秘境 マヤゴーア砂漠
『パパ』
『砂』
………………
…………
……
『砂漠だからな』
『暑いよぉ…』
さて、俺達(男+スライム+スライム)は、【マヤゴーア砂漠】の中心地、【ナミト】の前に立っている。
【ナミト】とは、日本でいう鳴門海峡の渦潮の砂漠バージョンっていうと分かりやすいかな。
『何で、回ってるの~』
安里、分かりやすくバテてるな。
目の前では砂の渦が、ランダムに移動していた。足が捕まると、引きずり込まれて生き埋めになってしまうだろう。てか、なる。なった。
『風の魔力が暴走してる』
『うん。そうだな』
娘のスィがターバンの端を摘まんで、安里の質問の答えを言う。
ここは魔力磁場ずれを起こしている危険な場所、世界7秘境の1つだ。
他にも、超固いアダマンタイトが剣山のように生えてくる鍾乳洞や、巨大な雹が全方位から弾丸のように迫る雪山がある。
どれも、各属性の魔力が暴走した結果で出来た秘境だ。
ちなみに、7秘境の内で俺が唯一、もう一度訪れたい場所がある。
光の魔力の暴走で生まれた【大世界樹の龍樹海】っていう、エルフの里だ。あそこは、大変良い。
女は美人・美少女だし、男も女かってくらい可愛『パパ?』…おっと、回想が長かったかな。
『ここからは、風の魔力が安定していないから強風が吹き荒れているぞ』
『酸素も薄いし、風化の影響を受けて砂もさらに細かくなるからなぁ~』
前回来た時は、この環境に慣れるのに1ヶ月、今から目指す遺跡を攻略するのに半年かかっちまったよ…。
『コーくん、目が死んでない?』
『パパ、どうしたの?』
泣かないだけマシだろう?
あれ、マジできつかったから。
初めて本気で【勇者】を頑張り始めて、挫折したし。
…いや、1ヶ月頑張りましたよ?
でも、遺跡に着いたら、アンデッドが通路に詰まるほどいるわ、多種多様な罠で人間を殺しにくるわ、地下迷宮は1時間ごとに造り変わるわ。
マジ最悪。心、挫けるわ!
『トラウマなんだ、ここ』
『『【トラウマ】って何ですか?』』
『……トラウマっていうのはなぁー…っておい、安里。お前は分かるだろうが。『てへへ☆』…たく』
『スィ、トラウマってのは……嫌な気持ちになる記憶かな』
……言ってて、
そんなん、たくさんあるわっ!って思った。悲しい人生だったな。
『パパは、ここに来たことある…?』
やっべ、この世界2周目なの言ってないんだっけ?
スィはどこかの国の工作員 兼 暗殺者として動いていた。
スィから聞くには、その国は【勇者】の情報を詳しく調べていたらしい。しかも、俺だけじゃなく、俺の前の世代の勇者かららしい。謎だな。
スィには最低限の知識として、今代の勇者、つまり俺の情報を知らされていた。
そんな俺が召喚されたばかりなのに、王都から離れたこの砂漠に来たことあるように話してるのが不思議なのだろう。
『パパがこの世界に来たのは、2度目なんだ』
『?、2度目なの?』
まだ理解するのは、難しい…かな?
『内緒な?
良い子だから秘密は守れるよな?』
『分かったぁ!スィ、良い子!』
『パパとスィの秘密!』
うん可愛い。
『ママも入れて~♪』
『安里、暑い』
ズザァァァ……
余談だが、
スィは安里のことをママだと思ってはいない。精々、仲の良い親戚のお姉さんだろう。
安里が抱きつこうとするが、スィがスライム形態に戻って、安里の抱きつきを避ける。勢いのまま、安里が砂漠にヘッドスライディングしてしまう。
ーーーここ数日でだいぶん、安里の扱いが分かってきたな。
『スィちゃん!?冷たい!?』
上手い。
うつ伏せになった安里に向かってスィが水を放射する。
勢いに遠慮が無いのは、仲良くなっている証拠かな。
ブラックは、ほっこりした。
『でも、気持ちいぃ…』
『安里、溶けてる。『よし、スィはこの壺の中に入っててくれるか?』うん』
水をかけられて気持ち良くなった安里がスライムになる。すると、この猛暑によって直ぐに湯気だち始めた。蒸発するまであと何秒かな。
ーーーこいつは置いて、さっさと遺跡に行く。
『ま、まっ…て…ぇ~…』
…ガチで、ヤバくなっていた。
しょうがないっとブラックは、安里の元まで戻り、前でしゃがむ。
『安里は、この中な』
俺はマントの裏に隠した、ベルトに引っ掻けている小さな壺を指差す。
『監禁趣味っ!?』
『置いてくか』
『ああ!入ります!入らせてください!!』
安里が流動的なフォルムになって、俺の足を伝って壺に入る。
普通に入れよ。
ーーーさて、蓋に簡易的な封印魔法をかけて出発だ!
………………
…………
……
砂の渦を、空歩(空を駆ける魔法)で無視して突っ走り!
吹き荒れる、触れたものを風化させる嵐を防御魔法を身体にかけて無理矢理、突破し!
砂漠の魔物を斬っては捨て、ついに遺跡に到着する。
前回の記録より、6日と20時間更新した!
『ゴゴゴッ』
スパッ、スパパパッ…
『開け、ゴマ!』
【開け、ごま】だっけ?ま、いいか。
砂に半分は埋まっているピラミッドの頂上(本当は地上に出てるのは先端だけ)から下に光魔法で穴を空けて、落ちるように…落ちて侵入する。そして、最深部の扉を守っているゴーレムを倒したブラックは、扉を足で蹴飛ばして開く!
本来なら、勇者の武器の1つである【勇者の剣】がある宝物庫まで穴を空けたかったが、最深部の壁は脆く、宝物庫にある自爆スイッチが誤作動を起こすと、全てが埋まってしまうため、慎重にならざる得なかった。
自爆スイッチが何故かあって、何故か起動して、連鎖的に遺跡が崩壊、生き埋め…になったからなぁ。
『入る時も、入り口まで周りの砂を掘り出さないといけなかったし、出る時も掘らないといけなかったし、最悪だったな』
俺が昔のことを思い出していると、肩がトントンと触られる。
『パパ、お水いりますか?』
『お、ありがーーーぶふぉっ!?』
触手が口の中に!?
ーーー油断した!
こんな魔物や罠なんて無かったの…に?
『ん、…スィ?』
透明な触手を辿っていくと、スィの壺にいく…。
『美味しい…?』
……美味しいと答えて良いのか?
水筒から、スィの身体を経由して、流れてくる液体(水)を飲む保護者の俺。犯罪臭がしなくもない。
『美味しく、ない?
スィの身体から出て『美味しい!うわぁ美味しいなぁ!スィのだから余計に!』そうなの…!』
俺はダメな大人だ……
触手からスィの顔が現れると、目いっぱいに涙を溜めた娘が……美味しいと言うしかないじゃないか!!
そうですよね!佐伯先生(音楽教師)!!
なんだか、安里がいないとスィさんがいつも以上に甘えてくるなぁ。恥ずかしいのかな?
『スィは、安里のことどう思ってる?』
『う…ん、分からない…』
『そっか』
『でも恩人。首輪が無くなったのは安里のおかげ!』
『そっか。
なら、安里に似合うお宝でも探すか!』
『お宝…!うん♪』
はい、良い返事!100点!
俺は最深部へと続く通路を、娘と談話しながら呑気に歩く。
その先に新たな出会いと別れがあるとも知らずに。
ワタメガに力を入れているので、一旦、完結にさせていただきます。