第7話 バトルはバトルでもカードバトル
「どうも……」
「これはご丁寧にどうも!! よろしくね!!」
見るからにムキムキな体に鎧を纏った男。言葉遣いも暑苦しく、言葉を文字にしたら、絶対に言葉の語尾に「!!」が付いていそうな位暑苦しい男だ。
見るからに怪しげなムキムキ男だが、怪しげな男だとしても、礼儀を忘れてはならない。これはテストなのだ。もしかしたらここら辺の礼儀も評価に入るかもしれない。
面接のドアを開けるときの作法のようなものだ。今このタイミングも評価点に入っている可能性がある。
(合格するためならなんだってやってやる……!!)
「お!? それが君のデッキかい!?」
「あ、はい」
ムキムキ男は俺の手に握られたデッキを見た後……
「さあやろうか! 君も早く準備してくれ!!」
「あ……はい!」
(あ……もしかしてこの人が面接官?)
そう思った時、ムキムキ男は何か準備をしに、後ろの方に行ってしまった。
(行っちゃった……)
「レンタ・イトウ様」
「うぇっ……!? な、なんですか……?」
(びっくりした……!!)
急に後ろから受付嬢さんに声をかけられ、変な声が出てしまった。後ろから声をかけるのはやめて欲しい。
(恥ずい……)
「レンタ・イトウ様。これをどうぞ」
「……? これは……」
そうやって渡されたのは、長方形の黒い箱。その箱は、デッキケースのような形をしていた。
「この箱の上にデッキを置いてください」
なぜこんなことをしなければならないのかわからないが、とにかくここは指示に従ったほうがよさそうだ。
そう考えた俺は、受付嬢さんの言葉を返さず、コクリと頷き、デッキを黒い箱の上に置く。
(うおっ……!!)
デッキを置いた瞬間、黒い箱から謎の光が発生し、デッキが黒い箱の中に消えていく。
前の村ではありえない現象。しかし、どこか見覚えのある光景。実際に目の前で見たわけではない。なのに、憧れの視線を向けながら見ていたような覚えがある。
(ま……魔法だ……!! 魔法だ! 間違いなく!!)
科学的に信じられない現象。発生する謎の光。何もかもが物語の絵本越しに見ていた夢の力。それが目の前で発生したのだ。
それはもう心の中で大興奮。なぜ光が発生するのかわからないが、かっこいいのでよし。
「では、バトルコアを持って待機してください。対戦相手の準備が完了次第、すぐに開始いたします」
「はい……は、え?」
受付嬢さんはそう答えると、足早に俺の元から去ってしまう。
この黒い箱の名前はバトルコアと言うらしい。どうやらデッキケースのようなもののようだ。
(これバトルコアって言うのか……)
「よし! 待たせたね! 準備完了!! 早速やろうか!!」
受付嬢さんが離れて少しすると、まるで受付嬢さんと入れ替わったかのように、ムキムキ男が近づいてくる。
だが、俺はムキムキ男が近づいてくるよりも、先ほど受付嬢さんが発した発言が気になっていた。
(対戦相手……)
わかっていたことだが、いざこれから目の前の人物と対戦することになると思うと、ゾーン状態になって静まっていた心臓がどくどくと音を立てる。今すぐに逃げ出したくなってしまう。
(何言ってるんだ……ここまで来たんじゃないか!!)
そう思っているうちに、受付嬢さんもこちらに戻ってくる。
「ではお二人とも、準備はできましたか?」
「もちろん!」
「……はい」
ここまできたらもう逃げ出せない。目の前のものに立ち向かうだけだ。
俺とムキムキ男の返事を聞くと、受付嬢さんは右手を上に上げ、高らかに宣言する。
「これより、レンタ・イトウ様とシトラス・グレイズ様とのカードバトルを行います!!」
俺の夢への第一歩が、ついに始まった。
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