娘の生まれかた
『もうちょい、西!』
『あそこ、あそこ!』
村を抜けて、俺達は村の周りに広がる森に入っていた。
対象のスライムは縦横無尽に逃げ回っているらしく、安里の案内がないと居場所が分からない。
ーーーあそこ……かっ!?
ブラックがそれを避けると、ブラックが足場にしていた枝が炎の弾丸によって、爆ぜる!!
『凄い火力だな』
さすがに、あれをまともにくらったら火傷してしまうな…。
『(避けられました…)』
『(…。
どうせ廃棄される身)』
『(最後まで抗います!)』
『あれか。
赤い……スライムだな』
暗い森には、真っ赤に輝く、少女の形をした物体が触手のように、自身の身体を伸ばしていた。
『チッ!炎が邪魔だな』
触手から炎の爆弾が、弾丸のように連続で俺を狙ってくる。
『舌打ちは似合わないよ~。コーくん』
このまま、突っ込むか?
『あ~無視するの~?コーくん?』
安里がスライムの身体から、1本だけ触手を伸ばして、俺の顔をペチペチと叩く。
ーーーうぜぇ…。
あっ…
ブラックが安里に意識を向けた瞬間、安里の本体が入っている袋に炎の弾丸がかする。
袋からスライム(安里)が空中に放り出されて、地面に激突する!
『熱~い!もうっ!!!』
え、それだけ?
『私、怒った!!』
『あ、安里?』
安里が安里の形に……説明するのが、難しいな。
てか、服まで形作れよ!裸じゃねぇか!
『あ、コーくん。えっち♥』
『……。
女の裸に興味はねぇよ』
俺、童貞じゃないし…
『ちらちら見てるの分かるんだから♪』
『見てねぇーーー安里、炎が!!』
安里の顔や腹……胸に、弾丸が埋め込められ……埋め……あれ?吸収したな。
『大丈夫…か?安里』
『げっぷっ!
返すよ!赤スラちゃん!』
赤スラちゃん?
安里の身体から、赤いスライムと同じように触手が伸びて、触手の先が赤く輝く。
そして、炎の弾丸を放つ!
『なんじゃそりゃ…』
『(真似したもので、私、負けない!)』
炎の撃ち合いが始まるが、安里が若干……負けている。
『むぅぅぅ!』
安里がぷんぷん!っと怒りながら炎の弾丸を撃ちまくる!
ちなみに、安里の身体にぶつかった弾丸は吸収されて、無効化されている。
『(この人、なに!!)』
『隙あり』
『(ーーーな!?)』
俺は撃ち合いの間に背後に回っていた。
振り向いたスライム(赤いの)の腕を捕まえて、地面に倒す!
『あー!コーくん!
子供に暴力はダメだぞ!』
『……。
お前が言うか…』
『ハ…ナ…セ!!』
少女の身体から炎が吹き出て、俺ごと周辺一帯を飲み込むドームとなる。
『ナゼ?(なんで?)キ…カ…ナイ?(効かないの?)』
『魔力で身体をガードしてるからな』
まだ炎に包まれている中で、スライムと俺は話す。
『どうして、君みたいな女の子がこんなことを?』
近くで見ると分かった、この子に敵意はない。
『……首輪のせい』
『これのせいで、命令を聞かないと』
この子から伸びてきた触手が耳にくっついて、声が届く。
『今も監視されてる、かも』
『どうしたい?』
ーーー『私、死にたくない』ーーー
悲しい声が聞こえた。
『コーくん♪大丈夫?』
炎のドームに安里が飛び込んできた!
『安里、ちょうど良かった!
頼みたいことがある』
『良いよ~♪』
『ぷっ、まだ何も言ってねぇよ』
多分、いけるはず…はず!
『何を、するの?』
『安里、この子を吸収してくれ』
『『えっ!?』』
2人の声が揃った。
『俺を信じろ』
『『…』』
2人が無言で向かい合う。
そして、少女が首を動かして了承の意を示した。
『それじゃあ?ーーーいただきます?』
安里がスライムに戻って、少女を包み込むように食べると同時に炎のドームが消える。
スライムは同族に出会うと片方を吸収し、お互いの情報を合わさった、ひとつの個体になることがあるとあいつが言ってた……はず。
転生特典の【全知全能】なら、吸収した物…つまり、少女を縛る首輪を解析して、
ーーーなんか良い感じに解除できるはず!
ペッ!
『あ』
スライム(赤いの)を吸収して、ちょっと大きくなった安里の口?から首輪が飛んだ…。
俺は雷の魔法を指から放って、首輪を粉々にする。
ーーー魔法を使うと頭が痛くなるから、あまり使いたくないんだよ…。
『コーくん♪
スィちゃん、出すね♪』
えっ、【スィちゃん】?
ポトッ
安里の腹?から、赤い髪の少女が裸で出てきた。
『スィちゃん~、起ーきーて』
『う……ん…ん?』
目が覚めたスィちゃん(仮)が周りをキョロキョロと見る。
ーーー大丈夫そうだな。
『これを、着ろ』
俺はしゃがんで、自分の上着を着せる。
ぶかぶかだな…。
でも、良かった。何も起こらなくて。
『コーくんコーくん』
安里が俺の耳に向かって小声で話す。
『良かった良かった…ん?どうした、安里』
『私の中から出たんだから、私達の娘だよね♪』
ーーーはぁ!?
『はぁ!?』
『スィちゃ~~ん、私のことはママって呼んで♪』
安里は俺の言葉を待たずに、スィに近づく。
『マ…マ…………ママ?』
安里がスィに【ママ】と呼ばせようとしている。
『あの人が、パパね』
よし、無視だ。
とりあえず、俺を指差している安里の人差し指を曲げる!
『……スィ?
今までの記憶あるか?』
『はい、あります』
『なら、首輪が失くなったけど、これからどうする?』
『どうしましょう?』
いや、俺に聞かれても…。
『パ~パ♥
娘を置いていかないでしょ♪』
『パパじゃね『パ……パ?』ぐはぁ!?』
ーーーくそ可愛い!
『スィちゃん!もう1回!』
『パパ…あのね…スィ、一緒にパパと一緒にいたいの?』
急に甘えるなよぉ……
少し焼けた村やスィに命令した真犯人のことは、2人の頭から消えていた。
………………
…………
……
『7番が【従魔の首輪】を外して、勇者に連れていかれました』
リーダーに黒服の者から報告がされる。
『あぁ?
あんな火を吹くだけの奴に興味なんかねぇよ!』
リーダーの男が報告した部下の顔を殴る!
それだけで、部下の顔はグシャグシャに壊れ、首が曲がっていた。
『チッ、使えねぇ』
『連帯責任だ』
『お慈悲を!』『命だけは!』『何故!?』
『うるせぇ』
男は腰に差した剣を抜くと、剣の黒い輝きを走らせて、報告をした部下のグループの者たちを斬り捨てるのだった。