きんいろ
― 澄み切った空気に浮かんで見えるのは、きれいな星空であった。
夜の田舎の町はとても清々しく、気持ちは幾分晴れるわけでも曇るわけでもなく、平常心を保つことができる。
一人歩いていると、前方からきんいろの雲がこちら側に近づいてくるのが見えた。
そして私は呆気なくその金色の雲に魅了されたかのようにその場に立ち止まっていた。
きんいろの雲が私の目の前に浮かんでいる。
「普通、目の前にきんいろの奇妙な雲が現れたなら、驚いて逃げるだろうに。きみはなぜ驚かないんだい?」
と、きんいろの雲がこんなことを言った。
「きんいろの雲が目の前に現れたからといって、それが奇妙かどうかなんてわからないだろう。」
と、私は呟くように言い返していた。
きんいろの雲は言った。
「僕がなぜ君のもとへ来たのか。わかるかい?」
そんなこと急に言われても、わかるはずないじゃないか。
私はわからない、と答えた。
すると、きんいろの雲は続けて言った。
「君は僕と同じさ。」
「どういうこと?」
「同じ物質として、同じということだよ。」
私はその応えにどう反応すればよいかわからなかった。
そしてこう返した。
「それはつまり、水からできてるとか、塊としてできてるとか、そういうこと?」
「大体はそういう事だ。水や塊というものはパズルを組みたてて出来た完成品みたいなもので、集合体そのもののように見える。君たち人間は僕と同じ。けれどもうひとつ同じところがある。」
きんいろの雲は饒舌に話を進める。
「僕はきみと異なるということ。」
私は一瞬意味がわからなかった。
が、私の心の内でひとつの答えを導いた。
それは個人というまとめられた単位として区別されるということだ。
つまり集団であれば集団として同じとまとめられるかもしれないが、ある基準として捉えれば個人は個人であるということだ。
ヤツの言ってることの意味は解釈しがたいものだったが、私はそう捉えた。
「君面白いね。」
そう言ってやったが、彼からの返事はなくただフワフワと死んだように浮いているだけであった。
私はそろそろこの景色にも飽きてきたので、その輝く雲にさよならも言わずにこの世を飛び出した。
― 目を覚ましたのは混沌とした場所だった。
真っ暗で何も見えない。
思わず私は身震いした。
少しも動けない私の身体は、もう自由を必要としていないように思えた。
そう思うと、暗黒だった空間にひとつの窓が生成され、うっすらと暗闇が差し込んできた。
「きんいろの雲…」
と私は呟いていた。
今にも私を迎えに来てくれるのではないかと思って、私は期待していた。
そうすると窓の下方からグラグラと揺れた金色の光がやってきた。
私はそれを手に入れようと窓にむけて水平に動きはじめ、不安定なまま転がり落ちた。
そこにはきんいろの雲がいた。
少なからず私はそう思った。
私はそうに違いないと断定すると、また私はその雲に魅了されて嵌ってしまった。
だが、前とは何かが違う。
いや、外見は何も変わってはいないのだけれど、どこか雰囲気が違ったのだ。
私は蛇に睨まれた蛙のように凍結した。
「君はどうして自分以外のほかのものを求めるのだい?僕が君のそばにきたからって、ましては君が僕のそばに寄ってきたからって、君の望みに答えることはできない。たとえ僕のきんいろが希望に満ちたように君の目に映ったとしても。」
そうして私の希望は絶望へと変異したのだった。
― 瞬間、私は天の星となった。