ハーレムの予感…
《……。
…侵入者を捕捉。分裂を開始。
A~Zの分体は敵の駆除を始めなさい》
そこは、マヤゴーア砂漠の北方にある、石のブロックで出来た建物の跡。
ーーーの、地下深くにある遺跡の奥の、奥に隠された部屋。
砂の壁に描かれた壁画や石の彫像が左右対称的に置かれた空間の中央には、真っ白な球体が存在感を放っていた。
球体は、サファイアやルビーなどのあざやかな宝石が取り付けられた台座の上に置かれており、白に金色のラインが走った神秘的なデザインを模していた。
ーーーだが、その神秘さとは真逆に、球体から分裂した26個の小さな球体たちは、遺跡から、この隠し部屋を悪意を持って目指している者たちに無慈悲の閃光を放ったのだった。
数時間後には、遺跡から戦闘音や悲鳴が消え、遺跡のあちこちに、頭や胸などに穴の空いた死体が残っていた……
………………
…………
……
『リーダー。
対象に向かった部隊が今、全滅しました』
『別動隊を増援として、派遣しますか』
黒のローブを纏った者たちの一番前に陣取っていた男の影から声が聞こえた。
すると、周りで話していた者たちが静かになる。
ーーーこの男の機嫌を損ねると殺されるのは間違いない。
この場にいる者は、機嫌を損ねる行為をせずに生き残ったメンバーだった。
『はぁ?
あんな下っぱ共にかける人員なんか、あるかよ』
『それより、お前もこれを見ろよ!』
【リーダー】と呼ばれた男は、今まで一言も話さずに立てられたカプセルを眺めるだけだったが、影から現れた者にカプセルの中身を見ろと指示する。
『どうだ!これがあれば魔王さえ殺せるぞ!』
『…………リーダー、魔王はまだ利用価値がありますし、計画に支障が出ます』
『ものの例えだ』
『…』
『これは、凄いぞ!
これを使えば、計画が楽になるだろう!
これさえあれば、ボスに近づける!』
男は話すたびに自身のテンションを上げていく。
『これさえ……これさえあれば、ボスになれ『それ以上の発言は見過ごせませんよ』あぁ、分かってる』
影から現れた者が殺気を空間に滲ませる。
部屋にいた者たちに緊張が走るが、殺気を向けられた男は、気にした様子はなかった。
男は、また静かにカプセルの中に保管されている黒い液体を見つめ始める。
『(だれか……たすけて…)』
液体の思いは、誰にも届かない…。
………………
…………
……
『グッ、くはっ!…グガァアアア!!!』
雷がいつまでも落ち続け、割れた地面は腐った匂いを放ち、枯れた木々の枝や根が動き回る。
ーーーここは、世界の東の果て……魔界と呼ばれる場所だ。
この劣悪な環境の外は円を描くように濃霧で囲まれていることで、今も人間が筆頭の反魔王派に見つからずに済んでいた。
魔王城。
1つだけある丘に、左右で分かれた双搭の城が建っていた。
右の搭の最上階に作られた部屋の中で、この世界では珍しい、黒髪の少女が四つん這いになって苦しさにもがいている。
『……くっ、身体の維持がもう保てなくなってきてる…グゥッ!?』
少女の背中や脚、腕が膨れ上がっては萎むを繰り返し、口からは紫の血を吐く!
ボコボコと動く身体は、まるで沸騰しているかのようである。
『く…薬を…』
彼女が部屋に設置されていた棚から取り出したのは濁った液体が入った黒い瓶だった。
その中身は、王都マスウェルで第1王子のマスロッチが飲み込んで怪物と化した禁忌薬であった!
『ごきゅっっ……グッ、くふぅぅぅ……』
少女の喉に濁った液体が通り、身体に染み渡ると、身体に起きた変化が止まる。
『こ…れ…以上は、理性が持つかどうか』
少女、いや……第13代目の魔王メルルは部屋の大窓から、隣の搭を見る…。
………………
…………
……
『(儂もそろそろかのぅ…)』
北の果ての極寒の地、海の孤島のザイ島の絶対零度の場所に洞窟がある。
そこには…氷の結晶が身体から生え、羽からつららが伸びきった竜が眠りを待っていた。
竜は、他の竜種に比べると小柄だが、その正体は約3000年も生きた古代の竜であった。
『(84212569…84212570…84212571
…………そろそろかのぅ…)』
『(面白くない人生であった……)』
ーーー薄く開いていたまぶたを閉じて、竜は永遠の眠りを受け入れる。
『(…………むぅ?)』
洞窟内で音がした…か?
竜が、閉じた目を開いて確かめようとしたが、すでに力尽きた身体では、まぶたすら動かせなかった。
『(そもそも…こん…な……)』
そもそも、こんな極寒の環境で生きられる生物がいるわけがない…っと思っている途中で竜は息を引き取った。
ズリ……、ズル…ズル……ポトッ
………………
…………
……
『何処へ行くのだ!』
『勇者の所へ』
『お前がいなければ、ここはどうなるかわかっておろう!?』
『……、私がいなくとも、充分に資金や人材はあると認識しておりますゆえ…』
『ダメだ!ダメだ!!
勝手は許さんぞ!ーーー聖女よ!』
『お前達ぃ!!
聖女はご乱心だ…取り押さえろ!』
聖国グオーラの9割を占める女神信教。
大教会の執務室で教皇が聖女を捕らえるように、教会直属の騎士、【聖騎士】に命令する。
『ですが…『儂の命令が聞けんのか!!』……分かり、ました』
聖騎士の隊長が、不満気に答える。
『『『聖女様、失礼します!』』』
鎧を着た五人の男女が聖女を囲み、捕まえようと迫る!
《ーーー我が子供たちよ》
『!?』
聖騎士たちや教皇が、聖女から発せられた声に驚愕し、感動に震える。
《静聴せよ》
『『『ハッ!』』』
聖女と呼ばれた女の背中から半透明の羽が形作られ、発光する!
その姿を見た聖騎士はその場でひざまづく。
『め、女神様!』
聖騎士の輪をどけて教皇が焦った様子で前に出る。
ーーーあっ、こけたわね。
《我が使徒の行く手を妨げけてはいけません》
『っ!?
で、ですが!』
《何か?》
【聖女】というブランドがいなくなると国の知名度が一気に減ってしまう!!
……とは、言えるか!!
《ーーー我がお告げに異を唱えるのですか?》
聖女の翼がさらに輝きを増す…。
『い、いえ!めっそうもない!』
《我が子たちの未来に幸あれ……♪》
聖女の翼の輝きがさらに、さらに増し、部屋全体を覆い尽くす!
『ま、眩しい!?』
『ハッ!!…せ、聖女は!?』
『おられません……』
………………
…………
……
コックロック王国、王都マスウェルで起きた悲劇!!!
新種の怪物が、王とその息子を殺す!?
第1王女マスウェル=マスラーナ、王座につくことを宣言!!!
怪物の死体は、城壁に!!
……見たい人はどうぞ。 byラーナ
ーーーっと掲示されていた号外を持って聖女は聖国グオーラの街門を離れる。
『女神なんているわけない♪ですよ~♪』
聖女は女神の存在を信じてはいない。
先ほどまでの教皇との会話は、自作自演である。
『さぁ、会いに行きますよ!勇者様!』
聖女は胸の高鳴りを抑えきれずに走りだした!
王国から勇者が召喚される!!!
勇者、魔王を倒すために旅に出る!
勇者ファンクラブ、会員募集中!
号外には、勇者の召喚についても書かれていた。
『ああああっ!?
また、やってしまいました!?』
ーーー聖女の手に握られていた、号外はベチャベチャに濡れていた……
………………
…………
……
『大精霊様!!
どうか、お気を確かに!』
龍樹海と呼ばれる場所で、長い耳と金髪が特長的な種族、エルフ達が叫んだ!
エルフ達は視線の先にいる、森の木々を押し倒しながら進む、上半身だけ女性の形をした水の塊に自らも移動しながら話かけていた。
『ワタシは、モリのシュゴシャ……』
『ワタシは、ダイセイレイィィ!!』
大精霊と呼ばれたものは、水で構築された身体を気化して、空気中に溶けていった…。
『我々は、どうすれば……』
247歳と、若いながらもエルフ達の長であるバーゴは、森の未来のことを考えて憂鬱になるのだった。
エルフ達は、大精霊と呼ばれたものが溢した最後の言葉を聞き逃す。
ーーー『ワタシは……スライム……』っと…。
………………
…………
……
『ねぇ♪コーくん!
この村がコーくんが言っていた【汚点】なの~?』
『……。
【汚点】じゃねぇよ、【オーテン】だ』
『へ~』
……こいつ、興味ねぇな?
『先に言っておくけど、この村…夜になると火事で焼失すっからな』
『へ~……えっ!?』
ーーーさてさて、どうするかね?
ブラック(この世界での偽名)は、この村から、起きる災厄を回避させるために考えを巡らすのだった。
………………
…………
……
オーテン村の周りに広がる森に黒のローブを被った者がいた。
ローブからは、赤い色の髪とルビーのように赤く光る眼光だけが見える。
『ここが、オーテン……』
『任務は、村を焼くだけ……ね』
ローブを被った者は、笑みを溢した。
そして裾からはみ出ていた赤髪を浮かして、その先端に炎を灯す。
光が入りにくい暗い森の中で、先端に灯った火の光だけが赤髪と一緒に、ゆらゆらと揺れながら、オーテン村に移動するのであった。
次回予告! 娘、現れる!?