Ⅴ 地下
俺は尋問を終えると再び歩きだした。
後ろに黙って付いてくるセリカから何か言われるかとも思ったが、顔をしかめつつも始終俺の行動を見ているだけであった。
男から手に要れた情報は些細なもので、俺の予想と違わずこの元孤児院には何やらあるようだ。
奥に進むと人間が一人入れる位はある卵のような形をした機械がいくつもある。
その中には液体が充満し人間が浮かべられていた。
そこには行方不明であった聖職者たちの姿も確認できた。
「ひどい…こんな」
セリカが見る方は機械に入っている人間とは別の用途なのだろう者たちがいる。
部位ごとに取り分けられたそれは生命を感じられなかった。
「あまり騒ぐなよ」
恐らく資料の一つくらいは置いてあると思うが……
この施設、俺の予想が正しければ早々に対処する必要がありそうだ。
進んでいくとこの空間はかなり広いようで力の入れようを感じる。
人の入った機械は5列並び部屋の奥まで続いている。
一つ一つに番号が付けられ一の番号から始まる列から次の列には五一の数字。
全てに入っているとは思えないがかなりの量を用意している様だ。
付いてくるようにセリカへと指示を出すため後ろを振り向くと一つの容器にくぎ付けとなっていた。
中には一人の女性。
調べた教会内での失踪者の一人だったはずだ。
「ナナリア…」
セリカの表情を見るにそれなりに親しい関係だったかもしれない。
恐らく俺のもとに来た時にあれほど取り乱した要因だろう。
その手はゆっくりと容器に近づいてゆく。
「おい!」
俺の声も届くことはなくその手が触れる。
触れたのと同時に辺りに警戒音が鳴り響く。
セリカはその音で我に返ると俺の姿を探す。
「こっちだ!」
俺はセリカの手を引き走り出す。
「ごめんなさいっ…」
そう謝るセリカの目の先は今だ容器を目で追っている。
「侵入者を見つけた!応援を頼む!」
統率のとれた兵たちが集まってくる。
装備は異なるがその動きは訓練の受けた一等の兵である。
伯爵家騎士団からも要員があてられている可能性が高い。
兵の動きは俺たちを包囲し盾を構える。
包囲が終わると同時に鎧を着た魔導士が牽制として魔法を打ち込んでくる。
この装置に入ってる人間の生死が判断できない以上、戦闘は避けたかった。
しかし、ここを脱出するためにはこの包囲網を切り抜けるしかないだろう。
俺が悩む内に次々と魔法が打ち込まれる。
しかし、その魔法は何かに衝突したかのように標的に当たる手前で消えてしまう。
その光景に兵士たちは多少困惑を見せたがすぐさま指示をだす。
「目標の撃破は不可能!直ちにルート確保に回れ!」
それを受けた兵たちは筒状の魔道具から白い煙を出し地面に転がすと盾を構えながら撤退していった。
その潔さに少し違和感を覚えると地が揺れ空間を支える支柱が割れ始めた。
「おい!逃げるぞ!『異門』」
俺は魔力を込め通路を繋ぐ。
「でも!」
セリカの目にはナナリアという女が映っている。
「……」
この状況で資料の確保は望めないと思ったが連れて帰るのも良いかもしれない。
『空切』
目の前の容器がバラバラとなり中身が飛び出る。
「ナナリア!」
それをセリカは受け止め抱き締める。
「はやくこい」
セリカにそう言うと繋げた向こう側へと歩いた。