1話
なろうの方では初めての連続投稿です。よろしくお願いします。
「皆さん、入学おめでとう。ここは『学び舎』、新しい発見と便利な発明が君たちの元に訪れることを祈っております」
私、ローラ・ローズはこの春、憧れの学び舎に入学することができました。
今は入学式の最中で壇上では事務長の方が弁舌を講じている最中です。
この大きな講堂に集められたのは今回の新入生だけというので、てっきりこの学び舎に在学するすべての人が集まっていると思っていた私はすごく驚きました。
だって今ここに集まっている人たちだけで故郷の村の人たちよりも多いんですもの。
驚いたことはそれだけではありません。少し辺りを見回せば整列させられている男性の方と女性の方、…いえ性別は問題ではないんです私の村にもそりゃ男性も女性もいましたとも。
問題なのはその方たちの年齢です、村では学校と言えば同じ年頃の子を集めて村の中でも特に頭が良いといわれていた大人が教師となり教鞭を振るっていました。(小さな自慢として今のそれを任されているのは医師を本業とする私のお父さんなのです)
しかしここには御高齢方や私から見ても明らかに子供と言えるくらい小さな子まで色んな人が集まっています。年齢も関係なく学びを得ることのできる都会の寛容さには舌を巻くばかりです。
「ねえ、あなた」
学舎の中を案内されている最中、後ろから声を掛けられました。
案内されていると言っても私語厳禁などということはなく、他の人たちも各々に交友を深めています。
私も…、とは思いつつもどうにも生まれた場所も年齢も違う方々と話すというのは勝手がわからず困っていたところにです。
「同じくらいの年よね。気軽に声掛けられる人がいなくて」
声をかけてくれた女の子は綺麗な黒髪を腰まで伸ばしたの女の子で事あるごとに農作業へと駆り出される私とは似ても似つかぬほどハイカラなお嬢さんです。
ははぁ、これはちょっとまずいかもしれません。
「こちらこそ、田舎出の私が釣り合うかわかりませんがよろしくお願いします」
私なりに粗相のないように気を付けたつもりでしたが、やはり都会の礼儀とは違ったのでしょうか。
少女は面を食らったような顔をしましたがすぐに気を取り直したようで、
「いえ、そんなに気を遣われなくて大丈夫ですよ。出自がどうあれたとえ貴族様であってもこの学び舎に入学できた時点で私たちは平等ですから」
正直なところ受け答える身の私にとってはそうここ穏やかなことではありません。
いくら相手がそう言ってくれていても、この方が貴族であれば……いえ、この喋りようだとお貴族様確定ですね、はい。
幸い、貴族とは怖いものだと私はきちんと教えられているのです。
私の身分が最下層に等しいことなのは村を出るときに両親や村長が教えてくれました。
なにか彼女の気に障ることをしでかせば、少なくとも親の折檻よりも恐ろしいことが起こるのは間違いないでしょう。
さてどうしようかと悩んだその時でした。まさに私には神様の御助力とも思える助けが入ったのです。
「……えぇそうですね、確かにあっし達は平等ですなぁ。しかしあっしの目から測りますにどうにもこちらのお嬢の方が有益に見えますがね、半ちくのお嬢さん」
丸メガネをかけたウェーブがかった茶色い髪の女の子が割って入ってくれたのです。
彼女はまるで旧知の友のような気安さで私に話しかけてくれました。
「そんな縮こまらなくって大丈夫、この『学び舎』の中は身分の高い低いは意味がないでやすし。ここで意味があるのは頭の良さと金だけです。あっしは商人、そこは金を積んでここに入学しました」
あけすけにそう言い放つ彼女に私は目を丸くするばかりです。
少なくとも私はここの入学試験として筆記試験を受け、レポートを提出しています。
仕方ないことではありますが村の勉強だけではこの都会の筆記試験というものには太刀打ちできず、読める文字であるにも関わらずに問われていることが何なのか理解することすらできませんでした。
その代わり何の題材でもいいというレポートには誠心誠意頑張らさせていただきました、題材は村で医者として働くお父さんの手伝いをしつつ学んだ病魔から人を守る方法です。
私の誇りともいえる技術です。入学を認められた時、それを認められたのだと私はとても喜ばしい気持ちになったのをよく覚えています。
だからこそ、
「おやま、金なんかで不正に入学しやがってなんて思ってます?いやいやところがどっこい、金っていうのは便利なもので大概の物の代替になってくれるんでやすねこれが」
「お金が大事なのは分かりますけど、誇りや尊厳には替えられないと思います」
「アハハ、こりゃ手厳しい。今の言葉どう思います、平等を謳う半ちくさん」
「まずその半ちくというのをやめてくださいまし。とういうかなんなんですのその半ちくとは」
商人を名乗る子は自身の頭の横でくるくると指を回してみせます。
明らかに馬鹿にしている態度です。
これが村の男同士であれば取っ組み合いの喧嘩になってもおかしくありません。というよりはそこまで行くとならない方が不自然でしょう。
恐る恐る黒髪の君の様子を伺うと顔を真っ赤に激昂しているなんてことはなく、どこかあきれたような様子で溜息を一つ吐きました。
「もちろんお金は大事ですよ、領地領民を治める立場になればお金はある意味で人の命そのものですし」
「それはそれはさすがよく分かっていらっしゃる」
「あまりそう他人の領分に踏み入って測るのはどうかと存じます。正義の海賊アユ・マユリア様」
「おやさ、あっしを知っているんで?アレクシス・ブレア・キャンベル様」
「むしろ私の名前を存じて頂けていることに光栄ですわ」
私の頭の上で何やら会話が続いています。
どうやら眼鏡のアユさんを貴族であるアレクシス様が嗜めたというのは会話から分かりましたが、二人の様子を鑑みるに顔はただただ笑顔で本心を鑑みることができないのが恐怖でしかありません。
アユ様が自身の額を拳で叩き叩き、
「そりゃあもちろん、御国の権威で守られないあっしらでやすもんで。使える情報はいくらでも記憶してやす」
「だからって落ち目の子爵の三女の名前まで覚えますか」
「それは違う。今年この学び舎に入学予定であり子爵の親持つ三女です、それも奇しくもあっしと同年代であるという。覚えるなという方が間抜けでは」
そもそもあっしらの年齢ですらまだ若いというのに今年はまだ若いのがいると続けるアユ様に、私は舌を巻くばかりです。
えぇ、それはもう眼鏡の君はこの場の会話を支配しておいででした。
アレクシス様も半ば自虐的に自ら言い放った、落ち目という言葉すらもアユ様は肯定せずに否定せしめたのです。
私は一層、都会の詐欺師というものは怖いものだと肝に銘じるのでした。
「もちろんあっしは先の言葉を否定する気もありません。あっしがする時であれば真に商談すべき相手はあなたの父君であらせられますし、ことこの学び舎においてであればこちらのお嬢さんの方が期待値が高いように見受けられやす」
明らかな挑発の言葉です。
しかしその言葉を受けてアレクシス様は少し面を食らったようですが、直ぐに何か人を試すような表情でこう語りました。
「あら、私が一言頼めば貴方のような一商人いかようにでもできましてよ」
関係のない私ですら縮みそうなその声に、受けた当の本人はけらけらと笑うのです。
「ほっほう、その顔を鑑みるにあっしを試そうとしているでやんすな。いいでしょういいでしょう、あっしはそんな言葉では縛られなどされやせん。言ったでしょう、ほんに商談するであればあなたの御父上だと、もしそれがたかだが娘の泣き言にその判断を覆すようならあっしらが商談を打ち切らせて頂きやす。あっしらとてそのような愚物に割く時間などありやしやせん」
我が意を得たりとばかりにアユ様は話し続けます。
先ほどまでのアレクシス様の言葉に気分を害したなど微塵もなく、むしろ語り口が欲しかったと言わんばかりにです。
「なにより仮にお主様のところと商談が潰えたところで、困るのはあっしらではなく貴方たちです」
「………」
「そうでやんすねぇ。それを理解できているのならいいでやんす。あっしの夢は国すら無視することのできない大商人、まだまだ夢半ばでやんすがそれでもある程度は、ね」
私にはアユ様が何を言っているのか分かりません。
貴族という方々はその生まれだけで偉く、私たちなど嗤って殺したところで罪にもならない特別な存在です。
それを怖れることもなく弁舌で負かしてしまうアユ様は貴族よりも偉い生まれの方なのでしょうか。
「あのアユ様は御貴族様よりも偉い生まれの方なのですか」
彼女は目を点にしたかと思えば、堰を切ったように笑いだしました。
えぇ、それはもうお腹を抱えての大笑いです。
案内してくれている方も周りの他の新入生の注目を集めるのも気に留めずに、
「ん、ああ失敬失敬。皆の衆どうか気にせずに続けてつかぁさい。なんでもないですよってに」
周りの方々の反応は様々でした。
さも気にした風でもない方、変な人を見たような顔をする方、彼女の顔を見てさっと顔を背ける方。
未だこらえきれない笑いをこぼしながら彼女は、
「くっく…、いえいえあっしはしがない海賊の出でやんすよ。ただ色々と幸運が重なった、それだけでやんす」
「まさか、あなたの才覚のおかげでしょう」
「おや意外なところから御助力がでましたなぁ。それならばお返しに……」
アユ様がなにやらアレクシス様に耳打ちをしました。
隣にいる私にも聞こえなかったので、他の誰もその内容を知ることはないでしょう。
しかし、
「えぇ!学費の免除!?この子が!」
「あぁあぁ、せっかくの情報の価値が台無しですよ、半ちくのお嬢さん」
アレクシス様の御声で何を話されていたのか知らされてしまいました。
「情報源、情報源は?それ次第ではとても信用など出来ません」
「そこは守秘義務を貫かせていただきやす。けれどもあっしが貴方様の親戚に報いての恩返しであったという価値は保証いたしますとも、我が商会の信用にかけてね」
アユ様の言葉に唖然とするばかりだった周りの同窓の方々もにわかに騒ぎ始められました。
「そんなの今までいなかったじゃろう?」「いや学長様方々なら」「それはもう『学び舎』運営側だろ」「そうだ、比べるにはあまりにも立場が違う」
確かに私の元にそんな待遇の通知が届いたことで村中を巻き込む大騒ぎなったのは記憶に新しいところですが、まさかこの『学び舎』の中においても珍しいことだとは露とも思っていません。
騒ぎの中心である私も、発端であるアレクシス様も、もとはと言えばのアユ様も、この騒ぎを止める術は持ち合わせていませんでした。
どうすればいいのかと途方に暮れ始めたその時、パンっパンっと聞きなれない何か剣呑ならざる音が響いたのです。
「あいよぉ、今のはただの爆竹だぁ。みんなまずは静まってくれよぅ。……じゃないと次は一人くらい殺す覚悟のいるもん使わざるおえんよぅ」