村を襲う炎
『私達は、どこに向かっているの~?コーくん♪』
安里は今まで、馬車の後ろに積積んであった樽の中に隠れていた。
街には1日だけ滞在して、翌日には来た時の反対側の北門から、ある場所へ出発している。
『村だよ』
この先には、村がある。
俺がこの世界で唯一の良い思い出と怒りを覚える場所だ。
『安里はどうやって部屋に戻れたんだ?』
埋めてやったのに。
『あー!忘れてたよね!?
いつまでも来ないから、自力で抜け出したんだよ!』
『地面に混ざりながら、外に出る感覚は初めてだった……』
スライムの身体に哀愁が漂う。
『ま、それはどうでもいいが。
目指している場所は…』
ーーーあそこは、
『俺の汚点だ』
『【汚点】ってなに?』
おまっ、【汚点】を何なのか知らないのか?
言った俺の方が恥ずかしくなるだろ!
『……ははは!』
そういえば、召喚前に安里が平成30年って言ってたから、中学一年生か…。
なら、安里が一番ポンコツな頃じゃねぇか!
『な、何で、笑うの~!』
ーーーありがとな。
ブラックは感謝を言葉には出さなかったが、微笑んで安里を見つめる。
『っ!?
もう!意味分かんない!』
安里、何で真っ赤になってるんだ?
………………
…………
……
ーーー2日後。
『着いたぞ、安里』
俺の膝の上には、プルプルとした物体がいる。
寝てる……のか?
安里は普段、無色透明な色に小さな黒い核がある状態だが、感情が強く出ると身体が色づく。
自分で色を任意で変えることもできるけど、突然の変化には対応することができないらしい。
で、今はピンクと黄色が混ざっているような色合いだ。
多分、寝てるな。
『こういう時は』
俺は握り拳に魔力を込めて、スライムボディを、殴る!
『ひゃい!?』
スライムにも、魔物と同様に核となる魔石がある。
物理攻撃にめっぽう強いスライムは、そのプルプルな身体で威力を殺しているが、魔力を込めた拳からの魔力の余波は核まで届いて揺らしたのだ。
人間だと、心臓に衝撃が通ったようなものなので、スライムの安里もびっくりして、トゲが幾つも生えてような形状になったのだった。
『ななな、何するのよ!』
ーーーだいたい……、俺が前回、馬車酔いでどれだけ吐いたと思ってるんだ!
プルプルな身体で衝撃を逃がしやがって!
『もうじき、【オーテン村】に着くぞ!』
約3キロぐらい、手前の場所に柵で囲まれた村がある。
『うん?何かのお祭りでもしているのかな?』
『収穫祭の時期じゃないが……分からん』
『本当にあそこが燃えちゃうの?』
『……あぁ、燃える。
跡形も無くな…』
あの村は、確かに燃えて無くなる。
俺が前回の旅で初めて訪れたこの村は、夜に巨大な魔物に襲われ、魔物から放たれた火が、集落の家々に回ったんだ。
あの時、俺に力があったなら…っと思う。
既に過ぎたことだと分かってはいるが、未だに俺は後悔している。
あの村の住民達は、この世界で初めて、力も無かった俺に親切にしてくれた。
他の人と違い、力にすがりついたり、好奇な目や怖がったりなども無かった。
俺が時間を戻されて召喚した時に1番に救いたかった場所が、このオーテン村。
正直……前回、他に被害を受けた村には興味は無い…。
この村だけは助けたい!!
ーーーだから、その厄災の前日に来たんだ。
………………
…………
……
『お久しぶりです。村長』
『?…勇者様、私どもは確かに初対面では?』
あ、そうだった。
つい、顔見知りぽく喋ってしまった…。
『そ、それより、この村の近くに【リーバ】が住んでいるという情報があります!』
『皆さんは、どうか、避難を!』
『……。
勇者様、あの【リーバ】など、この村の周辺にはいませんよ』
【リーバ】とは口から炎を吐き、炎の中を歩きながら環境を破壊する大型の赤黒い狼だ。
本来なら火山の火口付近で生活をし、土の中で冬眠する。
だが、実際に前回はこの村には火山が無いのに、村を襲っていた。
『今回のは、特異種かもしれません。
情報によると、この村の家々よりも遥かにデカイらしいです』
『勇者様、情報の元はどちらから?』
村長の老人が情報の信用性を疑う。
『…』
やばい、前回の記憶からです。
ーーーなんて言えない!
『え~と…』
『はい?』
どうしよう!……どうしよう?
『あ~、え~『火事だぁああ!?』』
火事?
『なんじゃと!?バカな!?』
村長が悲鳴が聞こえる場所を見る。
…まさか!?
『グオオオオ!!(想像より、早くに来た。勇者)』
『おかしい!こんな早くに!』
向こうの柵が壊されて、そこには夕暮れになりかけた赤い空をバックに、炎を吹く魔物【リーバ】が立っていた!
『グオ!!(村を焼かないと)』
【リーバ】のが放った火で家が燃え、その周りの家にも炎が勢い良く燃え移っていく!
『させるか!!』
ブラックが安物の剣を抜き、横に振った!
振った先から衝撃波が生まれ、炎を吹き飛ばす!
『グルゥ?(私の炎が飛ばされた?)』
『グル…オオオ!(なら、もう一回)』
【リーバ】の塞がった牙の間から炎が漏れる!
そして、口を開けた瞬間に大量の炎が一直線に、近くの家を目掛けて放たれた!
『…ガァ!?(なっ!?)』
ーーー狙われた家には、勇者が立っていた。
『安物じゃあ、振っただけで壊れてしまった…』
ブラックに、炎が迫る!
『なら、身体を使うまでだろ!!』
ーーーーー【覚醒】ーーーーー
勇者は【覚醒】をすることで、力の1割が解放される!
『オラァ!!』
右の拳を、迫ってきた炎に突き出す!
パンッ!
炎が内部に通る拳圧によって、散り散りになり、放たれた拳圧は炎を吐き出していた【リーバ】の顔さえも通り抜けていった!
『(そ、そんな)』
『(勇者がこんなに強いはずは、ない…のに)』
ん?どういうことだ?
頭を失ったのに、まだ倒れないぞ?
『コーくん』
『安里!?
まだ袋の中に隠れてろ!』
安里がスライムの姿で俺の肩に乗っている。
『コーくん!聞いて!』
安里が強く言葉を放つ。
ーーー『あの子、スライムだよ?』
…。
…?
ーーーえ?
『グ、ル、オ、オオオオオ!!(想定外だけど、計画、実行する!)』
『オオオ!(この村、燃やす!)』
【リーバ】の無くなった頭が、首の部分かは再生していく!
『なんで再生するんだ…』
『そりゃあ、スライムだからね』
『顔が失くなって生きてるなんて』
『スライムだしね』
『…』
『スライムだって、コーくん♪』
狼の形に擬態したスライムが炎を吐く?
スライムは、せいぜい…弱めの酸で体内に取り込んだ雑草を一日かけて消化するくらいだろう?
地球のナマケモノより、動かないので有名だろう?
……でも、安里もスライムなのに機敏だしな…。
『ーーーっと!
燃やさせはしないって言っただろ!!』
俺は魔力を込めた脚で【リーバ】もとい、スライムの胴体を蹴る!!
『グァ!?(なんて、力)』
スライムの身体は、蹴りの衝撃に耐えれずに擬態が解けて、バラバラに散る!
ーーー無い。
『安里、分かるか?』
『えっ?何が?』
ここまできて、それを聞くか?
『スライムの本体の場所だよ』
『それね♪
う~ん。スライム・センサー ON!』
【スライム・センサー】ってなんだよ……
『南!』
『しかも、アバウトだな』
やっと、【スラかの】が一息つく段階まで書けた~