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第3根橋砦へ

リーフ適性試験の結果を受け、老師はエマとウィルを連れ王のもとへ急ぐ。

一方第3根橋では戦況に異変が起きていた。

 エマとウィルが老師に連れられ王の元へ向かう頃、王城の作戦室では慌ただしく戦議が行われていた。


 作戦室の端に置かれた世界樹製の大きな箱形の通信機には、中に緑のリーフが詰められており、通信兵が祈りを込めて操作している。通信機は王城と各根橋砦に設置され、緑のリーフで起こす風にのせて声を伝達する樹法により戦況を共有していた。通信兵が叫ぶ。


「第3根橋砦より報告! 第3根橋南側より魔族軍の進行を確認、その数およそ……5000!」

「なにっ……」


 白ひげの将軍も動揺を漏らしたが、気を取り直して言った。


「ぬかった、第2根橋の急襲は陽動であったか。第2根橋へ援軍を回し、本隊から人員を追加するまで手薄になった第3根橋の僅かな隙を突かれた。王よ、いかがなさいますか。本隊から2万の援軍が第3根橋へ到達するまであと1日、砦を守る1万の兵で持ちこたえなければなりません。強靭な魔族には少なくとも5倍の人員で当たるのが定石、倍ではとても敵いませぬ」

「ふむ、そうじゃな……」


 白ひげの将軍に劣らず立派な体格をした王が思案していると、老師がエマとウィルを連れ作戦室に駆け込み、王に言った。


「王よ、戦議中失礼します、急ぎ報告したいことが――」

「おお賢者ジールよ、ちょうど良いところに来た。緊急事態じゃ、報告は後にして知恵を貸せ」


 王は老師――賢者ジールの言葉を遮り、戦況を説明した。ジールは少し考えて答えた。


「……わしならば秘術"飛行の樹法"で2刻もあれば戦場に着きます。姫様とこの者を連れ、すぐに現地へ向かいましょう。我らと砦の1万の兵で1日持たせます」


 白ひげの将軍が驚いて口を挟んだ。


「かの賢者ジールとはいえ今は一線を退いた身、たった3人の援軍で1日持たせるなどどういう冗談だ!? 敵は5000だぞ……」


 王が将軍をたしなめ言葉を遮った。


「待てグランド。ジールよ、そなたのことだ、勝算があるのだろう。しかしエマは……」


 白ひげの将軍――グランドは押し黙り、王は我が娘を心配そうに見た。ジールは王の不安を拭うよう力強く言う。


「急ぎ報告に参ったのは姫様とこの者の資質の件でしたが、戦場で力を示した方が早いでしょう。姫様の御身にはわしの命に替えても傷付けませんし、必ずや吉報をお届けしましょう。では!」


 ジールはエマとウィルを連れ作戦室を後にし、自室へと急いだ。


「ちょっとちょっと、どういうこと、話が見えないんだけど!」


 早足で進むジールを追いかけながらエマは聞いた。


「申し訳ありません姫様、戦況は聞いての通り一刻の猶予もありませぬ。第3根橋へ向かいながら話しましょう」

「何で私とこいつも行くわけ、資質って何!?」


 ジールはエマの質問に答えず自室の扉を開けると、部屋のすみの大きな箱から長い箒を取り出した。箒には大きな壺がぶら下がり、中には緑のリーフが詰まっている。


「これは世界樹の枝でできたわし専用の樹法具です。これで第3根橋まで飛んでいきますぞ、わしの後ろに股がってくだされ」

「えっ、飛ぶって本当に飛ぶんですか、空を!? しかも箒で……?」


 ウィルは驚いた。エマは飛行の樹法を知っている様子で、ウィルに得意気に話しかける。


「あんた老師のこと知らないの? この世でただ一人の飛行の樹法を使える大賢者よ。私も一緒に飛ぶのは初めてだけど」

「……何だ、自分も飛んだことないんじゃないか」


 ウィルはつい無礼な口振りで呟いてしまったが、エマは気にしていないようだった。


「さあ準備ができましたぞ。しっかり捕まって。樹法で風圧は抑えますが、衝撃まではどうにもなりませんからな、それっ!」


 ジールが祈りを込めると箒は浮かび窓を飛び出し、一気にスピードを上げて飛んだ。初動の強い衝撃に耐えた後、慣れてきたエマは歓喜の声をあげる。


「すっっっごーい!何これ、景色が後ろに消えていくみたい」

「ホントだ、機関車よりもずっと速い……!」


 ウィルも驚きながら言った。ジールがエマに声をかける。


「さて姫様、先程の質問ですがな」

「え、何だったっけ?」

「2人の資質の件です。本来であれば詳しく説明し訓練を積むところですが、事態が事態ゆえ、実戦で理解していただきます。時間がないので、まずは姫様から。ウィルは現地に着いてからじゃ、わかったな」

「はいっ」


 ウィルはリーフ適性試験で光が出ず落胆していたが、何かすごい資質がありそうなジールの反応に気を取り戻し、期待していた。またあの激しい戦場で、自分にも何か出来るのなら。人の力になり命を守れるのなら。どんな資質だろうと使いこなして見せると意気込んでいた。


 ジールはエマに説明を始める。


「姫様は、リーフ適性試験の結果、七色全てに適性があることがわかりました。これはわしの知る限り樹教国の建国者ユニオン様以来史上2人目です」

「えーっ、私超すごいのね!」


 ジールはエマの軽さにやや呆れつつ、続けた。エマもウィルも七色全てに適性があることの凄さがあまりわかっていない様子だった。


「伝説ではユニオン様は七色のリーフを手に、民の樹法の力をより一層高めたと言われております。わしの予想が正しければ……」

「私の鼓舞で皆が強くなるってことね!」

「さすが姫様、察しが早い。今回の戦況を覆すには1万の兵を3万の兵にするほかない。人員が足りないならば、各兵を3人力に強化すれば良いのです、姫様ならば必ずやできます。さあ、そろそろ着きますぞ、砦の屋上に降ります、衝撃にお気をつけを!」


 上空から砦よりやや前方から魔族が進行してくるのが見えた。樹教国軍も砦前に展開している。開戦が近い。

 3人が第3根橋砦の屋上に降り立つと、大隊長が駆け寄ってきた。


「賢者ジール様、王城より通信を受けお待ちしておりました、早速中へご案内しましょう」

「それには及ばん、我らはこの屋上から支援する。すまんがすぐに全色のリーフを1箱ずつここに運んでくれんか」

「承知しました、すぐに運ばせましょう。では失礼」


 大隊長が階下に駆け降りていくのを見送り、ジールはエマとウィルに振り返って言った。


「さあて姫様、ウィル、奴等に目にもの見せてやりますぞ」


 久しぶりの戦場に、底知れぬ資質を秘めた2人を連れ、ジールは興奮を抑えきれず不敵な笑みを浮かべた。

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