スライムな彼女
……どうするべきか。
助けるか、見捨てるか、加担するか。
『hajpndpjt/jdapr:@emwtwt!!』
王子だった怪物は、父親を殺して、俺に倒されて気絶していた騎士団長を殺して、周りの兵士を皆殺しにした。
調子にのって俺を狙ったが最後、再生が不可能な状態にしてやった。
ーーーもう、ダメかなこの国。
『兄上……』
『…』
ラーナは怪物を見て涙を流し、安里はショックのあまり呆然としている。
『放っておいても死ぬと思うけど、どうする?ラーナ』
『兄上は、この国のために使います』
ーーーやっぱり…そうなるか。
国を維持するなら領土・国民・主権が必要になる。
主権が必要なのだ。
しかも、正統性がなければならない。
突然、姫がこれまで国を納めていた王が死に、兄も、お付きの兵士達も死んだ状態で王になると宣言するわけにはいかないしな。
『どう……俺たちはどうしたらいい?』
どうするんだ…そいつを?っと言いそうになったが、思い留める。
『ここは、私が後片付けをします。
勇者方は、魔王を……どうか!』
………………
…………
……
あの後、俺は安里を担いで王都から旅に出ようとしていた。
いや、安里?……安里さん?
何で、纏わりついているの?
安里はゼリー状になって背中にくっついている。
俺が担いで歩いていると、何かヌルヌルのゼリーみたいになってきたな~っと思っていたら、案の定、ゼリーになっていた。
つまり、スライムだ。
この小説のタイトルに、スライムっと書かれているのに、全然スライム感が無いじゃん。
タイトル詐欺じゃね?っと思った読者もいるかな?
大丈夫!
ヒロインはもちろん、スライムだよ。
前々回の【女神との邂逅】の最後に、投げたダーツの刺さった先が【スライム】だったんだ。
あの豪華な部屋で起こった惨殺事件中に、安里の魔力が切れて人の形を保てなくなる心配があったが、それは杞憂で終わった。
だけど、城から出る時には魔力が切れて、スライムになって背中から滑り落ちた。
しょうがないので、姫ラーナから支給されたバックに入れたけど、王都の街門から出る手前で安里が出てきて、背中に登ってきた。
『えへへぇ……コーくんの背中、固~い♪』
『おいコラ!
何、シャツの中に入ってるんだ!』
やばい、ショックで気が狂ったか!?
『あの時は、カッコ良かったよ~♥️コーくん!』
俺の戦いぶりがカッコ良かったで済むなんて、頭までスライムになったか?
『ーーーって、口を覆うな!』
『チューしちゃった♥️』
こんな街中で、スライムの身体を出すんじゃない!
さすがに亜人も受け入れているこの国も、スライムは魔物指定だ。
この世界では、テイマーという者はいるが、許可証が無いと街に入れない。
許可証が無い人間が魔物を連れていると、その魔物に、どんなに懐かれていても襲われている扱いになり、討伐対象にされる。
テイマーは信用が必要とされていて、冒険者ランクがC以上でなければならない。
Cランクは最低でも1ヶ月はかかるみたいだし、スライムな彼女がこんな街中で見られたら大問題になる!
………………
…………
……
『コーくん?どうしたの?』
スライムの彼女は、器用にスライムの身体をイヤホンのように、俺の耳に着けて自分の声を届ける。
今は、魔力を温存中だ。
人の形になれる時間は約30分くらいみたいだし。
『コー……くん?
私を袋に詰めてどうする気?』
『コーくん、コーくん。
暗いなぁ~……あれ?土を掘ってない?』
俺はスライムの安里を引き剥がし、袋に入れる。
そして、王都で買った安い剣をスコップ代わりに宿の前の庭の土を掘る。
『コーくん……まだ、怒ってるの?』
『男の人は、大きなほど良いってママに聞いてたんだけど…?』
『次にあれをやったら埋めるぞぉ~♪』
『いやいや、埋めてない!?
私、埋められてない?』
『…』
『あれっ!?まさか、部屋に戻っちゃった!?』
ーーー20分前。
あれは、姫から支給された物資と馬を連れて、山を越えた街、カンターミに訪れて門番に検問されていた時。
『怪しい物は無いな…』
『なら次は、身体検査です』
この世界の門番は、男女で1人ずつのタッグで検査するのが主流だ。
『どうぞ』
門番の男が俺の身体を下から軽く触れていく。
『コーくん!私どうすればいい!?』
ーーーあっ、やべ。
背中には、スライムの安里が引っついている。
今、門番は腹から胸を触っていって、次は背中に移る。
『安里、俺の脚に移動しろ(小声)』
『分かった』
安里が滑るように移動する。
『よし!終わりだ。
……?右脚だけ太くないか?』
『むくみが、ひどくてな』
『触らないで!』
ズボンの上から門番が脚に触れると、安里が叫ぶ!
『あ、えーと、脚が痛くて…触らないで欲しいなぁ~』
『……なら、少しだけめくってみてくれ』
ーーー怪しまれている…。
……でも、めくるしかない!
『……。
むくれてないじゃないか』
え?
『あ、本当だ……』
安里は、めくると同時に移動したみたいだな。
ーーーでも、どこに?
『へ、変態!!』
女性の門番が、俺を変態呼ばわりしてくる!
えっ、俺?
門番の女性の視線は、俺の股間に刺さっている。
ーーーいやいや、君が変態だろ…。
そう思いながら、股間を見てみると……
ズボンがテントを張ったように膨らんでいた!
『あ~……。
この街の店は、夜の8時に開店するぞ』
『南のあの主張の高い店だ』
『あはは…、ありがとうございます』
『もう、いいぞ。
……すまなかったな』
『いえいえ、お気遣いさせてしまいすみません』
そこには、男同士の優しい世界があった。
お互いに相手を気遣い、交わす言葉は少ない。
そして俺は静かに、そのそびえたつ棒状のそれを半ばで折って、街に入るのだった。