようやく慣れてきた私、ローラ・ローズです。

 ここでの生活は目まぐるしいものでした。

 入学できたのは良いものの基本的に放任主義であるこの学び舎の体制は私にとって馴染みの無いもので、兎角どうすればと右往左往していたところを知り合って間もないアユ様の助言で他の方の研究発表を見させていただくことに専念していました。

 えぇ、ここではそういった学会が毎日のように開かれているのです。開かれる目的は大体二つに分けられ、一つは金主を得るためで、もう一つは自身の研究を世に出す前にこの学び舎内で疑義が出ないかと研鑽するためだそう。

 ……はいそうです、すべてアユ様の受け売りです。お金を積んで入学したと聞き悪感情を抱いたのが恥ずかしいと思うくらいには彼女の知識とその知恵に甘えさせてもらっています。

 あまりにもアユ様が私の世話を焼いてくれるので私も何か彼女にお返しがしたいと思いました。

 けれどここで金銭の受け渡しなど話が違うことくらい田舎者の私にもわかりますし、何より田舎者の私の財布に入っているような額などアユ様にとっては路傍の石程度でしょう。

 ならばとせめて彼女に好印象を与えられるように浅ましくも彼女の喋り口の根幹にありそうな拝金主義を褒めそやした時の話です。


「アハハ、確かに金は良いもんでやんすがね。ですがあんなもん航海の最中は食えもしないただの重石だってのは理解しなきゃでやんすよ」

「アユ様は以前、お金は何にでも変われるとおっしゃっていたような」

「もちろん、そうでやんすよ。しかしそれには他にも様々な要因がありまして、それこそだだっ広い海の真ん中で遭難したとでも考えてみんさい、誰が食料よりも先に金貨銀貨に手を出しますかってなもんで」

「確かに…」

「でやんしょう? 確かに金は大概の物には変わる、けれどそれはそれそのものが本質的に変わるのではなくてあくまでその価値が変わるといいたいわけでやんす。つまりは遭難中は食料や水に比べ金銭なんぞは価値が低くなる」

「それは飢饉が起きた土地でも?」

「もちろん、だからそういう所に食料を多く商いに行ったりでやんすな。詰まるとこ、あっしは金というものは価値が本質であり今の金貨だの銀貨だのってのはその価値を最低限担保するだけのものでしかないとそう考えているでやんす。実際、あっしらのような規模の商会同士だと紙の契約書で済むでやすし。もっと未来になれば金貨銀貨も紙になってるんじゃないでやんすかね、あるいは何かもっと価値自体のような……」


 アユ様の語っている展望は私にはよく理解できませんでした。

 少なくともお財布に入っているこの貨幣の価値が…いえそうこの貨幣自体が彼女言う……。

 ………。

 …………お金というものは大切ですけれど彼女の言う価値そのものではないのでしょう。


「うむうむ、いいでやんすよローラ殿。価値観なんざ簡単に変わるというだけの話でやんすから、そう難しく考える必要はないでやんす」


 難しくないと、理解している方はいつもそういうのです。もうわかっている方々からすればそうでしょうけれど……。

 ともあれ、私はあらゆる学会に参加し自身の見聞を深めたのです。

 とても充実した時間だと、そしてまるで夢のようだとも感じました。ある時は話の内容にまるでついていけず困惑すらできなかったり、ある時は共感できる内容だったにもかかわらず演者は聴者の方から鬼のように追及されている様に恐怖したり、またある時は演者の方から突然話を振られ意味も分からないまま曖昧に頷くのでした。

 新しい知識を得るためにも下地の知識がいるとはお父さんがよく言っていたけれどそれを身をもって痛感しています。

 けれど最近ようやく理解できてきました。学会での発表とはどういったの形であるのかということを。

 私の合格した理由である入学試験時のレポートをここで発表する。

 それがこの学び舎に入学した私の第一目標です。

 ここ学び舎では入学時のああいったレポートを運営側の私物にすることもなく、何より著者が入学した後もその研究をすることを強制することはないそうです。入学直後にまったく別の研究始めても学び舎からは何も言われない、それどころかきちんと申請し審査が通れば予算が下りることもあるのだとか。

 アユ様曰くそういうのは金積んで入学するのと同じ要領でその研究自体を献上することやその入学後に完成を担保に入ることも他の研究施設であればありふれた話のようで、ここまで利益にずぼらなところは見たことがないと断言されていました。

 特別な形で入学した私もその例に漏れず私の…、いえお父さんの研究をここで認めさせ、世界の病魔に脅かされている人たちを助けるのです。

毎日投稿は今日で終了です。次からは週一で投稿しようと思います。

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