ただいま!異世界!
俺たちの周りでは、血の海が広がっている。
洋風な甲冑を着た兵士と思われる者たちが壁にめり込んでいたり、胸に穴を空けて死んでいる。
『やりすぎたかな……安里?』
『……』
あっ、やべっ…。
あまりにムカッっとしたから、安里のことを考えずに殺ってしてまったな……。
………………
…………
……
俺たちは強制転送されたあとに、豪華すぎる広間に立っていた。
『マーくん、こ、ここ……どこなの?』
安里が震えながら話しかけてくる。
『大丈夫だ、ここには何度も来たことがある。安心しろ安里』
『おい!お前たち!
父上のありがたいお言葉を聞かないか!』
……イラッ
『うるせぇぞ…ゴミ虫』
『ヒィッ!?』
ーーーあー、殺気を漏らしすぎたな。
……このゴミが失禁してしまった。
『よい、ロッチ。
俺は、この者と話しているのだ』
『は、はい!父上!』
俺たちより上の位置に取り付けられた豪華な椅子には、愚王 マスウェル=マスモードが座っている。
ーーーこいつが俺を騙して、魔王討伐を魔王軍の討伐と偽り、俺をこの世界に約30年も繋いでいたんだよな?
……殺してやろうか?
いや、ダメだ。
俺の横には、故郷で結婚していた安里がいる。
……ここで、問題を起こすわけにはいかない。
『お主、俺の話は聞いていたか?』
『あぁ、聞いてたよ。
要は、娘を呪いから助けるために魔王を倒せばいいんだろ?』
『魔王を倒すには、その配下と配下の部下も倒さないといけない』
ーーーハッ!配下?部下?
そんなものいないのは分かってるんだよ!
どうせ、このコックロック王国の勢力を広げるのに勇者の力を利用したいんだろ?
残念!俺は、すでにお前たちの企みは気ずいてる!
『…金を寄越せ。
今から魔王を探しに行ってやるよ』
『き、貴様!父上に向かって何て言い草だ!』
はぁ~…。
『ーーー誰がお前と話していた?』
『ガァ!?ぐ、苦しい……』
俺の凝縮された威圧を受けた男が、過呼吸になって倒れてしまう。
『コーくん!?
コーくん!やめてあげて!』
この愚王にして、この息子ありという説明がしっくりくるこの男は、王の一人息子、第1王子マスウェル=マスロッチだ。
王族で戦争の指揮を任されたら、敗けると思い始めると即撤退を強制し、敵軍が迫って来ると指揮権を近くの兵士に勝手に押し付けて自分は真っ先に逃げるということを、こいつは初陣から、ず~としてる。
周りの国々や、果てや自軍の兵士たちにまで、マスロッチが出るとその戦は敗戦となるっと噂されるほどだ。
さらに、性格も悪く。
同じむじなの黒い貴族と夜な夜な闇オークションを開いて、亜人や貧民層の子供を人身売買しており、さらには、王室や軍に支給される物の横流しまでしている。
……前回では王国にクーデターを起こして
、王を殺し、国を乗っ取ろうとしていたが、この国の姫の依頼を受けた俺や仲間がそれを阻止した。
確かそのあとに投獄したが、隠していた禁忌薬を飲んで怪物になり、脱獄。
隣国ザラマーラで、Sランクの魔物として討伐されていたな…。
『勇者様。
兄上の非礼をどうか許してくれませんか?』
顔を薄い布で隠した女の子が王の左横から一歩前に出て頭を下げる。
『……分かった』
この子が、マスウェル=マスラーナ、第一王女だ。
魔王討伐、勇者召喚の原因はこの子にある…。
彼女は、初代魔王アゴールの呪いをかけられた祖先の血を強く受け継ぎ、その額には2本の黒い、ツヤツヤした触覚生えている。
先端には羽のような毛が少し生えた触覚は、正直言って……虫のようだ。
ーーーだが、少し膨らんだ胸に控えめな身長、色白な玉肌に小さくも綺麗な紅色の唇、まつげの長さが印象的な緑色の目がそのベールに隠されている。
俺、前回ではこの呪いを治すための魔王討伐の途中で求婚されて、結婚&子供も作っているんだよ。
つまり、俺は童貞ではない!
ちなみに、呪いの触覚が出たものが王の資質をがあるとされており、愚王も小さな触覚を生やしている。
『勇者よ、お前の実力が分からん以上、金を渡して外に出させるわけにはいかん』
ーーーおっと、脱線してしまったな。
俺は前回では1ヶ月近くこの国で鍛練をして、魔王討伐の旅に出たんだったな。
『なら、試してみるか?俺の実力を』
『……。
騎士団長よ、勇者と戦え』
『ハッ!』
うわっ、最初から最強戦力で来るか…。
『コーくん!?
あんな強そうな人と戦うのは無茶だよ!』
大丈夫、大丈夫。
俺は、安里を宥める。
『…それでは、行かせていただく!』
騎士団長と呼ばれた男が剣を構えて俺に迫る!
『なっ!?』
俺は、振り落とされた剣を人差し指と中指で挟む。
そして、折る!!
『ミスリル合金で出来た剣が!?』
あっそ…
『はい、はい、はい!』
俺は騎士団長の頬を右、左、右と平手打ちして、最後に…
『とどめだ!』
アッパーをくらわす!
騎士団長は頭を揺らされて倒れる。
……この団長はLv.30になって、やっと倒せるくらいに強かったよな。
ーーーちなみに、今はLv.1655だ。
まぁ、今はその10%くらいしか力を出せないけどな…。
『……勇者の力は、示しただろ?』
『…』
俺は愚王を見つめるが、反応はない。
安里はポカンっとしていて、口が閉じれていない。
『騎士団長!騎士団長トナー!
何をしている!?早く、立てよ!』
マスロッチが叫んでるが、騎士団長はもう立てはしないだろう……。
『……次は、お前が戦うか?マスロッチ』
『な!?貴様!
この俺に向かって、呼び捨てだと!?』
『……い、いいだろ!俺が直々に指導してやる!』
『やってみろよ、マスロッチ』
『マスロッチ様だ!!』
ーーー10分後。
『そ、そんな…。
この俺が、この俺様が動けないなんてぇぇ!!!』
こいつは10分間、俺の殺気を受けて動けないでいた。
マスロッチは、王に向かって叫ぶ!
『ち、父上!
召喚時の勇者は、人より少し強いだけな素人のはずですよね!?』
普通ならな。
『勇者よ、愚息がすまなかった。許せ…』
ーーー本当にな。
10分間も息子との戦いを上から見ていやがって、この愚王…。
『なら、金を寄越せ』
『分かった。
だが、監視役として娘のラーナを連れていけ』
姫が頬を赤くしながら、こちらに向かって歩いてくる。
余談なんだが、前回でラーナと結婚した際に、召喚された俺に一目惚れしていたと話された。
さらに余談なんだが、この国を築き上げた初代国王はマスウェルという平民だ。
マスウェルが王になった際にマス=ウェルと改名したことから、王族は代々、名前の前に【マス】を入れており、王族の間では【マス】を取り除いて話しているそうだ。
『……分かった。
金も貰ったし、俺たちは魔王を探しに旅に出る』
『よかろう。行け、勇者よ!』
ーーー言われなくても、こんな国からは、おさらばさ。
『ーーー待てぇ!!』
……ん?
『俺との勝負は、まだついていない!』
『何言ってるんだ?『この薬を飲んだあとが俺の本気だ!!』……は?』
何で、あの薬をすでに持ってるんだ!?
『ぷはぁ!……ちがらがミナギヅ、デ、グルゾォオオオ!!』
『ロッチィ!!その薬は、実験段階の試作品だったはず!』
『何故!お前が持っている!!』
ーーーはぁ!?
あの薬は国が作っていたのか!?
『ヂ、ヂヴエ。
オレノ、シンノ、ヂガラヲ、ミデグレ!!』
もう、怪物化が進んでいるだと?
前回は、国から逃げるまでは人間のままだったと報告に残っていたが?
『お、王子!私は違っ…ギャアアア!!』
『な…何故、我々を!?』
『デギ、デギ@agldmdmupamwtagp!!』
ーーーチッ、……判別もつかずに周りの兵士を殺してやがる!
『安里!ラーナ!
俺の後ろにいろ!』
兵士は逃げた者から仕留められる。
『王の命令である!この怪物を倒せ!!』
ーーーへぇ、見直したな。
いや……、元から息子に情なんてなかったな?
『ヂヂ、ヴエェ。……と、父さん』
あ、人格が戻ったんじゃないか?
試作品だったし、治ったのかも……
『やれ!何をしている!この怪物を殺せ!』
……え。
『ド、どうして、ドオザァァン!!』
『殺…やめろ!…グガァ!?』
愚王、死す。