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10話

「君たち病を診れるかい?」


 ぽっと口をついて出た言葉だった。

 後ろからこの店の店主が何やら言っているが耳には入ってこない。

 自分でも笑ってしまいそうになった、そこまでの間を開けてようやく目の前にいる少女の姿を見たのだ。

 よほど自分には余裕がないらしい。

 こんな子達が医者であるわけがない、見ればわかることだ。

 急がないと村が。

 とにかくどうにかしなければ。

 すまないと、一言を絞り出す。


「私は病を診れます」


 まずその言葉をちゃんと理解できなかった。

 それがたった今すれ違おうとしていた目の前の少女が発したものだと分かり、それに追いつくように言葉の意味に理解が追い付いた。

 まさに運命だと心が沸くのを感じたが、その熱はすぐに引いて行った。

 ここに来て医者に一人も会えなかったのではなく断られたのだという事実が重くのしかかってきたからだ。

 良い意味でも悪い意味でも騒めく心を落ち着けて、少女たちをよく見直してみる。

 ……どう見ても今まで断られてきた医者たちよりも若く、病気を診てましてや治せるようになんて見えない。医者というよりもその弟子、いやそれどころかお手伝いさんが良いところだろう。

 そこまで考えて分かった。

 どう見てもお上りの田舎者が懇意にしている店の店主を困らせているから少しからかってやろうと、そういうことだろう。

 そう考えると怒りが沸いてこないわけではなかったが、けれど今はそんな場合じゃない。


「ありがとう、ここ最近で一番の冗談だったよ」


 自分でも分かるくらいには険のある口振りになってしまったが、まぁそれくらいは許してほしい。内容自体は問題はなかったはずだ。

 

「そうですか、残念です。それならせめてこれを」


 そう言って少女は店の物を何種か見繕い店主に金を渡すとこちらに差し出してきた。


「疲れに効くものです。それらとどこかでパンと暖かいスープを取ってから一度ゆっくり休んでください。頭もすっきりするでしょうし、何かいい考えが思い浮かぶかもしれません」


 恩着せがましいことをしやがって。

 少女の善意に心の中で悪態を吐く。

 そしてすぐにそれを恥じた。

 渡されたこの手の中にある葉や実が本当に効果のあるものか分からない。

 じゃあそれがよぼよぼのいかにも医者のような老人に渡されたものだったら?自分は疑うこともせずにそれを信じ込んだだろうか。

 きっところっと信じるだろう、今の状況と条件は見た目の違いくらいしかないというのに。

 そう思ってしまうくらいには今の自分には余裕がない。

 手の中の葉と実をもう一度見つめた。

 いくら見たところで判断がつかないと分かる。そしてたった一つだけ自分でも判断できる方法があることも考え付いた。


「ありがとう、有難くいただくよ」

 

 それらをすべて口の中へと放り込む。

 猛烈な苦味と酸味が襲ってきた。

 耐えきれず息を吸えば刺すような冷たさが喉を焼いた。

 かといって反射的に吐き出そうとする口を意思で抑え込んだ。

 悶え苦しみ、何とか飲み込める状態まで咀嚼し、それでもまだ喉に痞えそうなそれを無理矢理に飲み込む。

 呆れた表情で溜息を吐く店主が


「そりゃまとめて食うようなもんじゃないぜ、兄さん」


 待ってろ湯でも持ってきてやると、店主は奥に引っ込んでいった。

 正直なところ息を吸うだけでも喉に刺すような冷気と痛みが走る。


「ごほっ……ごふっ」

「あ、あの大丈夫ですか」


 気遣いを見せる店主に、心配そうにのぞき込む少女が二人。

 即興のペテンにしては各々の動きが自然に過ぎる、ように少なくとも見える。

 もう街中を回った。最後に辿り着いたのがこの薬屋だ。ここで彼女たちと出会ったのは運命なのかもしれない。

 この出会いに賭けるしか。


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