リーフ適性試験2
いよいよエマとウィルはリーフ適性試験に臨む。
果たして2人の適正は……
扉の奥は世界樹の幹をくりぬいたトンネルだった。道は薄暗く、世界樹の幹がほんのり淡い光を放っている。歩きながら老師は説明を続けた。
「樹法を使うには、まず自分がどのリーフを使えるのか知らねばなりません。それを調べるのがリーフ適正試験です」
老師はどんどん先へ進んでいく。ウィルはいったいどこまでこのトンネルが続いているのか少し不安になったが、エマは逆にわくわくしているようだった。老師は続けて言った。
「どのリーフを使えるのかは、その者の血筋や意志が関係していると言われます。樹法を使う際には意志と生命力を込めるということはご存じですな。リーフは人の意志を感じ取り、生命力を糧にその意志に沿った奇跡を起こすのです」
その後も老師の話は続き、3人はどれほど歩いただろう、老師は足取り軽く進んでいくが、エマはやや疲れ始める。ウィルはこの老師はただ者ではないと思った。
「さて、着きましたぞ」
トンネルを抜けると急に視界が開け、ぽっかりと大きく空いた空洞に出た。中心には七色のリーフが入った釜のような窪みがある。
「ここは世界樹の幹の中心にある"うろ"です。この窪みの前に立ち意志を込めると、適性のあるリーフが輝くのです。まずはわしが手本を見せましょう」
老師が窪みの前に立ち、数秒の瞑想の後に手をかざすと、窪みから赤、青、黄、緑の光が立ち上り、半数のリーフが消滅した。老師はリーフを継ぎ足しながら言う。
「今のでわしの適性は赤、青、黄、緑の4色のリーフにあることがわかります。自慢ではないが4色も適性があるのはわしと国王シーザー様くらいのものです。通常は1色、良くて2色ですな」
得意気に話す老師に、エマは顔を背けこっそりつぶやいた。
(思いっきり自慢してるじゃないの……)
「それでは姫様、試験にお臨みください」
エマは窪みの前に立ち、強く意志を込めた。
(世界樹とこの国のため、私は必ず魔族を討ち滅ぼす……!力を貸して、世界樹!!)
すると窪みから眩い七色の光が立ち上った。あまりの眩さに3人は目を覆う――
その輝きは薄暗い長いトンネルを半ばまで真昼のように照らすほどだった。窪みのリーフは全て消滅している。老師は驚きに息を詰まらせながらぶつぶつと呟いた。
「これは……まさしく世界樹の申し子じゃ……わしは姫様の教育を誤っておった……座学などしておる場合では……」
「ねえ、これってどうなの? もしかしなくても私すごいんじゃない!?」
エマは興奮しながら老師に尋ねた。老師は気を取り直して話す。
「姫様、これは一大事ですぞ。すぐにシーザー様に報告に参りましょう」
「あのー……自分も試験を受けたいんですが……」
逸る2人に遠慮しながらウィルが割り込んだ。自分だって覚悟してここへ来た。今の光がすごいことは素人のウィルにもわかったが、試験を受けずには帰れない。
「あー、お主もおったの。ほれ、早くやれ」
老師は興味うすげにリーフをばさっと窪みに入れた。ウィルは気にせず窪みの前に立ち意志を込め始める。
ウィルは第2根橋で聞いた、樹法の凄まじい力で焼き裂かれる魔族の断末魔を思い出した。
リーフが人の意志を感じ取りそれを叶えるのなら、自分はあの断末魔を心から望むことができるのだろうか。魔族も生きるために戦っていることは知っている。多くの負傷者や疲労困憊の治癒者の詰める治癒室もまた間違いなく戦場だった。
願わくば、故郷を救った憧れの騎士のように、守りたい。せめてこの手にふれる命を、争いから。
(そうだ、オレが願うのは魔族を焼き殺す力じゃない。みんなを守る力を……よこせ、世界樹!!)
突然窪みのリーフは全て色を失い、効力を失った。ウィルはわけがわからなかったが、光が出ずひどく落胆した。エマはぶっきらぼうに言った。
「何これ。何の適性もないってこと?」
老師は黙っている。エマの試験結果よりも動揺し、驚きのあまり声を失っていた。
(なんと……ダンカンめ、なんて小僧を寄越した……破壊王?……冗談にならんぞ)
「すいません、老師。お手間をとらせました。自分は急ぎ任務に戻りますね」
ウィルが自分に適性がないと思い申し訳なさそうに帰ろうとすると、老師が呼び止めた。
「待て小僧、いや、ウィルじゃったな。お主も共に来い、国王に報告へ参るぞ」