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4話

 気後れしている私たちを後目にアユ様が堂々と名乗りを上げてくれましたが、目の前の先輩らしき御方はなお憮然とした態度でした。

 そんな態度を相手にしても流石商会を盛り上げたというアユ様です、気分を害された様子などおくびにも出さず笑顔のままです。


「……ははは、ちんけなあっしの商会なんぞはそう高名ななものでもございません。良ければ貴方様の御名前をお聞かせ願っても?」


 いえ笑顔で怒れるタイプの方だったようです。


「俺の名を知らんのならそのままでいい。ここに来て間もない奴に教える気もなければ覚える気もない」

「そりゃあ残念至極。偉大なる先輩諸兄に追いつけるよう励まさせていただきやす」


 お名前の分からない浅黒先輩はある方向を指さし、


「食堂だったな、向こうの建物の……、おや学長殿研究室の外で会うとは珍しい」

「うん? あぁ君か、なに今の研究が一段落着いたのでね。人に追実験を任せて気晴らしに出てきたのだよ」


 私たちの後ろをからその人物は来られました。

 浅黒先輩が学長と呼ぶその方を見たとき私は思わず息を呑み込みました。

 それほどその御方は綺麗だったのです。

 セミショートの銀髪、くりりと大きな猫目とどこまでも吸い込まれそうな水色の瞳、天使のようと言っても誰も文句を付けなさそうな美貌でした。いかにも学者然とした少し心配になるほど細身に女性としては平均以上に高いの身長。着ている長白衣もこの方が着ていると服が汚れないための作業着のはずがどこかの正装かのように思えてしまいます。


「年若い娘を三人も侍らすだなんて君も隅に置けないね」

「御冗談を。この子たちは今年、それも今日入ってきたばかり奴等で、俺は道を聞かれただけですよ」

「ほう、それは通りで。どうにも外が暖かいと思った、なるほどもう季節は春か」


 お話の内容がかみ合っていないように私には思えましたが、天上の会話はそれこそこちらの意も介さずに行われていきました。

 私の心情は穏やかではありません。

 少し珍しいけれどそこまで特別視されるほどではないというのであればまだ納得できたのです。しかし、そうではなくあからさまにそう扱われるとなると私は不当に格別な扱いを受けていると申し出なければならない。

 私はどう考えてもそんな大層な人物ではないのですから。

 そしてそれを黙って掠めるような乞食でありたくありません。


「あの……!」


 ただ声を掛けたかっただけなのに、必要以上に大きな声になってしまいました。


「どうしたんだい?」


 そういう学長は、特に私の奇行を気にかけている様子もありません。

 ただ、その所作に参ってしまったのは私の方でした。彼女からしてみれば声を掛けられたから目を合わせた、ただそれだけなのですが。私からしてみればそれだけで私のすべてが彼女の瞳に飲み込まれてしまうような、そんな錯覚を覚えるほどには動揺してしてしまったのです。


「ふぅむ、そうだね。ここ学び舎では学長たる私も今日入ってきたばかりの新入生たる君も同列だ。

 そうあるように私が決めた。この学園を動かす権力こそ私にはあるが、あくまで個人の言説や論説を語るに至っては同じ位の同胞であると思ってほしいな」

「あ、あの私は貴方の御推薦で格別たる配慮を賜れるとここに来て初めて知ることができました」


 敬語を正しく使えているのかもわかりません。

 理由を尋ねるという意思はもう消えていました、えぇこの方の雰囲気に吞み込まれたのです。

 せめて彼女に感謝を伝えねばと口を動かしました。


「ご期待に沿えるよう精一杯頑張ります」


 私の言葉に何か思ってくれたでしょうか。

 学長様は少しの時間、私の顔を見つめるとこう仰いました。


「……そうか君があれか。うん、ぜひともここでよく学んでくれたまえ。君がここで励むことは私の思惑とも利害が一致する、だから感謝する必要はないよ」


 ひらひらと手を振りながら去っていく学長様の後姿を私たちは茫然と見つめてしまいます。

 それはアユ様とアレクシス様も同じだったようで、あの学長様は何か人を惹き付けるカリスマとでもいうようなものを持っているようです。

 私たち三人は浅黒い男の言葉でようやく正気に戻ったのでした。


「お前ら、あの人に憧れるの構わないがあまり魅入られんように気を付けろ。まぁそれでもある種幸せなのかもしれんがな」


 私は、いえ私たち全員でしょう。この浅黒先輩の言をこの時はまだ誰も理解しておらず、そしてこんな忠告をされたうえでなおあの学長様に心を引き付けられる眩い光のようなものを感じていたのです。

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