第11話 カードバトルで一度は夢見た行為
「んああ……」
……見たことない天井だ。
そんな1度は言ってみたいセリフを頭の中で想い浮かべつつも、俺はそんな未だにふわふわする頭を無理やり起こし、体を起き上がらせる。
木で作られた古そうな部屋。前いた村でもありそうな質素な部屋だ。
しかし、窓の外が村の景色とはかけ離れていて、ここは我が故郷ではないと言う事がわかった。
(ベッド……?)
どうやら俺はベッドの中で眠っていたらしい。
部屋の中を見渡すと、タンスや妙におしゃれなランプや装飾ゼロのタンスなど、申し訳程度の装飾が施されていた。
(そうか……あの時……)
俺はムキムキ男のアッパーをアゴにもろにもらい、気絶してしまったのだ。
(いや……ありなのか? プレイヤーからプレイヤーへのダイレクトアタックって……)
モンスターからプレイヤーへのダイレクトアタックならまだ見たことがある。田舎の村のテレビに映るレベルの戦いでは、プレイヤーの動きも綺麗で、かすったりするぐらいしかプレイヤーに対するダメージはなかった。
(モンスターからプレイヤーへの攻撃がありなのは知っていたけど……プレイヤーからプレイヤーへもいいんだな……)
そう考えつつ、周りを今一度ぐるりと見渡すと……
「……ん? なんだこれ?」
タンスの上に、何やら1枚の紙切れが置いてあった。
それを手に持ち、紙を確認すると、何やら文章が書かれてあった。
『このたび、レンタ・イトウ様はバトルに敗北したため、今回のところは不合格とさせていただきます。1度テストを受けた方は、1ヵ月期間を空けてからの再テストとなりますので、テストを受ける場合は、1ヵ月待ってからお越し下さい』
「……落ちたか」
当然と言えば当然の結末。何か逆転の目があったわけでもなかった。何か強力なカードが手札にあったわけでもなかった。初めての対戦相手にドローすらもさせてもらえず負けたのだ。俺がもし運営側の立場でも、間違いなく落としている。
冒険者登録など、させてもらえるわけがなかった。
(……これからどうしようかな)
俺が起きてから、誰もこの部屋に入らず、紙だけがこの部屋に置いてあるここから考えると、いつでも好きに帰っていいと言うことだろう。
冒険者会場で稼ぐ事は1ヵ月待たないと不可能になった。
個人的には冒険者としてどうしても稼ぎたかったのだが、落ちてしまったものはしょうがない。現実とは非情なのだ。
落ちてしまったものはしょうがない。しょうがないのだが……
(きっっついなぁ……)
落ちた。落ちたと言う事実は変わらないが、落ちたと言う精神的ダメージはかなり大きい。冒険者試験を受ける前に、もしものときの覚悟はしてきたつもりだが、それでも、胸のあたりにズーンと響くものがある。
しかもあの試験、あの感じ、次も合格できるとは考えづらい。
「……けど」
あのテストを受けて、収穫がなかったわけではない。
その収穫とは、モンスターを召喚した時の魔力の消費量だ。
オークを召喚したあの時、体から確かに何かが抜ける感覚がして、肉体的な疲労を感じたが、倒れてしまうほどと言うわけではない。俺の中に存在する魔力は、少ないわけではなさそうだ。
何より、俺にも魔力が存在するんだと、何だか少し嬉しかった。
(俺に魔力が……)
しかし、肝心の試験には落ちてしまった。これではせっかく魔力があることがわかっても、それを生かせる場所がない。
「…………」
とにかく、お金を稼ぐ手段として、冒険者稼業がなくなった以上、何かしら他の稼ぐ手段を探すしかない。
(バイトかなぁ……)
ティーンは大都市、バイトなら山ほどあるだろう。しばらくはそれで生計を立てるしかなさそうだ。
(ティーンにまで来て……バイトかぁ……)
「冒険者……なりたかったな……)
――――
一方その頃……
「意外とあっけなかったですね」
「動きが全くなかったからね! これが試験でなければ死んでいた! 訓練を受けていない一般人だったんだろう!!」
受付嬢とムキムキ男は廊下を歩きながら、楽しげに談笑しているようだった。
「あの後、デッキも少し見てみましたが……正直、あまり良い出来とは言えませんでした。魔法カードの量が嫌に多かったですし……」
「しょうがないよ! セオリーを全く知らないようだったからね!!」
そうやって話していくうちに、談笑も1段落したらしく、受付嬢は顔をキリッと整え、仕事モードに入った。
「仕事モードの顔も綺麗だね!!」
「……おだてないでください。次のテストも控えていますし、準備しておいてくださいよ」
「うんうん! わかってるよ!!」
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