第9話 いや夢だったけども
「……え?」
あのムキムキ男が使った魔法カード【落石】。
まるでそれが本物になったかのように、ついさっきまで俺の立っていた場所に大きめの石が降ってきた。
(ま、まじか……)
「どうした!! ぼーっとしていては僕には勝てないぞ!! 次はこれだ。オーク召喚!!」
ムキムキ男はモンスターの名前を叫び、カードを俺に見せつけるように出すと、そのカードは淡い光を放って消え、叫んだ名前のモンスターが現れる。
「グオオオオオオオオオ!!!!」
「……ッ!」
現れたのはオーク。おとぎ話では、中盤に現れる雑魚ではないが強くもない。ゴブリンやコボルトよりは強いタイプの敵だ。
オークなら俺も何度も見てきた。テレビ越しに冒険者が使役している様子を何度も見てきた。見慣れた顔……だが。
(こ、怖い……)
実際に目の前にすると、その威圧感、その大きさに足がすくんでしまう。
さっきもそうだ。カードの力が実体化するのはわかっていた。【落石】と言う言葉から、石が降ってくるのだとなんとなく理解することができた。
しかし、いざそれをリアルに見ると、テレビ越しに見るのとは迫力が違う。
(け、けど……これはただのバトルじゃない……!! "カードバトル"なんだ……!!)
そう。今俺が行っているバトルは、ただただお互いの力をぶつけ合うバトルではない。知力と戦略を尽くし戦うカードバトルなのだ。
これは……カードバトル。
(そうだ……そして、カードバトルには明確なルールが存在する!!)
それは負けの概念だ。
普通に自分の体を利用して戦う勝負なら、勝負を止める者がいない場合、どちらかが死なない限り勝負が終わる事は無い。
しかし、カードゲームは違う。明確に『〇〇されたら負け』と、ルールが存在している。
そして、この冒険者同士のカードゲームも例に漏れず、負けのルールが存在した。
『自分のライフがなくなったら負け』
存在するのだ。ライフと言う概念が、負けのルールが。
ライフがなくなったら俺の負け。ライフを奪い合うゲーム。
つまり俺が狙われるわけではなく、ライフが狙われる。俺の命は、絶対のルールで守られているのだ。
正直、もし命の取り合いをすると言われたら、目の前にオークが近づいてきただけで恐怖感により、震え、失禁の2連コンボを決め、瞬く間に気絶していたことだろう。
(命が狙われていない安心感……それだけでここまで違うとは……)
それだけでだいぶ緩和される。この勝負なら安心。ルールに縛られた勝負であるから、何とか立っていられる。
(というかこれ……相手のカードのテキストは読めないのかよ!! なんだそれ!?)
カードバトルの不満点を述べつつ、俺はきっちり頭を切り替え、冷静に思考する。
カードバトルなら、相手にできて自分にできない事はない。こちらもすかさずカードを1枚引き抜き、カード名を言いながらムキムキ男に見せつける。
「こっちもオークを召喚! そして棍棒を召喚!」
こちら側にもオークが現れ、棍棒が出現。オークはそれを手に持ち、ぶんぶんと振り回す。
「グアアアアアア!!」
オークは棍棒を振り回した後、大きな咆哮をあげる。どうやら気にいったようだ。
ちなみに棍棒のカードテキストはこれだ。
【棍棒】
【能力】
ただの木の棒。
……意味がわからん。しっかりと『装備できる』と書いて欲しい。
「グオオ!!」
「グアア!!」
2匹のオークがお互いに咆哮を上げ、ドスドスと足音を立てながら距離を詰める。
片方は素手で、片方は棍棒を持ちながら……
激突した。