Ⅳ 侵入
「何で気が変わったんですか」
今、俺たちはカルドネル伯爵領にいる。
高く日はのぼり街中で商人たちが賑わう。
地は形の良い石で整えられ歩を進めるたびにコツコツと小気味良い音が鳴る。
うちの街ではあまり見ない種類の表情が活気を持たせる。
「無視しないでください」
調査に連れてきたセリカが文句ばかり言う。
「何回も言っただろ依頼のついでだ」
「それと、あの魔術は何ですか。聞いたこともないです」
セリカはここに来た時に使用した魔術のことを言っているのだろう。
『異門』 世界の点と点を結ぶ術
馬車で3日以上ベレトラと距離のある伯爵領にセリカごとそのまま連れるのは気が休まらない。
そこでここまで転移してきた。
連れてくるまで、さんざん問いただしてきたから答えたが今だ彼女の中では整理しきれていないようだ。
俺は無視してそのまま進み目的地に到着する。
「…孤児院?」
セリカが疑問の声を上げる。
ここは教会の所有する孤児院であり失踪事件の最初の被害者たちがいた場所である。
中は誰もおらずもぬけの殻だ。
「誰もいませんね…」
俺は教会関連の建物に置かれている天使像の翼に触れる。
すると天使像が背を向ける壁が薄まり通路が現れた。
「聖隠道ですか」
教会の所有する建物には大抵逃走用の通路が作られてある。
なんの名前にも聖と付けるのも見慣れたものだ。
「離れるなよ」
俺は暗闇へと踏み入れた。
しばらく階段が続くと吹き抜けに大きな広間へとたどり着いた。
そこには刃物を持ち俺らを凝視する輩に囲まれたところであった。
「へへっ、本当に向こうからやってきたぜ」
「ああ、ボスの言う通りだったな」
男たちがじりじりと近寄る。
後ろを見ると入ってきた道は塞がれ退路を断たれる。
男どもの台詞を聞く限り俺達の動向は知らされていたよう。
いや、考えるまでもないか、首謀者と思われる者の娘が依頼を持ってきたのだ。
そう言うことなのだろう。
こんな単純な罠に掛かるのは久しぶりである。
それもこれも取引にあいつらへの手向けがあったからか。
いずれにせよ目の前の奴らを処理する必要があるだろう。
ここを守るように配備されている連中のさきにはそれらしい情報もあるだろう。
さっさとここを抜け街の誰かにでもここの情報を売るとしよう。
「へへっ、びびって固まっちまったか?」
男の中から一人が歩みでる。
その手には剣が握られちらつかせるよう距離を詰めてくる。
横からもじりじりと他の連中が詰め寄る。
「後ろの女はちゃんと預かるからよ」
そう言って男は剣を振り下ろす。
『消失』
しかし、その剣は振り下ろされることなく男の肩からごっそりと消える。
「え?」
目の前の男は状況を飲み込めずふらふらと後ずさると尻餅をつく。
腕を一本無くしたことで上手く重心を取れないのだろう。
「う、うああああ!」
何が起きたか理解ができてはいないだろうが、己の腕が突如として失われた事への恐怖がコイツを叫ばせたのだろう。
「誰か!やっちまえ!はやく!」
男はそうやって周りに指示を出すが誰からも返答はない。
代わりに男の目に入ったのは首の消えた仲間であったものだった。
理解できないこの状況から、立ち上がり逃げようとするが力が入らない。
いや、力を入れる部位が消えていた。
「お前から色々聞きたいことがある。」
俺はそう言うと最後の一人を引きずっていった。