第12話 どこに行ってもバイトは必要
「レンタくーん、そこの皿下げといてー!」
「はーい!」
「それ終わったら3番テーブルのお客さんにお料理運んどいて! 頼んだよ!!」
店長に命令され、バイトである俺はそれに従い、3番テーブルのお客さんに料理を運ぶため歩き出す。
俺は今、そこら辺にある普通の料理屋で働いていた。
(あ〜忙しい忙しい!!)
普通の料理屋といっても、異世界の料理屋は普通ではない。
木でできた室内と壁に立てかけてある松明が心躍る雰囲気を演出し、天井には、所々にフックのようなもので生肉がぶら下がっている。元いた村ではこんなものなかった。正直テンション上がる。
(えーと、次はこの料理を3番テーブルのお客さんに……)
なぜ大都市ティーンに来てまで料理屋のバイトをしているのか。
あの後、見事に試験に落ちた俺は、新聞やビラで良さそうなバイトを探した結果、まかないも出て給料も悪くないこの料理屋を見つけ、バイトをしていると言うわけだ。
(まぁしょうがないよな……結局世界はお金だし)
お金がなければカードも買えない。お金がなければご飯が食えない。人間の運命、世界の秩序、身勝手な人間が勝手に作った許せないルールだ。
しかし、そんなことを思っていても何かが変わるわけでもないのが世界。願っていても、俺の手の上にある料理がいきなりカードになるわけでもない。俺の作業用の服が防具になるわけでもない。
……結局俺はティーンに来ても、村と変わらぬ生活をすることになるのか。
「お待たせしました。こちらが鳥の包み焼きです」
そんなことを考えながら、淡々と仕事をこなす。
しかし、頭を回している間にも、目に入るその姿が、いやに俺の脳から離れない。
(みーんな持ってんな……カード……)
このバイトを始めてから、お客さんがカードを片手に入店しているのをよく見る。もちろん全員と言うわけではない。
特に、防具を着こなした冒険者らしき人物ほど、カードの束を片手に入店してくる確率が高い。中にはカードパックを開封しないまま入店し、大事そうにパック開封を楽しむお客さんもいた。
「……まぁ、そりゃそうか」
カードの力を引き出すこと自体だけ言えば、冒険者以外は禁止されているものの、カードを持つこと自体は一般人でも可能だ。
「……あーあ」
試験で味わったあの感覚、あの感覚が妙に体から離れない。あのヒリヒリ感、あの迫力、近くで見れば見るほど、形容し難い魅力がある。
みんなあの感覚がやみつきになり、冒険者稼業にのめり込むのだろう。
「レンタくーん! 次は4番テーブルのお客さんによろしくー!!」
「……はっ! はーい!!」
(いかんいかん。今はバイト中だ……考えるのはバイトが終わってからだ)
俺はささっと頭を切り替え、バイトに励んでいった……
――――
「お疲れー」
「お疲れっす」
バイトを終えた俺は、バイト先の料理屋から離れ、必要な出費と割り切って買った大きめのリュックサックを背負い、帰り道をてくてくと歩いていた。
(帰り道つっても、帰るところはないんだけどね……)
「残りは…… 5000ジェム位か」
ティーンに来る前に所持していたお金は、食費や洗濯、衣服、体を清めるための風呂内で少しずつ消えていき、今や5000ジェムほどになっていた。
俺の計算ではギリギリ給料日まで持つ量ではあるが、ひもじい思いをしなければならないのは確かだった。
(今日は公園のベンチで寝るか……)
公園のベンチなどの硬い場所で寝ていたおかげで、体はかなりバキバキだ。これはどうにもならないので、若さでカバーするしかないだろう。
まさかこんなホームレスみたいな生活になるとは思ってもみなかった。
(……わからないなぁ、人生って)