Ⅶ 引き取り
あの後、目を覚ましたナナリアはマルス公爵に証人として引き取られていった。
カルドネル伯爵領にあった施設も公爵の根回しにより明白の元となり伯爵は言い逃れできない立場となった。
カルドネル家は帝国からの追放を言い渡されそのいくつかの領地は公爵家の物として扱われることとなった。
しかし、あの施設の利用法は分からず令嬢の一人であるナターシャも死亡者として処理されていた。
そんな帝国貴族内で多くのなぞを残し勢力図を塗り替えた事件は終息し俺の預かる仕事も一区切り付くはずであったのだが…
「私もここで働かせて下さい!」
セリカの声が壁に共鳴する。
「俺の仕事はお前を一週間預かる事だけだ」
「へへっ、面白い事になりそうだな」
この場にいるのは俺の他にセリカ、カルナ、そしてセリカを引き取りに来た現・空の聖女シャナクリアである。
「妾の所はいっこうに構わんのだがな」
シャナクリアは100は優に越える年齢であるにも関わらず艶のある肌と若々しい顔を持ち女性らしさを引き立てるプロポーションを保ち続けている。
その理由は尖端のある特徴的な耳が語る。
「そもそも聖女にしようとしたのも、こやつが狙われておったからの。それなりの影響力を持たせれば手を出しにくかろう。」
「その節は動いていただきありがとうございました。」
「別に構わんよ、お主がやりたいようにすればよい」
「でもよ、次期聖女として事を進められるしそもそも、狙われてる時点で実力は有るんじゃねーの?そんな人間が抜けて良いのかよ。」
「確かにセリカは類い希なる実力を持っておるの」
聖女となるにはそれ相応の治癒の力が無いと選ばれることはない。
セリカが大きな力を持っているのは間違いないだろう。
「私は教会内の影を感じていました、レノさんの見たもの感じたものを学びたいのです」
「そんでよ、結局あいつらは何を創ろうとしてたんだ?こいつの力まで使おうとして」
「それに、本来は教会にセリカを守る務めがあるはずだ。それを無視してここに預けに来たって事は何か知ってるんじゃないか?」
教会内には置いておくことができなかった状況だったのだろう。
そしてカルナがあの施設の利用法を何かの創造であると結論付けたのはアレと似た物に立ち会ったからだろう。
「あぁ、別派閥の連中がパトロンを付けて企てていたようでの。聖女を量産するなどぬかしておったわ。」
「はあ?あれが聖女を創る施設だと?」
「カルナの言わんとすることは分かる。だが、あいつらにとっては治癒の力があれば何でも良かったようだぞ」
「あ、あの、治癒は光魔法のはずでは…あそこはまるで」
設備を使い行われていた事を思い出しているのだろう。
確かにあの惨劇を見れば癒しを与える光魔法とは程遠い物を感じる。
「セリカは知らないかもしれないが治癒はどの属性の魔法でもできる、炎魔法であっても少しばかり跡が残ることもあるが治癒は可能であるの。」
シャナクリアの言う通り光魔法は治癒に適しているだけであって他の属性でも生命をを癒すことはできる。
その事が周知されていないのは、それを隠すことで利益を得る人間がいるからだ。
「そうだぜ、現にそこにいるレノが使う魔法は光とは違う。」
「おい」
カルナがにやけた顔を向けてくる。
「そ、そうなんですか?!」
「うむ、レノは時空魔法によって治癒を与えてきておった。」
シャナクリアもカルナに続く。
「時空魔法……神代の人々が使ったとされる最高位魔法、ですがその秘術は失われ伝承上のみの代物だと書物で読みました。」
「その通り、良く修学しておるの」
「お前ら、何のつもりだ要らないことを吹き込むな」
「どうせセリカはここで働くことになるんだ、知っといた方がいいだろ」
なぜコイツは既に決まったことのように話を進めているんだ。
それにシャナクリアも引き取りに来ただけのはず。
なんで長居してるんだ。
「ここにいて良いなんて一言も言ってない」
「働かせてください!」
「だめだ」
セリカがまっすぐに見つめてくる。
コイツもここから飛び出したくせに今はこんなことを言っている。
何が琴線に触れたと言うんだ。
「シャナクリアはやく引き取ってくれ」
彼女はセリカをもう一度見ると口を開いた。
「しかし、セリカにはその気が無い様だぞ?」
「気持ちだけでここにいて言い理由にはならない」
「まぁ、そう邪険にするでない。まだセリカの巻き込まれた件の謎は残っておる、この者が聖女の位を次ぐ意思が無い限り安全とは言えぬのだ。教会にいてもまた狙われるだけと思っての。」
こいつらにどうこう言われても俺はここに誰も置くつもりは無い。
「おい、カルナのとこで預か……」
カルナの方を見るが姿が見えない。
さっきから話に入ってこないと思ったらすでに立ち去っていたようだ。
■
レノの情報からすると今回関わっていたモノはどう考えても人間の手に負える代物ではない。
すぐに壊す判断へと移行した事からあれで終わるとも考えにくい。
うちの連中をかき集めて警戒させとくか。
「お前ら、外から来る連中の警戒を強めとけ」
「はっ!了解しました!」
そう言い残しカルナは自室に戻っていった。
第一話はここで終わりです。
他の話を何個か並行で書いているので第二話以降は少し開くと思います。